検索
連載

どん底に追い込まれたから大逆転がある――日清食品 執行役員 CIOグループ情報責任者 喜多羅滋夫氏長谷川秀樹のIT酒場放浪記(4/4 ページ)

P&G、フィリップモリスジャパンなど、外資系企業の日本法人のシステム部門を経て、日清食品でCIOを務める喜多羅滋夫氏。華やかな経歴を持ちながら、実は「紆余曲折あっての人生」だったという喜多羅氏が語るITエンジニアの成長の糧となる挑戦やキャリア形成のコツとは。

Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

情シスよ、PCを捨てよ、街へ出よう

長谷川: ところで、最近、「情報シス不要論」とかあるでしょう。それについては、どう思われていますか。

喜多羅: 情シスが情シスだけやるようになったら、もう「あかん」と思いますね。“ご用聞き”で、ユーザー部門に反論すらしなくなったら、その会社にいる価値はないと思います。

長谷川: 確かにヘコヘコしがちですもんね。少しでも反論すると「業務が分かってないくせに」って言われてしまう。

喜多羅: 確かに業務のことはその部門の人が一番分かっていると思うけど、いくらでも勉強すればカバーできますし、本当にテクノロジーと業務とを分かっている人間がきちんとした社内コンサルをすれば、社外の人にはできない仕事って山ほどあるわけです。

 もちろんテクノロジーが分かるのは大前提で、それ以外で自分でも独自に“商売のネタ”を考えて、見つけていかなければならないと思いますね。ハンディがあるのは当然として、カバーすればいいし、むしろ世の中の仕組みを把握しやすい立場だし、テクノロジーはどんどん進化して、ツールとしての使い方で次元が変わるほどのインパクトを持っている。これほど面白い仕事は他にないでしょう。

Photo

長谷川: そうなんですよね。ITほど、ぐっと何かを変えてしまうほどの可能性を持つ部門ってないわけですからね。基本は自分の現行業務をきっちりおさえた上で、情シス部門の人間が組織に価値を提供し、自分の価値を高めるためにはどう行動すればいいんでしょうか。

喜多羅: シンプルにいえば、「好奇心」を大切にすることでしょうね。例えば、IoTとか、新しいスマホとか、興味を引かれることがあれば、それを追いかけてみる。

 極端にいえば、ITに関連するものでなくてもいい。もう、仕事に何がメリットをもたらすか、分からない時代になってきているんですよ。以前なら、業界とか他社の情シスとかの研究で十分でしたけど、いまや驚くほどマッチメイキングが多様化している。

長谷川: 自分とこの業界だけじゃ収まりつかないですからね。そうなると、やはり日頃からアンテナを張り巡らせて、好奇心を持って過ごしていないと。

喜多羅: 僕は仕事で煮詰まると、今までのルーティンをいったん切って社外に出ます。今まで通ったことのない通りを歩いたり、お店をのぞいてみたり。そうすると、たいていの場合は、何かしら気付きやひらめきがあって、それが現在の仕事へのモチベーションを高めてくれる。

 例えば最近僕は、会食するときに自分で店を選ばないようにしているんです。どうしても50歳になると、自分の好みやテリトリー内で何でも済ませようとしてしまう。新しいと思っても、今までの選択肢の延長線。でも、まったく知らない人の世界を見せてもらうことで、また新しい好奇心が満たされ、大きな刺激を受けることができますから。

長谷川: 確かにいろんな人に会うと、違う世界に出会えて刺激になりますよね。「情シスよ、PCを捨てて街へ出よう」的な。

喜多羅: そうそう。人に会わなくても、書店でも、肉フェスでも、鈍行列車の旅でもいい。自分の好きなところだけでなくて、行ったことがないところでいろいろ観察してみる。イノベーションは無から突然生まれるものじゃなくて、何かと何かの出会い、模倣の積み重ねの末に発火点が来て、でき上がるものだと思うんですよ。

長谷川: Appleのスティーブ・ジョブズも「点をつなぐ」って言ってましたね。彼もインプットをどんどんして、点を増やすことでひらめきを得ていった。

喜多羅: 僕なんか、めちゃ凡人ですからね。凡人は他人の手法をまねてもいいと思うんです。例えば、女の子をナンパしたいとき(笑)。クラブの入り口で女の子を待ってる人は多いですよね。僕の知り合いで、クラブの出口でホットコーヒー持って待ってたヤツがいて、成功率が高かったんです。

