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“協調型リスクマネジメント”への発展的進化の必要性視点(1/2 ページ)

多発化、深刻化する危機的事象に柔軟かつ広範に対応するためには、他社との連携も視野に入れる必要がある。

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Roland Berger

1、危機的事象の多発化・深刻化

 新型コロナウイルス感染症の流行は、世界経済に深刻な打撃を与えたが、近年日本ではさまざまな危機的事象が多発している。東日本大震災以降も大規模な地震が相次いでおり、台風・集中豪雨による水害や土砂災害は毎年のように日本列島を襲うようになった。

 サプライチェーンのグローバル化により海外での危機が日本企業にダメージを与えることも多くなった。タイの洪水被害による自動車業界への影響はその典型だ。危機的事象の発生が企業経営に影響を及ぼす頻度と深刻度が増大しているといえるだろう。

2、リスクマネジメントの協調化

 翻って、そういった危機的事象の発生に対応するためのリスクマネジメントは、本来、各社が鎬を削る「競争領域」ではなく、他社と手を携える「協調領域」ではないだろうか。第一に、危機的事象の発生は広く多くの企業に被害をもたらすものであり、各社の取るべき対応策にそれほど大きな差はないからである。

 多発化・深刻化する危機的事象に柔軟かつ広範に対応するためには、一社単独のリスクマネジメントではおのずから限界がある。調達先や納品先も含めたサプライチェーンのレジリエンス性を高めるためには、共通の取引先を有する競合他社とも連携を図ることが有効である。Industry 4.0に代表される産業構造の革新、IoTやAIといったデジタル技術の進化は、他社との連携によるリスクマネジメントを容易とするはずだ。

 今後、自社の事業継続のみを主眼とした従来型のリスクマネジメントでは対応しきれない危機的事象が増えると予想される。企業間の垣根を超えた“協調型リスクマネジメント”への進化は、事業継続性を高めるために不可欠といっても過言ではないだろう。

3、“協調型リスクマネジメント”の要諦

 “協調型リスクマネジメント”を実現するにあたっての要諦は、「A.業界内連合の創成」「B.ニューノーマルの定着」「C.デジタル技術の活用」の3つである。

 「A.業界内連合の創成」は、各企業が個々に作成していた「BCP(事業継続計画)/BCM(事業継続管理)」を業界内の企業連合として一本化し、共同体制で対応できる仕組みを構築することにある。危機的事象が発生した際には、そのリスクを業界全体で受け止めることで、個社が受けるダメージの振れ幅やインパクトを小さくできるはずだ。

 サプライチェーン全体をマネジメントすることで、縮退や復旧の歩調を合わせることも容易になる。それゆえ、企業連合は「自動車業界」や「製薬業界」といった、調達先や納品先が共通する業界単位で形成することが望ましい。

 業界内で協調を図るにあたり、政府や自治体、業界団体などの果たす役割は極めて重要である。例えば、感染症の流行がピークアウトしたとき、どのようなタイミングで、どこまでの復旧を果たすのか、その基準とマイルストーンを設定し、各社の足並みをそろえる旗振り役が必要となる。日本企業は欧米企業と違ってトップダウンでの意思決定を下しにくいがゆえに、企業連合内での各企業の役割や権限の持たせ方などにも留意が必要であろう。

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