どん底に追い込まれたから大逆転がある――日清食品 執行役員 CIOグループ情報責任者 喜多羅滋夫氏:長谷川秀樹のIT酒場放浪記(1/4 ページ)
P&G、フィリップモリスジャパンなど、外資系企業の日本法人のシステム部門を経て、日清食品でCIOを務める喜多羅滋夫氏。華やかな経歴を持ちながら、実は「紆余曲折あっての人生」だったという喜多羅氏が語るITエンジニアの成長の糧となる挑戦やキャリア形成のコツとは。
この記事は、「HANDS LAB BLOG(ハンズラボブログ)」の「長谷川秀樹のIT酒場放浪記」に2016年4月11日に掲載された記事を転載、編集しています。
ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、どうすればエンタープライズ系エンジニアがもっと元気になるのか? という悩みの答えを探し、IT業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。
今回のゲストは、日清食品ホールディングス株式会社執行役員 CIOグループ情報責任者の喜多羅滋夫氏。P&Gなど、外資系企業の日本法人のシステム部門に長年身を置き、グローバル企業の戦略的ITについて熟知。挑戦を求めて転じた現職で、今もまた新たなIT改革に取り組んでいます。華やかな経歴ながら「紆余曲折でした」と振り返る喜多羅氏に、長谷川がITエンジニアの挑戦とキャリア形成などについて伺いました。
目次
有名企業のIT仕事請負人「情シスぴよぴよ渡り鳥」
長谷川: おおっ、今回もご盛装ですね!
喜多羅: 長谷川さんこそ、お似合いじゃないですか。最近、この格好でよく会っている気がしますね。
長谷川: そうですね。AWS(Amazon Web Services)のイベントでもお会いしましたね。で、けっこうマジメな話してますけど。今日は、「ユーザー企業での情シス担当」として歩んで来られた喜多羅さんの軌跡をガチで伺おうと思ってます。人呼んで「情シスぴよぴよ渡り鳥」ってね(笑)。
喜多羅: ジ○ニャン前の“ひよこ”なんて、取って食われそう(笑)。どうぞお手柔らかにお願いします。
日清食品 執行役員 CIOグループ情報責任者 喜多羅滋夫氏(左)は、日清食品のインスタントラーメン「チキンラーメン」のキャラクター「ひよこちゃん」に変身(?)して登場。長谷川秀樹氏(右)は有名な猫風のコスプレ
長谷川: そもそもね、喜多羅さんのキャリアは格好良すぎでしょう。P&Gにフィリップモリスという外資系の有名企業でキャリアを重ねて、日本が世界に誇るナショナルブランド“日清食品”にヘッドハンティングされるなんて。名だたる企業の情報化に貢献して、執行役員かつCIOとして認められる。ユーザー企業に務める情シスの憧れでしょうね。
喜多羅: そんなに持ち上げて、どうするつもりですか(笑)。実は、裏にはいろんな紆余曲折や葛藤があるんですよ。そもそもプロフィールには3社めとしていますが、P&Gとフィリップモリスの間にもう1社、行ってるんです。
長谷川: えっ、いきなり秘められた過去が!?
