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どん底に追い込まれたから大逆転がある――日清食品 執行役員 CIOグループ情報責任者 喜多羅滋夫氏長谷川秀樹のIT酒場放浪記(2/4 ページ)

P&G、フィリップモリスジャパンなど、外資系企業の日本法人のシステム部門を経て、日清食品でCIOを務める喜多羅滋夫氏。華やかな経歴を持ちながら、実は「紆余曲折あっての人生」だったという喜多羅氏が語るITエンジニアの成長の糧となる挑戦やキャリア形成のコツとは。

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先が見えたとたん、気持ちは新天地へ

長谷川: やっぱり就職は「ご縁」ですよね。P&Gでのご活躍もそのご縁があってこそ。

喜多羅: ええ、もうそうとしか言いようがないですね。憧れていた会社に行ってみたら全然合わなかったり、絶対相性が合うと思ったらあっさりふられたり。

長谷川: その縁を大切にするかどうかで、その人の仕事人生が変わるってことですよね。実は、僕も某会社の面接会場で知り合った人が受けていた会社が「アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)」だったんです。「どんな会社?」「えっ、初任給でそんなにもらえるの?」って、そんなノリ(笑)。

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喜多羅: 学生ってそんなもんですよね(笑)。

長谷川: でも、説明会では「うちは外資だから、UP or OUT(アップオアアウト:昇進するか、退職するか)。できないヤツはすぐ辞めてもらうから」みたいなことを言われてビビったりして。

喜多羅: 外資系企業ってまだまだ就職先としてメジャーではなかったし、すぐクビになるとか、厳しいとか、うわさがけっこうありましたよね。

長谷川: 実際、できる人ですら、30〜35歳くらいでパートナーになっても、その先が全く見えないんですよ。日本人はビビりますよね。ただ僕は「辞めさせられるなら、早く辞めさせてもらいたい」って思ってました。若い方が人生をリカバリーするのも簡単でしょ。むしろ、いろんなところをたらい回しされて、歳をとってグダグダになってから辞めさせられるより断然いい。だから、あまり怖くなかった(笑)。

喜多羅: 僕もそんな感じ。たとえ自分がクビになったりしても、この情熱の中で面白いことをやらせてもらえるとすれば、きっと他のところで役に立つだろうと。

 実際、P&Gは若いうちからいろいろ体験させてもらって、本当に楽しかったですね。だから、だんだん組織が大きくなってエスタブリッシュされてくると、もっと「商売の近く」でやりたいと思っていた僕としては、情シスの中に押し込められるようで面白くなくなってきてしまった。

長谷川: 先が見えたとたんに面白くなくなるっていいますからね。それが転職のきっかけなんですね。なんだか、とてもよく分かります。おいくつの時ですか。

喜多羅: 35歳になった頃ですね。ただ、ITバックグラウンドのキャリアだとなかなか商品やサービスに近い仕事がなくて、そんな時に「ITの人でもマーケやセールスをお任せしますよ」という、あるITの会社を紹介されたんです。

長谷川: それが公になっていない2社目ですね。

喜多羅: そうです。それでP&Gでは大々的に送別会までやって派手に送り出していただきました。渋る妻と子どもを説得して、意気揚々と神戸から東京に引っ越してきて、入社早々は何もかも新鮮で楽しかったですね。ところが2カ月ちょっとで辞めてしまったんです。

意気揚々と転職した先を2カ月で辞めたワケ

長谷川: いったい何があったんですか。

喜多羅: 新規事業がどんどん立ち上がっていた時期で、会社自体は大きくとも体質はベンチャーで。昼も夜も週末も、ささいなことでも容赦なく連絡が来て対応しなければならない。稟議を通すために出席する役員会議の開始時間は、夜の23時。日付が変わるのは当たり前。役員はITバブルの上場益で買ったフェラーリやポルシェで帰っていく一方で、僕たちは自腹でタクシー。へとへとになって2時頃帰宅して、翌朝は定時に出勤するという。

長谷川: いやはや、ブラックじゃないですか。

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喜多羅: 自分がコントロールしている実感があれば、楽しかったでしょうね。でも、歴史ある会社ではあるので、その辺の文化は「ザ・日本企業」で。ヌシのようなオジさんがたくさんいて、お伺いを立てないとならないわけです。それがまた苦痛で……。となると、だんだん精神状態が体に出てくるんですよ。斜めになっていないと右の肩甲骨に激痛が走るようになりました。そうそう、当時よくオフィスに流れていた宇多田ヒカルの「トラベリング」と「ピグミンのテーマ」、あれを聞くと今も涙が出そうになりますよ(笑)。

長谷川: 「♪引っこ抜かれて〜、食べられる〜♪」とかいう歌ですよね。P&Gにいたときはバリバリ自分でドライブされていた喜多羅さんには耐えられなかったんですね。

喜多羅: それでも、何か結果を出さなければ辞められないと思ってました。でも、ある日、妻が「仕事忙しいん?」「辛くないん?」って聞いてきたんです。彼女いわく、ワイシャツの首回りの汚れがP&G時代に比べて異常すぎると。「これは何かが起きているに違いない」と思ったそうなんですね。それで事情を説明したら、一言「辞めたら」と。頑張るのはいいけど、我慢で体を壊すのは本末転倒だというんです。

長谷川: うわあ……、それは奥さんファインプレイですわ。自分のことって見えていない、ましてやストレス過多の時って正常な判断ができないですもんね。過労死にまでつながるのって、そこなんだと思いますわ。よく脱出されたなと。

喜多羅: いやいや、大騒ぎしてP&Gを辞めて、新しい会社でも期待されて、それがたった2カ月で退職って、やっぱり負い目でしたよ。次を決めずに辞めたので、しばらくはプータロー。することなくて、息子を連れて東京駅で1日新幹線を見てたり、とかね。たくさんの人に心配と迷惑をかけたし、本当に苦しかったですね。

長谷川: そのご経験を聞かせていただいたこと、30〜40代のエンジニアには大きな励みになると思うんですよ。「新天地を求めてチャレンジせよ」ってよく聞くけど、「どうせ成功者だから言えるんでしょう」って、どこか思ってる。でも、喜多羅さんみたいに今輝いている人だって、何かしらの泥臭い苦労や失敗をしているんですよね。

喜多羅: もう、見事に大失敗でしたからね。泥水は相当にガブ飲みしてますよ(笑)。

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