「Lの世界」の成長戦略 既存ビジネスの生産性を向上させる:既知とアイデアの組み合わせで市場を変えろ(2/2 ページ)
デジタル化によって業務効率化を実現。イノベーションに向けた布石を打つ。
データを踏まえた客観的な経営にシフト
デジタル化が進むほど、数値化、蓄積、可視化、共有、分析可能なデータが増えていきます。その結果、現場では一部の人しか知らなかった効率的な方法を全員で共有し、実践できるようになります。経営層は、データを踏まえながら市場の傾向を分析したり、対策を考えるようになります。
中小のレガシー企業では、「こっちのほうがよさそうだ」という勘や、「あっちのほうがいいと思う」という想像で判断してしまうことがあり、それが仕事の効率化を邪魔したり、事業の成長を滞らせたりしています。
デジタル化を通じ、データを踏まえながら判断するデータ・ドリブン経営にシフトしていけば、データという根拠をもとにした客観的な判断ができるようになります。「こっちがいい」「いや、あっちがいい」と平行線になりがちな議論もまとめやすくなるでしょう。
仕事の効率と経営判断の質は基本的にはデータの量と比例するため、より多くの社員がデータを入力できる環境を作り、あらゆる情報を共有することが大事です。
クレストHDの場合、セールスフォース・ドットコムのダッシュボードで全社員がデータにアクセスできるようにしました。また、KPIや会社の売上状況などもリアルタイムに把握できるようにしました。
結果、各部門が自分たちの目標を確認し、予実管理の観点で進捗状況を把握できる環境に変わりました。また、他部門の状況も見られるため、ほどよい相互監視の体制ができ、けん制の効く組織運営が実現できました。
経営理念を振り返り全社員の意識を集約
ツールを導入し、データを共有・活用可能な状態になったら、すでに日々の仕事はある程度まで効率化されているはずです。Lの世界の取り組みはこれでほぼ終了ですが、最後の仕上げとして、会社の存在意義や経営理念をいま一度振り返り、業界や会社の過去とこれからについてじっくり話し合う機会を作りましょう。
議論のテーマとしては、以下のようなことを考えてみると良いと思います。
- 自分たちの会社が何をすることを目指し、設立されたのか
- 先人と自分たちが解決しようと取り組んでいる社会課題は何か
- 創業時と今とでは市場や世の中の環境がどう変わったか
- 設立当時の経営理念の中にある要素の中で、次世代に引き継ぎたい本質は何か
- 自分たちはビジネスを通じてどういう未来を作りたいのか
なぜ過去を振り返るのかというと、創業の背景などを理解することにより、会社の社会的な使命と責任や、現在までにどんな風に社会に役立ってきたかが分かるからです。業界や会社の歴史を尊重する気持ちも高まりますし、先人から受け継ぐ事業に価値を感じ、より良いものに変えたいという意欲も強くなるでしょう。
レガシー企業のなかには、起業の背景や経営理念に込められたメッセージが曖昧な場合もあります。そのような場合は、これを機に経営理念を刷新しましょう。レガシーマーケットを次世代のマーケットに刷新し、世の中に貢献するという強い意志を、全社で共有できる言葉にまとめるということです。
経営理念などを浸透させる施策としては、リッツカールトンのクレドのように経営理念やミッションなどを記載したカードを配ることができますし、毎日の朝会などで経営理念を読み上げ、会社の在り方や、ありたい姿などについて話す機会を作ることもできます。
経営理念が浸透するほど、自分たちがビジネスを行う理由が明確になります。難しいことや大変なことに挑戦する意欲も湧きやすくなり、全社一体となってLMIに取り組んでいく体制も作りやすくなります。
そこまできたら、次はいよいよ、LMIの本丸であるIの世界です。
Lの世界で生み出すリソース(資金や時間など)と、全社員で新しいアイデアを考える熱意を合わせて、過去にない市場を作り出しましょう。次回は、そのためのアイデアを思い付く限り紹介します。
著者プロフィール:永井 俊輔(ながい しゅんすけ)
クレストホールディングス 代表取締役社長。1986年群馬県生まれ。早稲田大学卒。株式会社ジャフコでM&Aやバイアウトに携わった後父親が経営する株式会社クレストに入社。CRM(顧客関係管理)やマーケティングオートメーションを活用して4年間で売り上げを2倍に拡大し、クレストをサイン&ディスプレイ業界の大手企業に成長させる。2016年に代表取締役社長に就任。ショーウィンドウやディスプレイをWeb同様に正しく効果検証するリアル店舗解析ツール「エサシー」を開発するなど、リアル店舗とデータサイエンスの融合を目指す。成熟産業にITやテクノロジーを組み合わせ、新たな価値を生み出すLMI(レガシーマーケット・イノベーション)に尽力。
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