これを旅館と呼んでいいのか!? 老舗旅館「陣屋」が切り開く新たなビジネスモデル:【特集】Transborder 〜デジタル変革の旗手たち〜(2/4 ページ)
週休3日制などで注目を集める、鶴巻温泉の老舗旅館「陣屋」。彼らのビジネスはもはや旅館だけではない。成功事例そのものを商材とし、自社システムの外販から“旅館互助サービス”の展開まで、もはや旅館とは呼べないような事業をそろえた企業が誕生しつつあるのだ。
こうした地道な取り組みが花開き、2018年には陣屋コネクトを導入した施設は全国で300を超えた。1ライセンス3500円(初期導入費用は別途必要)という手ごろな価格もさることながら、「旅館にとって、本当に必要な機能だけをそろえる」という理念に共感する旅館が多いそうだ。
現在も総勢18人のエンジニアが開発を続けており、年3回のバージョンアップをリリースしている他、陣屋内で使うシステムについては“パイロット版”と位置付け、2週間ごとに細かなバージョンアップを繰り返している。そして、最近では旅館業“以外”のサービス業からの問い合わせが激増しているのだという。
「結局のところ、人とモノとお金を管理するというシステムであることには変わりないので、汎用的な基幹システムとしての可能性に着目するお客さまがすごく増えているんです。『これを転用してうちも使えないかな』とか『ウチもこういうことをやりたかったんだ』と問い合わせを頂くことが増えました」(宮崎さん)
日本の製造業を救いたい――新会社「ティラドコネクト」を設立
これらの問い合わせに応える形で2018年4月、陣屋コネクトと熱交換器メーカーのティラドが共同で出資し、合弁会社「ティラドコネクト」を設立した。ティラドは宮崎さんの夫である富夫さんが社長を務めており、設備管理やIoTといった製造業で培った技術やノウハウを生かし、旅館業向けシステムのレベルアップや、大規模なIT投資が難しい中小製造業向けシステムの開発を目指す。
陣屋コネクトで実践し始めているIoT連携だが、設計や計測といった面は、製造業の方がはるかに精度が高い。一方のティラドは製造業のノウハウはあっても、ITシステムを開発するエンジニアやプログラマーがいない。両者の得意な部分で協力した形だ。その裏には、日本の製造業を救いたいという富夫さんの思いがあるのだという。
「ティラドコネクトのミッションは、トップ製造業のノウハウを集約したアプリケーションを作ること。これを世界中の中小零細企業に販売していきたいですね。特に製造業は、大企業はいいにしても、それを支える中小企業はまだ紙と戦っているところが多いんです。技術や事業継承ができずにつぶれてしまうところもある。差別化要素だったクオリティーも中国や韓国に迫られている今、製造業全体がピンチに陥っています。主人はここに危機感を抱いているんです」(宮崎さん)
陣屋が取り組んでいるビジネスはまだまだある。特に今は旅館同士のネットワークを生かした取り組みを進めているという。
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