プラットフォーマーとして、IoTで何かやりたい人の「触媒」になりたい――ソラコム 代表取締役社長 玉川憲氏:長谷川秀樹のIT酒場放浪記(3/4 ページ)
2015年にIoTプラットフォーム「SORACOM」をリリースしたソラコムの代表取締役社長 玉川憲氏。前職であるAWSでの経験や起業家としての思い、IoTの未来を見据えたビジネスビジョンとは。
大企業の新規事業開発とスタートアップとの違い
長谷川: ソラコムのサービスって、今はAからFまで(※2016年4月4日の「HANDS LAB BLOG」での当記事公開時点)あるんでしたっけ。サービスの追加というのは、どこまでいっちゃうんですかね?
ソラコムのサービスは、「SORACOM Air」「SORACOM Beam」「SORACOM Canal」……と、頭文字がアルファベット順になっている(2016年4月4日の「HANDS LAB BLOG」での当記事公開時点。2018年現在のサービスについては、SORACOMのWebサイトを参照)
玉川: 僕らも分からないですね。2016年はグローバルをやりたいというような、全体的な長期プランは漠然とあるんですけども、AWSと同じで、お客さんやパートナーからのフィードバックを得て、「それやりたいね」ということはどんどん入れていきたいので。
プラットフォームって、共通基盤として使ってもらえるような価値があるものを優先順位を変えながら作っていくべきで、「作りたいものを作る」という感じばかりだと、お客さんがついてこないと思うんです。
AWSでも2006年に「10年後にこうなっている」という絵は誰も描いていないし、描くべきじゃなかったと思うんです。世の中の変化は激しくて、どんどん新しいテクノロジーは出てくるので、どんなに賢い人でもそんなに先のことは読めないと認めて、柔軟に対応していくのが大事だと考えています。
長谷川: なるほど。仮に玉川さんが大企業の新規事業担当してやるとしたら、「3年後、5年後の中計を出して」と求められると思うんですけど、ソラコムでは中期経営計画というのを、どういうふうにお考えですか?
玉川: 僕らはベンチャーというよりも、スタートアップなんですよね。スタートアップって、一般的にはシリコンバレー型で、あるテクノロジーイノベーションをベースに、潤沢な資金をベンチャーキャピタルのようなところから入れて、一気に成長させるというモデルです。
そういうモデルにおける事業計画は、精緻さというよりも、どれくらいの大きさの市場を狙っていて、それをどういうアプローチでどんなチームでやるか、どんなプロプライエトリ・テクノロジーを持っていて、勝算はどれくらいか ―― それくらいのレベルの計画で、将来性と狙うべき市場がよければいいんです。
もちろんその仮説を基に数字を作って、腹に落とすところはしっかりやります。僕の場合、狙っているIoTの市場は十分に大きいし、今までのファーストダッシュは十分に評価されているので、あまり問題にならないですね。
長谷川: もし玉川さんが大きい企業の新規事業部みたいなところにアドバイザリーで入ったとしたら、「中計を出せというのは、あまり意味のないことだ」とアドバイスされますか?
玉川: 新規事業に取り組むアプローチは、会社によると思うので、なんとも言えないですね。
純粋なベンチャーキャピタルからすると、10個の会社に資金を入れて10個成功する必要はなくて、1つでもバーンと跳ねればそれでいいという考え方ですよね。「はねた時にはすごいんです」というのを取りそろえる戦略です。全体で100億円投資しても、1社が1000億円返してくれればとんとんになる。
今の僕らのビジネスは、そういう世界の中で、ガツッと資金を入れてスピードを稼いで一気に大きくなるというやり方なわけです。会社の新規事業でも、そういうやり方の会社であればできると思うんですけど、なかなかそうはならないですよね。「10億円入れるけど、どれくらいの確率で20億、30億になるんですか?」という考え方だと、中計をしっかり作って、というのがより求められると思います。
長谷川: 急速に立ち上げるのがベンチャーだという話があったけど、急速に立ち上げないといけないんですかね? 普通に成長していくんじゃだめですか。
玉川: いい悪いではなくて、選択肢だと思っていて、やり方は極端に大きく分けると2通りあるんですね。
外からお金を入れず、自分たちで稼いで、黒字の範囲内で、という中小企業的弁ベンチャーのやり方も、もちろんいいと思います。
もう1つが、シリコンバレー型スタートアップ。僕らの場合、「グローバルなプラットフォームで、IoTのハードルを下げたい」という目標があり、共通基盤を作るには、ある程度まとまったお金が必要です。外部からお金を入れて、当初は赤字でも一気に規模を広げる、という後者のアプローチじゃないとできなかったと思います。
長谷川: なるほど。御社の中では、マーケティングコストと製品開発コストのバランスってどう考えてますか? 一般論として、技術の出身の人って「いいもの作ったら広まるはずだ」というような考え方に、どちらかというと傾倒すると思うんです。玉川さんも技術者出身なので、少なからずそういうところはあるんじゃないですか? 逆に、マーケティングコストをかけることでグローバルでも早くNo.1になれるかもしれないという考えもあるかもしれないし、そこのバランスどうなんでしょう。
玉川: それはすごく大事なポイントです。
まず第一に、ソラコムのビジョンは「世界中のヒトとモノをつなげ共鳴する社会へ」なんですけど、それをテクノロジーイノベーションで実現しようとしているんです。商品調達力とか、ものすごい人数をそろえたセールスの力とか、超洗練されたオペレーションで競争していくという会社じゃない。技術大事。ただ、技術至上主義でいいものを作れば売れると思っているかというと、全くそういうことはないです。AWSと一緒で、世の中で知ってもらわなければ、いくらいいものを作っていたって陽の目を見ないことは分かっているので。僕はエンジニア出身ですけど、けっこう長い時間をマーケとセールスにかけてきているので、その重要さをものすごく実感しています。
一方、マーケとセールスって、お金をかければいいというわけではないとも思っていて。企業のマーケティング部門でよくある「年間の予算を消化して次年度の予算も同じだけ獲得するのが仕事」みたいなのはバッドプラクティスで、それだと頭を使わなくなり、マーケティングにイノベーションがなくなってしまいますよね。
AWSにエバンジェリストとして入った時に、「マーケ予算はありません。話す場所は作ってください」という超有能マーケターの小島氏と一緒にやってきたところから始まって(笑)。でも、そうやって追い込まれて逆に良かったと思うんです。自分がいい話をしないと次の場所はできないし、そういう場所に呼ばれるような存在にならないといけない。そもそもそういう仕事ができてないと、伝わるはずがないということで、お金じゃなくて工夫次第でなんとかなる世界だということが分かったので。
セールスも同じで、お客さんが増えれば増えるほどセールスの人間が増えるという形だと、プラットフォームビジネスとしてはスケールしないので、やり方を変える必要があります。昔ながらのセールスの仕事はコンピュータで自動化できるので、より付加価値の高い仕事 —― お客さまと一瞬で信頼関係を作る、新しいユースケースを作る、それを実現するための新機能の企画書を作る、エコシステムを作る、というようなことをやっていけば、全体に対するセールスのコストはすごく小さくなるはずです。
結論からいうと、マーケとセールスの重要さはすごく分かっていて、そこにお金をかけないイノベーティブなやり方を、こちらもまたテクノロジーイノベーションでやりたいということですね。
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