“東証を変えた男”が語る、金融業界の伝説「arrowhead」誕生の舞台裏――“決して落としてはならないシステム”ができるまで:日本郵便専務が明かす(1/4 ページ)
2005年11月から2006年にかけて、システム障害を起こし、取引が全面停止するという事態に陥った東京証券取引所。世間の大バッシングの中、そのシステム刷新をやってのけたのが、現在、日本郵便で専務を務める鈴木義伯氏だ。当時、どのような覚悟を持って、“落としてはならないシステム”を作り上げたのか。
この対談は
クラウド、モバイル、IoT、AIなどの目覚ましい進化によって、今やビジネスは「ITなしには成り立たない」世界へと変わりつつあります。こうした時代には、「経営上の課題をITでどう解決するか」が分かるリーダーの存在が不可欠ですが、ITとビジネスの両方を熟知し、リーダーシップを発揮できる人材はまだ少ないのが現状です。
今、ITとビジネスをつなぐ役割を果たし、成功しているリーダーは、どんなキャリアをたどったのか、どのような心構えで職務を遂行しているのか、どんなことを信条として生きてきたのか――。この連載では、CIO(最高情報責任者)を目指す情報システム部長と識者の対談を通じて、ITとビジネスをつなぐリーダーになるための道を探ります。
日本郵便 専務執行役員 CIO 鈴木義伯氏プロフィール
NTTデータ社で金融関係のシステム開発に従事。主に地方銀行の基幹系を中心に企画・開発、運用まで一連の作業を経験した。2006年2月東京証券取引所のCIOに就任した。株式証券取引システムarrowheadの企画開発を進め高速取引を実現し、株式取引の流動性向上に貢献した。17年4月から現職。
クックパッド コーポレートエンジニアリング部 部長 / AnityA 代表取締役 中野仁氏プロフィール
国内・外資ベンダーのエンジニアを経て事業会社の情報システム部門へ転職。メーカー、Webサービス企業でシステム部門の立ち上げやシステム刷新に関わる。2015年から海外を含む基幹システムを刷新する「5並列プロジェクト」を率い、1年半でシステム基盤を構築し直すプロジェクトを敢行した。18年、AnityAを個人として立ち上げ、代表取締役に就任。システム企画、導入についてのコンサルティングを中心に活動している。システムに限らない企業の本質的な変化を実現することが信条。
2005年11月から2006年にかけて、金融業界に激震が走った。東京証券取引所のシステムが数回、障害を起こし、株式取引が全面停止するという事態にまで陥ったのだ。
世間に大バッシングの嵐が吹き荒れる中、東証のCIO(Chief Information Officer:ITとビジネスをつなぐ役割を担う情報システム部門担当役員の名称)としてシステム全面刷新の指揮を執り、高い信頼性を保ちながら、取引の応答速度を1000分の1にするという偉業を成し遂げたのが、現在、日本郵便で専務を務める鈴木義伯氏だ。同氏が率いた「arrowheadプロジェクト」は、金融業界のシステム開発者の間で「伝説のプロジェクト」として語り継がれている。
日本を代表する重要インフラ企業のCIOとして、これまで数々の難題をクリアしてきた「国内きっての“プロCIO”」である鈴木氏は、失敗が許されない重責の中でどのように仕事に取り組み、ビジネスの課題をITで解決してきたのか。また、日本企業の情報システム部門の在り方についてどんな考えを持っているのか――。クックパッドのコーポレートエンジニアリング部で部長を務める中野仁氏が話を聞いた。
- 日本郵便の“戦う専務”が指摘――IT業界の「KPI至上主義」「多重下請け構造」が日本を勝てなくしている(中編)
- 間違った方向に行きかけたとき、プロジェクトを止める勇気を持てるか――「東証を変えた男」が考えるリーダーシップの形(後編)
「バブル崩壊で窮地に陥った地銀を救え!」 地銀を束ねてシステムを共同化
中野: 鈴木さんといえば、金融業界伝説のプロジェクトといわれる「arrowhead」を完成させた豪腕CIOとして知られています。そもそもなぜ、ITの仕事を選んだのですか。
鈴木: 私はもともと大学で電子工学を学んでおり、自分の専門性を生かした大きなプロジェクトを運営し、社会に貢献したいと考えていました。それを実現できそうな会社として日本電信電話公社(現NTT)に入社したのです。
最初に配属されたのが「データ通信事業本部」という、当時、できたばかりの計算機と通信を手掛ける部署で、その後、この部署を母体にしたNTTデータが設立されてからも、変わらず計算機の仕事に携わってきました。ですから、それ以外のことは実はあまり良く知らないのです(笑)。
NTTデータにいた当時は、ITに対する投資のボリュームは金融業界が最も大きかったので、私も自ずと金融の案件に携わるようになりました。特に地方銀行の案件をメインで担当しており、銀行のIT部門の方々よりも、経営企画の方々と一緒に事業を創っていくような仕事が多かったので、自然と経営企画の方々と仲良くなりました。
そういう方々の中から銀行経営の中枢に上っていく人たちも多いですし、頭取まで上り詰める方も少なくないので、結果として銀行の中枢の方々と懇意になることができました。そういうコネクションができて、直接、いろいろと相談できる関係になれたことは、とてもラッキーでしたね。
中野: 当時はちょうどバブル全盛期からバブル崩壊あたりの時代で、銀行では第三次オンライン真っ盛りの頃ですね。
鈴木: バブル崩壊の際、銀行が大変な状況に陥ってしまったのは、ご存じの通りです。そこで何とか地方銀行の経営を支えたいと思って、勘定系システムを複数の地方銀行で共同化する仕組みを提案しました。
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