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「企業とエンジニアは“人の根源的な喜び”に貢献せよ」――コニカミノルタ 代表執行役社長 兼 CEO 山名昌衛氏@IT20周年企画「経営トップに聞く、DXとこれからの20年」(2/4 ページ)

グローバルでDXの潮流が高まり、パンデミックによりビジネスそのものの在り方も問われている今、経営者が自ら、「テクノロジーを前提とした変革」と「サステナビリティに向けた戦略」を語り、迅速に実行できるか否かが試されている――本連載ではDX実践企業の経営者に「ITに対する考え方」を聞く。初回は2003年の経営統合以来、“事業のトランスフォーム”を追求し続けているコニカミノルタ 代表執行役社長 兼 CEO 山名昌衛氏に話を聞いた。

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DXは、テクノロジーが「答え」ではない

 山名氏は2017年4月、「Workplace Hub」の国内説明会の際、「ハードウェア主体の事業モデルから、ソフトウェアやサービスの進化にハードウェアを取り入れる新しい製造業の在り方に挑戦する。自らの手でゲームチェンジしたい」と語った。こうした言葉自体は、さして珍しいメッセージではない。だが同氏の語る「ゲームチェンジ」は、他社が語るそれとは大きく異なっている。ともすれば「収益向上」のみに視野が閉じてしまいがちな「DXの目的」――その本当の意義と形を実感できるはずだ。

内野 山名さんは2017年4月、「Workplace Hub」の国内説明会の際、「ハードウェア中心からソフトウェア/サービス中心の新しいビジネスモデルに変革する」と発表されました。DXの潮流を背景に、最近でこそ「モノ売りからコト売りへ」といった考え方が浸透していますが、アクションに乗り出せない経営者は少なくありません。むしろDXという言葉に捉われ、AIやクラウドなどに関心を示しても、その活用は現場に丸投げしてしまう傾向も強いようです。山名さんはDXをどう捉えていらっしゃいますか。

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コニカミノルタ 代表執行役社長 兼 CEO 山名昌衛氏 1977年ミノルタカメラ株式会社に入社。新興国の市場開拓、英国駐在などでの海外販売や、全社経営企画に携わった後、買収した米国プリンター会社のCEOを務める。帰任後はミノルタの執行役員として、コニカとミノルタの経営統合推進の一翼を担った。2003年の経営統合以降は、常務執行役として経営戦略を担当、2006年には取締役 兼務 常務執行役。2013年取締役 兼務 専務執行役(情報機器管掌)、2014年4月より代表執行役社長に就任し、現在に至る

山名氏 DXとは、社会的な課題を解決するために、テクノロジーをバリューに昇華させること――言い換えると、企業が存在する社会的意義を明確にして、価値を提供すること。それがDXの取り組みだと捉えています。重要なのは、DXを「テクノロジー」と捉えるのではなく、「テクノロジーを使ってどうバリューに仕立てるか」と考えることです。バリューにするからこそ社会的課題が解決でき、会社の存在意義を明確にできる。DXそのものはテクノロジーがベースですが、テクノロジーが「答え」ではありません。テクノロジーを磨き、いかにバリューとして形にするか――それが「経営」だと考えます。

内野 ただ一般に、ITと経営を結び付けて考え、戦略に落とし込める経営者は少ないと言われています。現場の担当者がITを重視していても、経営側が理解していないケースも多いようです。

山名氏 そうでしょうか(笑)。確かに、かつてはITと言えば「ITシステム」や「IT部門」のことでした。しかしそれは20年前の話であって、今のITは経営戦略そのものです。ただし、テクノロジーがそのままバリューになるわけではありません。バリューにするのは人財です。だからいい人財を育て、継続的にバリューを生み出せる仕組みやカルチャーを作る。

 この人財とはIT人財に限りません。お客さまに製品やサービスを届ける人財にとってもITの知識が必要です。あらゆる機能や役割を果たす全社員がITリテラシーを身に付けることが大切です。企業ごとにビジネスモデルは異なりますが、ITをビジネスモデルに組み込んでバリューとしてお客さまにお届けする、お届けできる体制を築くことは経営者の仕事であり、どの企業にとっても必須になっていると思います。

