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ASEAN:民間が主導する統合医療ネットワーク(IHN)飛躍(2/6 ページ)

ASEANの民間ヘルスケアセクターではどのような構造的変化が起こっているのか。

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Roland Berger

 この層の特徴は、「新興国」から「先進国」への渡航が多く、需要が「自国の医療水準」によって決定されることだ。富裕層が中心のため、たとえマクロでの経済水準が先進国レベルになくとも、医療水準が高まれば渡航患者は減少する。例えば、フィリピンは経済水準としては新興国に分類されるが、医療水準は十分高いレベルにあり、結果的にメディカルツーリズムは少ない。

1.1.3 「自国では受けられない」医療を求める患者(「ニッチな医療」型)

 3つ目の患者層は、規制や医療設備などの問題で、自国では受けられない医療を求めて海外に渡航する患者だ。典型的には自国で未承認の医薬品を使用するようなケースで、近年では新型のC型肝炎治療薬を求めて海外に渡航する患者などが挙げられる。がんの重粒子線治療のように、特定の国でしか受けられない医療を求めて渡航する場合もある。また、韓国やタイの美容整形のように、特定分野での高い技術を求めて渡航する場合も該当しそうだ。

 この層の特徴は、渡航元/渡航先に「先進国」「新興国」の区別がなく、需要が「規制や医療設備」によって決定されるということだ。書くまでもないが、未承認薬を求めるメディカルツーリズムは、当該医薬品が承認されれば渡航する必要はなくなる。また、どの国も国民の多くが必要とする医療はそろえていくので、基本的にこのセグメントはニッチな需要セグメントである。

 以上の3つの患者セグメントそれぞれについて、今後の需要動向を評価してみよう。

 「先進国から新興国」型の需要は、基本的には米国の医療制度いかん次第だ。米国以外の先進国は、おおむね保険制度が整備されているため、大きな需要は見込めない。米国においても、トランプ大統領就任後に「オバマケア」の見直しが進められているが、その方向性は、「全ての国民のための保険」として見直すということであって、無保険者を増やすことではない。ここで米国の医療制度の行く末を論じるつもりはないが、当セグメントの需要が「2桁で成長する」可能性は低いだろう。

 「新興国から先進国」型の需要はどうだろうか。当セグメントがメディカルツーリズム市場の成長の鍵となることは間違いない。新興国の医療インフラが急速に改善するとは考えられない。一方で、保険制度の整備が進めば需要が停滞する可能性はある。インドネシアは2019年までの皆保険化を目指しているが、これまでどうせ自己負担だから、と海外に渡航していた患者のうち、国内では医療費償還が受けられる、となれば渡航を控える患者がいたとしても不思議ではない。

 「ニッチな医療」型の需要は、今後も分野を変えながら残るだろうが、その名の通り、市場全体のけん引役とはなりえない。

 こうしてみると、メディカルツーリズムの将来は決してバラ色ではないし、冒頭でIHHやBDMSが述べている「メディカルツーリズムの鈍化」は決して一時的なものではない、と見るのが妥当ではないだろうか。トランプ政権発足以降、中東の患者の米国渡航が困難になり、結果的にタイやマレーシアへのメディカルツーリズムが盛り返している、と聞いている。2017年決算は、こうした追い風によって一時的に市場が回復することはあっても、長期的な傾向としては、市場は徐々に縮小するのではないだろうか。

1.2 「保険加入」患者の増加

 BDMSの2016年第3四半期の決算発表資料を見ると、「支払タイプ別構成比」を紹介するスライドで、BDMSは「保険者払い」という項目に赤マルをつけてハイライトしたうえで、このセグメントが増えていることに対応する必要がある、と言及している。他の医療セグメント同様、民間医療保険も、ASEANにおいて今後高い成長が目されている市場の1つだ。

 従来、自己負担余力のある富裕層向けのサービスが中心であった民間病院にとっては、より多くの患者が民間医療保険に加入し、民間病院で自己負担を軽減しながら医療を受けられることは、極めてポジティブな要素だ。しかし、民間保険加入者を取り込めるのは、必ずしもこれまで民間病院市場でリーダーであった病院とは限らない。富裕層と民間保険加入者では、民間病院に求めるニーズは大きく異なるからだ。ニーズの違いを理解するには、民間医療保険加入者とは誰なのか、を具体的に見ていく必要がある。

1.2.1 個人型医療保険

 「民間医療保険加入者」と聞いて、まず想像するのが、個人で医療保険に加入するケースだろう。個人型医療保険加入者は順調に増加している。ローランド・ベルガーの推計では、インドネシアでは、2016年時点で個人型医療保険加入者が100万人に到達した。

 個人型医療保険加入者の特徴は、生命保険に加入する際に付加的に医療保険にも加入するなど、医療保険自体が主目的でないケースがあることもあるが、何より「保険金支払者と医療の受益者が同じ」ということだ。医療保険が経済合理的に設計されている商品であることから、平均的には、加入者が生涯で支払う保険金の総額は、加入者が将来で支払う医療費の総額とほぼ等しくなる。

 従って、医療保険加入のメリットは、突然の病気による多額の出費の回避、言い方を変えれば、生涯に亘る医療費支出を「平準化」できる点にある。そのため、個人型医療保険加入者の民間病院に対するニーズは、保険に入らず自己負担で賄う富裕層と変わらない。これまで同様に、快適な環境で高水準の医療を享受したい、というわけだ。また、外来から入院、検査から医薬品代まで広くカバーされている商品を契約するケースが多い。従って、個人型医療保険加入者の増加は、従来型の富裕層向け民間病院にとってプラスである。

1.2.2 企業型医療保険/自家保険

 「民間医療保険加入者」のもう1つのセグメントは、企業型医療保険、すなわち、企業が福利厚生の一環として民間医療保険に加入するケースだ。実は、民間医療保険加入者の大半は、企業型医療保険加入者だ。

 インドネシアの2016年時点での企業型医療保険加入者は750万人に達しており、前述の個人型の7.5倍にあたる。これに加えて、民間保険に加入せずに、企業自身が保険者となり、従業員(およびその家族)の医療費支出を肩代わりする自家保険を提供している企業もある。ローランド・ベルガーの推計では、インドネシアにおける自家保険の受益者は、2016年時点で実に3400万人にのぼる。つまり、個人型医療保険加入者100万人に対し、その40倍にあたる4000万人以上が、企業によって医療費助成を受けている。

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