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異業種発・日本発の医療機器イノベーションの創り方視点(1/4 ページ)

製薬企業のみならず、昨今幅広い異業種にとって「ヘルスケア」「ライフサイエンス」「メドテック」は、多くの日系企業の成長戦略の要の一つとなっている。

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Roland Berger

 製薬企業のAround/Beyond Drug戦略、すなわち疾患領域スペシャリストとしての医療機器参入戦略は「日系製薬企業の戦略的トランスフォーメーション」(視点121号服部著) においてご紹介させていただいた通りだが、製薬企業のみならず、昨今幅広い異業種にとって「ヘルスケア」「ライフサイエンス」「メドテック」は、異口同音に多くの日系企業の成長戦略の要の一つとなっている。本稿では製薬企業も含め、日系異業種企業による医療機器事業開発の要諦(ようてい)について、考察したい。

1、数少ない有望事業領域(高成長・高収益)

 そもそもヘルスケア領域になぜ注目が集まるのか。日本は世界的に見ても、超高齢化社会といわれて久しく、また先進国のみならず、中国をはじめとする新興国も高齢化社会に突入し、世界はますます長寿高齢化していく。

 高齢化による医療費の増大が各国の財政を圧迫する一方で、クオリティー・オブ・ライフが生活者・医療現場でますます重要になり、健康状態の管理、疾病の診断・予防、治療、治療後のフォローアップやケア含め、ペイシャント・ジャーニーが拡がりながら最適化される方向でヘルスケア業界は発展・進歩する。加えて、償還価格制度に裏打ちされた医療機器事業の収益性の高さも魅力の一つに挙げられよう。

 医療機器業界は、一定のスケールメリットが効くため(顧客基盤である医療機関ネットワーク、疾患知識・知見を背景とする営業力、グローバル市場へのアクセスによる開発効率など)、大手寡占傾向は強いが、特定疾患領域でドミナント・ポジションを築けば、営業利益率で20%以上を稼ぐ高収益企業も多い。

 例えば、泌尿器科を中心に手術ロボット「ダヴィンチ」を展開する米Intuitive Surgicalは、手術ロボットの機器+保守・消耗品ビジネスモデルで、売上高31億ドル、年間平均成長率14% (直近3年)、営業利益率33%超を達成している。同じく米Globus Medicalは、米Stryker、Medtronicなどグローバルジャイアントが寡占する脊椎領域にて、後発ながらグローバルでシェアを確保し、高成長・高収益企業の代表例となっている。

 なお、国策としても、医療機器の貿易赤字解消と日系医療機器メーカーの国際競争力向上は重要課題である。産官学民が注目する分野である。

2、医療機器業界の参入障壁・特徴

 他方で、特に門外漢の異業種メーカーにとって、医療機器は決して簡単な市場でない。疾患領域、診断・検査・治療などによっても異なるが、市場がますます細分化され、その中で医療機器開発の要素技術は複雑化している。例を挙げると、デバイスのマイクロエレクトロニクス化、高度なセンシングと制御(例、手術ロボット)、製品の小型化や生体親和性向上に向けたナノテクノロジーや材料進化、ワイヤレスやモバイルアプリケーション(例、アルムの「Join」) だ。

 また自動車やコンシューマー・エレクトロニクスのように、量が出ないため、単一製品の事業規模も小さい。他方で、人命に関わる製品につき、臨床試験・薬事申請といったプロセスに費用と時間を要するがゆえに、特に大企業の事業開発規模の間尺に合いにくい。また、マーケティング・広告、営業活動上のさまざまな法律・業界団体のガイドラインなどの制限を受ける。異業種での商売のやり方は通用しない。

 ただし、技術競争余地のある疾患領域・製品領域では、エビデンスと実績が重要視される医療機器業界においても、プレイヤーのシェア構造はがらりと変わる。2000年前後の冠動脈ステントが代表例だが、Cardinal Health社の子会社であるCordis社 ⇒ Guidant Corporation社(現Boston Scientific) ⇒ Cordis社とマーケットリーダーは3〜5年置きに入れ替わっている。

 また、近年の事例としては、血栓回収デバイスにおいても、金属製ステントが主流の市場に対し、米ベンチャーPenumbraがカテーテル型で2011年の上市後急速に浸透し、市場の過半を取るに至った。他方で、金属製ステントでもMedtronicが2014年上市の新製品でシェア獲得に成功している。これらは良い製品を開発できればシェア構造はひっくり返せること(良い製品は必要条件で十分条件ではない)、他方で継続的な改良開発をしないと短命に終わるリスクがあることを示唆している。

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