内野 日本企業の慣習として、ITの開発・運用をベンダーやSIerへの外注に頼り、内製化していないために、人財が育ちにくいという話もあります。

山名氏 それは日本企業のトラディショナルな課題でもあります。経営者がITを「ITシステムの話」と捉えてはいけないのと同様に、ITをベンダー任せにするのはもう時代に合わなくなっています。ベンダーに「どう開発をお願いするか」ではなく、「何のためにITを使うのか」を考えることが重要です。これは「バリューを提供するために、ITをどう活用するか」「ビジネスモデルをどう作るか」という話です。ベンダーには開発物のアウトプットに対する責任を求めることはあっても、「バリューを作ること自体」を求めることはできません。ITやベンダーとの付き合いそのものが目的化してはいけないのです。

変革には「軸足」となるものが不可欠

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アイティメディア 編集局 IT編集統括部 統括編集長 内野宏信

内野 貴社は2003年の経営統合以降、常に変革を続けていらっしゃいます。ただ光学、画像、材料、微細加工といったコア技術と、SMBを中心に顧客に寄り添う「Go To Market」というスタンスは堅持されていると思います。山名さんは「変革」をどう捉えていらっしゃるのでしょうか。

山名氏 当社は統合会社ですが、統合後にそれぞれの創業事業であったカメラ、写真事業から撤退しました。これにより、グローバルに有していた顧客基盤、顧客接点も大きく変わりました。以降、直販も含めたB to Bによるサービスをアセットとする企業として、20年近く変革に取り組んできた実績があります。この歴史が示すのは、「変化を恐れず、変化対応力を付けることを実践してきた企業である」ということです。これは社員にも常々言っています。経営環境変化のスピードが速まり、不確実性も強まっている今、企業の中長期の持続的な成長には変化対応力が最も大切だと強く思います。

 そうした変革を遂げる上で、大切なのは「軸足をぶらさずに自らが変容を遂げること」です。軸足には、当社が築き上げてきた無形資産があります。コニカミノルタという新会社が設立されたときから、テクノロジーの会社としてコアな技術を絞り込んできました。時代が不確実だからこそ、無形資産という自社の強みをきっちりと棚卸しする。棚卸しするだけではなく、常に磨き続けて、競争力ある無形資産にしていく。それを軸足にビジネスモデルを時代とともに変え、イノベーティブな価値を提供し続ける。その価値を通じて社会的な課題解決につなげていく。これが変革の要諦だと考えます。

ディスラプションに身構えるのではなく、自らディスラプターになる

内野 2015年以降のコーポレートガバナンス改革の潮流もあり、人財、ノウハウなど財務諸表に現れない無形資産を大切にするという考え方は近年でこそ重視されています。貴社は2003年以降、これを変革の礎とし続けてきたわけですね。ただ、人は変化を嫌う側面もあります。特にDXの文脈では、経営層がディスラプションに危機感を抱いていても、中間管理層が変革の抵抗勢力になりやすいともいわれています。

山名氏 当社においてもまったくないとは言い切れません。変化を好まないのは人間の習性でもあります。ただ当社は、グローバル競争が激しくなる中で、コニカ、ミノルタ両社がお互いの経営資源を持ち寄って、従業員の納得を得ながら、新しい道を切り開いてきた会社です。成功体験に安住せず、変化にリアクトするのではなく先読みして、自らが先に変容することの必要性は、全社員が十分理解していると思います。

 統合した2003年当時、ディスラプションという言葉はありませんでしたが、既存事業からは撤退しても、光学や画像といったコア技術は変えずに磨き続け、時代に合った商品・サービスを生み出し続けてきた。その実績が全社員を支えているとも言えます。「ディスラプトが大変だから身構える」のではなく、「自らがイノベーティブであり続ける」、場合によっては「自らがディスラプターになる」。これによって事業が成長し、経済的な価値、社会的な価値を生み出し続けることができるのだと思います。

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