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変わらないと、LIXIL 2万人超えのテレワーク支援を内製エンジニアでやりきる――LIXIL IT部門 基幹システム統括部 統括部長 岩崎 磨氏緊急特集 デジタル変革の旗手たち――テレワーク対応編(2/2 ページ)

テレワークの実現に向けさまざまな技術やサービスを活用したが、かねてよりいつでもどこでも働ける制度とシステムを整えてきたからこそ、短期間で一気に移行できた。

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変革への挑戦は内製エンジニアでやりきる

 岩崎氏から見て今のLIXILは、「変わろうとする経営陣がそろっていて、そこにフルコミットするIT部門がリーダーシップを発揮している特異な会社」だという。IT部門は中途と生え抜きの混合チームで、岩崎氏をはじめ幹部は40代前半が中心だ。もちろん若さが重要なのではない。大切にしているのは、既存のやり方を否定するのではなく、ドラスチックに変える部分、新しいやり方と融合していく部分を柔軟に嗅ぎ分け、LIXILだけの価値を生み出していくという姿勢だ。

 「僕は、2018年にWeb業界から転職してきました。“なぜ真逆なイメージの老舗製造業に?”と思われるかもしれませんが、LIXILの面白さは、グローバルで数万人規模のITが目の前にあり、一つの施策で非常に大きな変化が得られること、その価値に対してチャレンジしたいメンバーがそろっていることですね。ちなみに今、仲間を絶賛募集中です」(岩崎氏)

 エンタープライズ企業のご多分に漏れず、LIXILにも外部ベンダーの協力を仰ぎながら進めていく文化があった。しかし、ゼロトラストを実装していく上で、「なるべく自分たちでエンジニアリングをやっていこう」という素地を作っていった。新型コロナに関する緊急対応は、基本的にほぼ全て、約10人の内製エンジニアの手でやりきっている。「テック系の企業では当たり前のことです。(伝統的な)製造業だからと甘えず、自ら課題解決できるチームを作ってきました」(岩崎氏)

 今回、VPNからEAAに移行することで大規模なテレワークを実現したと前述したが、舞台裏はドタバタだったという。新型コロナの影響が広がり始めた1月から2月のタイミングではまだVPNをメインで使っており、テレワーク社員が増えるにつれてライセンスの枯渇と増強のイタチごっこだったという。「このままではあと2日でテレワークできない人が出る、というところまで追い込まれました。“エンジニアの英知を結集するしかない”と奮起して、朝3時頃まで構築とテストを繰り返していましたね」(岩崎氏)

 テレワークに移行してからは、「Zoomをつなぎっぱなしにして雑談しながら、“これ使えるんじゃないの?”などと会話しながら仕事をしていましたね。チームで行けそうだと判断したら即実行という感じでクイックに進めていきました。このコロナ禍を自力で乗り切れた僕らは、主体的にDXを進め、チャレンジできるスタート地点に立てた……いや、一歩先に進めたと思っています」(岩崎氏)

アジャイル・スクラムの概念で、従業員のサポートを強化

 社内のテレワークと並行し、取引先との打ち合わせもオンラインに移行している。全国92のLIXILショールームでは、Zoomを使い、商品の360度写真や3Dの完成予想イメージを映しながらのオンライン接客もスタートしている。

 しかし、ZoomやGoogle Meetといったデジタルツールに苦手意識を持つ従業員もいる。せっかくツールを導入しても、顧客の前で映像が出ない、音声が出ないといったトラブルが続けば機会損失となってしまう。岩崎氏のチームは、従業員へのサポート体制を強化した。

 今回サポートにあたったのは、普段ヘルプデスクを担当しているメンバーではなく、開発のメンバーだ。従業員や顧客の間で今どんなニーズが発生しているのか、自分たちが提供したツールがどう使われ、どんな改善が求められているのか迅速に把握するためだ。

 「従業員がZoomを使っている最中にトラブルがあれば、7、8人のSWATチームがそのZoomに乗り込みます。その場で設定も変えるし、使い方もレクチャーする。修正が必要なら、30分から1時間後にはすぐ修正リリースするといったように、アジャイル・スクラムの概念で、MTTR(Mean Time To Repair)を短くすることにこだわりました」(岩崎氏)

 また、FacebookのWorkplaceを社内のオープンなSNSコミュニティーとして活用し、誰でも気軽にツールの困り事を吐き出せるようにした。IT部門だけでなく、知見のある従業員も加わって解決に導いていく場所が出来上がっていた。

 アジャイルとは本来、エンドユーザーに寄り添い、素早く良いものを提供していく取り組みだ。モダンで良質なツールをいち早く導入することは大事だが、泥臭いながらもサポートに力を入れることで、組織としての進化のスピードは格段にアップしたと言えそうだ。

コロナとの共存で増えるリフォーム需要にデジタルで応える

 一連の取り組みも功を奏し、4月に国内従業員を対象に実施した在宅勤務状況に関する意識調査では、昨年末と比較して従業員エンゲージメント指数が10%向上したという。岩崎氏は、「この数カ月、従業員が自らの働き方を通してデジタルの強みを実感できたことが大きい。自分たちが気付けたからこそ、それをどう使えばエンドユーザーに喜ばれるかという視点で考えることができる」と話す。

 「今後は、これまで以上にリフォーム需要が高まってくると思います。テレワークの浸透で外の騒音が気になり始めたから防音性の高い窓に変えてみようとか、快適に過ごしたいからお風呂をちょっと良くしてみようかとか、トイレも2つほしいよね、直接触らずに水を出せるタッチレス水栓に変えようか、といったニーズがたくさん生まれてくる。そこでわれわれは、デジタル技術を駆使して提案し、しっかりと応えていきたい」(岩崎氏)

 その観点で、オンライン接客には、リアルの代替にとどまらない可能性がある。「例えば、3DやARの技術を使ったオンライン接客では、お客さまに足を運んでもらうショールームと違い、われわれが家族団らんの中に入り込んで接客できます。実はこちらのほうが、家族の意見をくみ取れるかもしれないし、色合いや他の家具との相性など、実際にプロダクトを設置した場面をイメージしてもらいやすいかもしれません」(岩崎氏)

 わすか数カ月だが、嵐が過ぎるのを待った企業と、死中に活を求めてひたすら行動した企業とでは、アフターコロナで大きく差が開いていくはずだ。LIXILのケースは、中長期的な戦略と準備の重要性を物語っている。2年前、ゼロトラスト戦略を描いた最初の日も、予期せぬコロナ禍で2万人越えのテレワークを実現した日も、全ては地続きだ。「自分たちはできていない」と嘆くより、そう気づいた瞬間に始めればいい。


トイレでインタビューですか? いいえ、これもLIXILのバーチャル背景です。

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