喜多羅: いやいや、隠していたつもりはないんですが、2カ月しか在籍していなかったので。キャリアとしては認められないかと思って、特に公にはしていないんです。
長谷川: 2カ月? それは訳アリっぽいですね。情シスのエリートコースを着々と歩いてこられたと思っていました。ちなみにP&Gには新卒で入られたんですよね。どんなご経緯で入られたんですか。
喜多羅: うーん、一言で言えば「巡り合わせ」「ご縁」ですかね。うちの大学の情報工学出身者はだいたい1/3が富士通、IBMや日立などのメインフレーマー系に行き、1/3がコンピュータ嫌いになって文系就職に転じ、銀行や証券などに行っていたんです。僕は中途半端な真ん中の1/3で、IT企業ではない会社の情シス担当あたりかなと思っていました。たまたま航空系の予約システムの「アポロ」の本を読んで、漠然とその分野を希望するようになったんです。「戦略的情報システム」なんて言葉にしびれまして(笑)。
長谷川: 確かに最先端のシステムってかっこ良く見えますからね。学生ってそんなもんですよね。
喜多羅: ええ、当時は大真面目だったんですけどね(笑)。それで某航空会社のOB訪問に行ったら「おお、ぜひ来い」と大歓迎で、取りあえず最終面接だけクリアするように言われて、「もう決まったな」と思っていたんです。ただ、1989年といえばバブル真っ盛りで、信じられないような好待遇を各社が出してまして。その中に「入社1年目から全員に1年間海外留学の奨学金を出す」という会社があって、ちょっと冷やかし気味に面接にいったんです。ところが行く気がないのをあっさり見抜かれて、かなり厳しくコテンパンにやられました。で、ズタボロのまま、午後に航空会社の面接に行ったんです。
長谷川: 撃沈されたんですね……。
喜多羅: はい……、とにかく酷かったですね。言いたいことの半分も言えずに、終わってしまって。OBにも「あれじゃあ、無理だよ」と。
長谷川: 信じられないですよね、今の喜多羅さんから想像できない。
喜多羅: 周りは、ほぼ全員決まってたので、めちゃくちゃ焦りました。もう、大急ぎで就職活動を始めましたよ。OBや教授のルートも当たりつつ、新卒採用の分厚い資料から、ちょっと面白そうな企業に手当り次第に30枚くらいハガキを出しまくって。で、その中の1枚がP&Gだったんです。
長谷川: ええっ、そんなにたまたま!?
ご縁が重なり、“ワイガヤ”時代のP&Gへ
喜多羅: そうです、たまたまです。さらに、たまたまP&Gに入社していた同じ研究室の先輩に「会おうか」と言われて……。ランダムに資料請求して「先輩に当たる」って、うちの学科は40人程度なので、まず、ないんですよ。それでお会いしてみたら、「業績は、評価は」というリアルな仕事の話でとにかく面白かった。当時はどの会社のリクルーターも学生には「入ると楽しいよ」「飲もうか」みたいなことしか言わなかったので。
長谷川: そういう時って、ありますよね。「ご縁」としか言いようがない。
喜多羅: そうですね。最終的にはP&Gともう1社に絞って、それぞれオフィス見学に行ったんです。先に見たもう1社の方は、立派な研究所だったんですが、所長さんが大きな個室で新聞を読んでいて、私をちらっと見ておしまい。そのまま新聞読んでる。一方、P&Gの方はクーラーが効いていない雑居ビルでしたね。対応してくれた2人は、まだ30代前半という若さの管理職で、とにかくエネルギッシュ。ちょうどダイレクターもいて、学生相手に語る語る(笑)。通訳さんもいましたけど、ゆっくり話してくれたので内容もよく分かったし、じわじわ情熱が伝わってきたんです。
長谷川: 1989年のP&Gというと、日本だと何人くらいいたんですか。
喜多羅: まだ300人くらいですね。「パンパース」を発売して10年たち、「ウイスパー」と「アリエール」を発売して2〜3年という頃でした。長い低迷期を抜けて、「一大飛躍」というテーマを至る所に貼ってました。その熱さはとても魅力的でした。それで一晩考えて「もし3年後に撤退したり、クビになったりしても、P&Gの方が面白そうだ」と思って、数日のうちに意思を伝えに行ったんです。その時もダイレクターがいて、僕がたどたどしい英語で「If you may I want to join your company.」と言ったら、笑顔でぱっと手を差し出して「Welcome to our company!」って。それで内定です。
長谷川: うわー、それはドラマチックですね。ダイレクターが直接内定出すなんて、エリート採用じゃないですか。
喜多羅: というか、P&Gも採用活動に出遅れてたんです(笑)。同期が4人いるんですが、うち2人はきちんと筆記も集団面接も経て入社、僕ともう一人は採用活動が終わっていて、それでも人が足りないので「取りあえず採用した」という枠です。
長谷川: 勢いがあった頃ですもんね。まさに業績が倍々ゲームだったでしょう。
喜多羅: ええ、成長エネルギーはすごかったですね。まだ組織が若くて、まさに“ワイガヤ”でした。外資系だけど、浪花節カルチャー。30歳そこそこでマネジャーを任されるくらいでしたから、みんな必死でしたよ。冷房の効かない淀屋橋の雑居ビルで、夜中まで議論したり、作業したり。だから、僕にとってのP&Gの原体験は中小企業の感覚なんです。
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