 そんなふうに、どうやれば結果が出るかに集中して、視点を変えて、解決策を見いだす。インプットをたくさん取り入れて、とことん考える。そしたらいつか持ち玉の1つが成功するかもしれませんしね。だから、指示された方法でこなすことばかりを気にするのではなくて、他のやり方はないか考えてみることが大切だと思います。

キャリアは“椅子”、3本以上の足を獲得しよう

長谷川: 外資系企業に長くいた喜多羅さんが、日清食品に入って、業務やキャリアに対する考え方の差異を感じられたことってあるんですか。

喜多羅: けっこうありますね。日清は終身雇用が前提ですけど、外資系は常に「放り出される」可能性を意識して、自分がどこに行ってもやれるようにキャリアを考える傾向がありました。

 5年目で海外赴任になった時に、タイ人の上司に「キャリアは椅子だ。3本以上の足がそろって初めてしっかりと自立できる。それを意識して仕事をしなさい」と言われて、納得感がありました。

長谷川: でも、業務で学べることは限られている。となれば、今は無料で参加できるネットワークが山ほどあって、参加し放題なわけですが……。

喜多羅: 参加する人はどんどん参加すればいいんでしょうけど、問題はそこに行けない人ですよね。

 実際、情シスの人って、割合内向的な人が多いと思うので、いきなり見知らぬ勉強会に行くのはハードルが高いと思うんです。それなら、まずは仕事に関係ない車やアイドルなどのオフ会でいいので、人に会うお作法を練習すればいいでしょう。

Photo

長谷川: なるほど。取りあえず人に会う練習ですね。

喜多羅: ええ、その際に「誰でも自分より優れたところを持っていている、それをまねしよう」というつもりでいくといいでしょうね。そういう視点を持てるようになると、人に対して好奇心を持つし、人から学べる。さらに自社や業界内の思い込みから外れて、新しい視点を得られる。

長谷川: 同じ価値観や習慣の人たちに囲まれていると停滞するし、「多様な正しさ」が見えなくなってきますよね。

喜多羅: そう。多様なやり方や価値観があるという気付きとともに、あらゆるものの中で共通している「普遍性」にも気付けると思うんですよ。そうすると「普遍的な仕事の仕方」が見えてきます。

 例えば、技術やツールは変わるけど、プロジェクトの流れは基本変わらない。そこにできるだけ早く気付けば、学び方も違ってくるでしょう。だから、今も口を酸っぱくして、情シスキャリアの足は「プロジェクトマネジメント」と「サービスマネジメント」だ、と言い続けているんです。

長谷川: その辺りは「JAWS DAYS 2016」でも力説されてましたね。ぜひ、その話の続きはこちらへどうぞ(笑)。引き続き、ひよこちゃんとジバニャン参加でお送りしたいと思います。

喜多羅: では、話は尽きませんが、ここではいったん切りますか。また、話が長くなってすみません(笑)。今日はありがとうございました。

長谷川: はい。キャリアの話を聞いたら、学生のときの就職活動の話からされたのは、喜多羅さんだけです。長くなるはずです(笑)。こちらこそ、ありがとうございました。


ハンズラボ CEO 長谷川秀樹氏プロフィール

1994年、アクセンチュア株式会社に入社後、国内外の小売業の業務改革、コスト削減、マーケティング支援などに従事。2008年、株式会社東急ハンズに入社後、情報システム部門、物流部門、通販事業の責任者として改革を実施。デジタルマーケティング領域では、Twitter、Facebook、コレカモネットなどソーシャルメディアを推進。その後、オムニチャネル推進の責任者となり、東急ハンズアプリでは、次世代のお買い物体験への変革を推進している。2011年、同社、執行役員に昇進。2013年、ハンズラボを立ち上げ、代表取締役社長に就任。(東急ハンズの執行役員と兼任AWSの企業向けユーザー会(E-JAWS)のコミッティーメンバーでもある。


【取材・執筆:伊藤真美】

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る