これを旅館と呼んでいいのか!? 老舗旅館「陣屋」が切り開く新たなビジネスモデル:【特集】Transborder 〜デジタル変革の旗手たち〜(4/4 ページ)
週休3日制などで注目を集める、鶴巻温泉の老舗旅館「陣屋」。彼らのビジネスはもはや旅館だけではない。成功事例そのものを商材とし、自社システムの外販から“旅館互助サービス”の展開まで、もはや旅館とは呼べないような事業をそろえた企業が誕生しつつあるのだ。
最近では「集客の助け合い」も始めている。箱根にある宿泊施設付きのフレンチレストラン「オー・ミラドー」と協力し、互いのWebページで送客しつつ、1泊目は陣屋、2泊目はオー・ミラドーという連泊プランを企画。2人で約27万円という高額なプランながら、年間で数十件の予約が入ったというから驚きだ。
こうした取り組みは、旅館同士が連携することで、旅行代理店などに支払う手数料のコストを削りつつ、異なる観光地が持つ長所を組み合わせ、より魅力的なプランに仕上げるのが狙いだ。今後はこの動きを全国に広めていきたいという。
「今は箱根と秦野でやっていますが、これを地方で実施したいんです。隣同士の温泉郷や隣同士の県など、車で2時間くらいの距離であれば、さまざまな観光地を経由して遊ぶプランが出来上がります。地方の観光都市は、どう人を集めるかが大きな課題で、それが地方創生の1つのカギになっています。各地に点在する宿泊施設を結んで、エージェントさんではなく、自分たち自身で発信する新しいツーリズムを作れないか。今はそれに挑戦したいと思っています」(宮崎さん)
誰もが憧れる“世界一の旅館”の作り方を研究し続ける
もともとは借金を返し、息子を守るために継いだ旅館業だったが、10年近くがたち、今や日本中が注目する旅館となった「陣屋」。誰もが憧れる“世界一の旅館”の作り方を研究し、自ら進化を続けていく――今、彼らは未来に向けて「旅館を憧れの職業にする」というビジョンを掲げている。
「今までは効率化という点をがむしゃらに追い求めてきましたが、スタッフの定着率に目を向け、働き方を変えていくうちに、スタッフも仕事が単なる作業ではなく、キャリアを描けるようなものになってきたんじゃないかと思っています。ああなりたい、こうなりたい……そう思うスタッフがたくさんいて、ここ2年くらいでようやく全ての歯車が合ってきたと思っているんです」(宮崎さん)
他業種から旅館という全く異なる世界に飛び込んだ宮崎夫妻。中にいる皆がこれまで持っていなかった視点でビジネスを見直し、レガシーな旅館業に新たな風を吹かせ続けている。
旅館そのものに加え、それを取り巻くシステムや人材や備品といったリソースまでをビジネスのプラットフォームと捉えることで、ITを活用しながら次々と新たなサービスを展開していく。月並みな言葉かもしれないが、これこそが「デジタルトランスフォーメーション」と呼べるのではないだろうか。陣屋の快進撃はまだまだ止まりそうにない。
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