この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。
ビジネス書の著者たちによる連載コーナー「ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術」バックナンバーへ。
讃岐釜揚げうどん「丸亀製麺」を運営するトリドールホールディングスで、社長秘書・IRを担当している小野正誉です。この度、「丸亀製麺に学んだ 超実直! 史上最高の自分のつくりかた」という書籍を出版しました。その中で、ビジネスの命題である「いかにしてお客さまのニーズやウォンツを引き出すか」ということについて触れましたので、その一部を紹介します。
矛盾と戦ってこそ、イノベーションは生まれる
丸亀製麺には、どうしたらお客さまに喜び感動してもらえるか、足を運んでもらえるかというお客さま目線を貫く利他の思いが常に存在します。ほかの業界も同じだと思いますが、飲食業においてもお客さまに喜んでもらいたい感動してもらいたいというのは最大で最難関の目標ではないでしょうか。
お客さまに喜んでもらうために私たちが大切にしているのは、「手づくり、できたて」の商品を提供すること。しかし、それを具現化するには、通常の飲食店と比べて人件費、教育費、水道光熱費、製麺機への投資など多くのコストがかかります。
いかに売上を上げ、コストを抑えて利益を残すかということがビジネスの世界では求められますが、丸亀製麺の場合、まずコストがかかる……。丸亀製麺がコストとお客さまの満足の間でどのように行動しているかを象徴する出来事を紹介しましょう。
私が入社してすぐの研修での話です。講師がさっそうと現れていきなりホワイトボードに書いた言葉が、「二律背反」(にりつはいはん)。はじめて目にする言葉に「どういう意味?」と身を乗り出しました。
当時のノートには、「二律背反:一見成立し得ないもの、矛盾しているものを両立させること」とメモしてありますが、ちょっと分かりにくいですね。
一般的には、江戸時代の財政難のときに行った政策の違いが、二律背反の例として持ち出されることがあります。徳川吉宗は、「質素倹約を持って財政を立て直そう」としました。つまり節約しましょう、と言った訳です。
いっぽう、徳川宗春はというと「お金を市場に流通させてこそ財政は立て直せる」として、散財を進めました。つまり、どんどんお金を使いましょうと進めた訳です。かなり矛盾していますね。
この2つの考え方は真っ向から対立するものですが、どちらも正しいということから、二律背反だといわれます。
話を戻しますと、丸亀製麺では「手づくり、できたて」にこだわり運営しています。
手間暇かけて手づくりで、できたての商品をより安く提供する、ある意味もうけ度外視のようにもみえることを実践する。そこには当然コストがかかります。
しかし、店舗運営はビジネスですから、売り上げをしっかり確保し利益も出さないといけません。ここでの話は、「手間暇(コスト)をかける」「利益を出す」この2つの相反することを実現することに意義がある、それは難しいことだけどそこに価値がある、という内容だったと思います。
皆さんの周りにも、一見矛盾しているようで、解決できないと諦めている商品やサービスなどは、ないでしょうか。もしかしたらそれが、イノベーションの種になるかもしれません。
ファーストリテイリング会長の柳井正氏は以下のように言っています。「矛盾と戦ってなんとか解決策を見いだす。そこにプロとしての付加価値が生まれる」(『経営者になるためのノート』柳井正 著)
こだわりを持ち、実直に取り組んでいるからこそ、2つの相反する事象を乗り越えられる。それが、イノベーションを起こす力になっているのではないでしょうか。付加価値は簡単には生まれない。どこまでもお客さまのために矛盾と戦い続けなければいけないのです。
新たな価値は、どこに潜んでいるか?
私たちのこれまで企業理念は、Simply For Your Pleasure.(「全てはお客さまのよろこびのために」)でしたが、2019年に、Finding New Value.が新たに加わりました。時代がどんどん変化していくなかで、お客さまへ新たな価値を創造し、提供していかなければ生き残ってはいけません。
生き残ると言うと少し語弊があるかもしれません。限られたパイを奪い合って勝ち残るのではなく、新たな価値を創造して、もっと明るい世の中をつくっていきたいという願いが込められています。
おそらく10数年後には、AI(人工知能)の発達によりロボットに大半の仕事を奪われ、逆に人手が余り1つの仕事を2人で分けて働くワークシェアが増えてくるといわれています。これは、想像の話ではなく、近い将来かならずやってくる現実です。
そうなると1人当たりの収入は激減し、真っ先に削られるのは外食費になるのは目にみえています。「モノ」を売る時代から「コト」を売る時代に変わったといわれて久しいですが、この言葉こそが飲食業の未来を指し示しているように思えるのです。
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