“協調型リスクマネジメント”への発展的進化の必要性:視点(2/2 ページ)
多発化、深刻化する危機的事象に柔軟かつ広範に対応するためには、他社との連携も視野に入れる必要がある。
「B.ニューノーマルの定着」は、危機対応を日常業務に組み込むことで、対応力を高めるとともに、日常業務の高度化も実現しようとする取り組みである。例えば、普段からあえて「トラック輸送と鉄道輸送を組み合わせる」「テレワークやオンラインミーティングを増やす」ことで、いざというときの対応力を高めるだけではなく、新しい働き方改革を促すこともできる。
製造業においても、「VR/AR技術を活用した遠隔制御」や「RFIDタグを使ったデジタルでの現在地情報管理」など、サプライチェーンを維持・継続する上でも重要であり、日常業務の生産性向上にも資する技術の導入が期待される。
“協調型リスクマネジメント”は複数の企業を対象とするため、BCP/BCMの浸透を図ることが難しい。だからこそ、危機対応と日常業務を融合した“ニューノーマルの定着”により、危機的事象が発生した際の初動対応力を高めておくことは非常に重要といえる。
最後に、「C.デジタル技術の活用」は、業界内連合を構成する企業は当然のこと、それ以外の調達先・納品先や物流会社などとの連携を深めるために不可欠である。逆にいえば、複雑化・多様化するサプライチェーンの現状を踏まえるに、人手でのアナログ対応では的確な措置を講ずることが難しくなっている。
例えば、ドイツの自動車部品メーカーであるBoschは、「SupplyON」というデジタル基盤を通じて、サプライヤーの在庫システムと自社の生産管理システムを連携させている。この仕組みを活用することで、危機的事業が発生した際にも調達先の在庫数量や生産機能の回復状況をリアルタイムで把握し、対応策を実行することができる。このような企業の垣根を超えたサプライチェーン情報の共有は、デジタル技術の活用なくして実現できない。
他方、今までの自然災害では、「機械は壊れるので有事の際は人手での対応」が原則であった。しかりながら、「作業」ではなく「情報・データ」については、クラウドの拡大やIoTの進化により、危機的事象が発生したときにも活用できるようになった。「B. ニューノーマルの定着」の実現に向けても、新しい働き方改革やサプライチェーンマネジメントの高度化に資するデジタル技術を戦略的に活用していくことが重要といえる。
4、“協調型リスクマネジメント”への発展的進化
新型コロナウイルスの終息後、多くの企業ではリスクマネジメントの在り方を見直すことになるだろう。しかし、その取り組みが単にパンデミックへの対応策を強化・拡充するだけだとすれば、多発化・深刻化する「次なる危機」に対応できない。
新型コロナウイルスの流行により広く多くの企業が打撃を受けたからこそ、“協調型リスクマネジメント”を導入する好機といえるのではないか。業界全体として新たなリスクマネジメントの仕組みを構築することができれば、危機的事象への対応力のみならず、産業としての競争力をも高められるはずである。
著者プロフィール
小野塚征志(Masashi Onozuka)
ローランド・ベルガー パートナー
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士総合研究所、みずほ情報総研を経て現職。サプライチェーン/ロジスティクス分野を中心に、長期ビジョン、経営計画、成長戦略、新規事業開発、M&A戦略、事業再構築、構造改革、リスクマネジメントなどをはじめとする多様なコンサルティングサービスを展開。2019年3月、日本経済新聞出版社より『ロジスティクス4.0−物流の創造的革新』を上梓。
著者プロフィール
貝瀬斉(Hitoshi Kaise)
ローランド・ベルガー パートナー
横浜国立大学大学院修了後、大手自動車メーカーを経てローランド・ベルガーに参画。その後、事業会社、ベンチャー支援会社を経て、2007年にローランド・ベルガーに復職。モビリティ戦略チームのリーダーシップメンバー。モビリティ産業を中心に開発戦略、M&A支援、事業戦略、マーケティング戦略、政策立案など多様なプロジェクトを手掛ける。
著者プロフィール
呉昌志(Masashi Go)
ローランド・ベルガー シニア プロジェクトマネージャー
京都大学経営管理大学院修了、国内大手システムインテグレーターを経てローランド・ベルガーに参画。モビリティ/デジタル・IT分野を中心に、成長戦略、新規事業開発、海外市場参入戦略、BPRなど多様なコンサルティングサービスを展開。RBソウル・オフィスへのトランスファーを経験し、韓国系大手財閥企業との多くのプロジェクト経験を保有。
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