「本がぁ! 本がぁ!」ムスカ大佐に学ぶビジネスパーソンが本を読む意義――俳優 寺田農氏:ITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(1/2 ページ)
本を読めとよく耳にするが、どんな本を読めばいいのだろうか。本を読むことのメリットは、登場人物の多くの人の思いや考えを想像し感じること、知らなかったことを知るきっかけになること。
ライブ配信で開催されているITmedia エグゼクティブ勉強会に、俳優、声優である寺田農氏が登場。「本を読むということ」をテーマに講演した。寺田氏は、1942年、椎名町(東京都豊島区)生まれ。1961年に文学座附属演劇研究所に第1期生として入所。同期入所に、樹木希林、橋爪功などがいる。2021年10月下旬には、主演映画「信虎(ミヤオビピクチャーズ)」が公開される。
大学ではジャーナリストを志望するも3カ月で断念し役者の道に
「大学に入って、ジャーナリストになろうと思っていたが、同時期に合格した文学座附属演劇研究所に入所して、なんとなく芝居の世界に足を踏み入れた。18歳の初舞台で、三島由紀夫先生の戯曲『十日の菊』に出演した。当時は役者にそれほど興味がなく、演出家とけんかばかりしていた。三島先生が亡くなる1週間前に偶然街で会い、あいさつした不思議な思い出がある」(寺田氏)。
その後、1968年に、岡本喜八監督の自伝的映画『肉弾』で主役の特攻隊員役に抜てき。その演技が評価され、毎日映画コンクール男優主演賞を受賞した。
「肉弾に抜てきされたのは、背格好、顔つきなどが、監督に似ていたから。監督の1967年の映画『日本のいちばん長い日』にも出演が決まっていてお会いしたときに、やたら体に触るので、“監督はおネエさん系なのか?”と思ったが、後にその話をしたら、すでに肉弾の企画があり、主役にふさわしいやせ具合を確かめるために触ったと大笑いされた。残念ながら、劇団の芝居と重なったため、日本のいちばん長い日には出演できなかった」(寺田氏)
また1985年には、相米慎二監督の映画『ラブホテル』でヨコハマ映画祭主演男優賞を受賞。1986年には、スタジオジブリ作品である『天空の城ラピュタ』のムスカ大佐役で声優にも挑戦した。2008年、東海大学文学部特任教授に就任。約5年間、映画史入門、現代映画論、演劇入門、戯曲・シナリオ論などの科目を担当していた。
「大学では、よく教え子たちから“ムスカ大佐やってください!”と言われたので、“成績が上がったら”と約束。やってみたが、本人がやっているにもかかわらず「似てないッ!」実はその役を覚えていなかったので、後に作品を見直して、“人がゴミのようだ!”や“目がぁ、目がぁ”など、3つくらいものまねとして言えるようになった」と寺田氏は笑う。
役者、声優以外では、2007年に板橋区立美術館の運営協議会会長に就任。2018年より、産経新聞で「本ナビ+1」という書評を執筆。2021年4月より、月刊美術で「寺田農のちょっと言わせて美術あれこれ」というエッセイも執筆している。
あらゆる人の考えを吸収できるのが本を読む利点、面白さ
本を読むと何がよいのか。寺田氏は、「人は、新しいことをはじめるとき、これまでの経験、知識などがベースになり、新しいアイデアをいかに具現化していくかを考える。しかし、その経験は小さな個人の経験でしかない。ところが本を読むことで、古今東西、あらゆる人の考えを感じることが、本を読む利点、面白さである」と話す。
また、知らなかったことを知るきっかけになることも本を読むメリットの1つ。「武田信玄の父である武田信虎は、後に息子である信玄に追放されてしまう。そんな話は映画に出るまで知らなかった。台本をもらい、関連する本を読んで初めて得た知識だった。どんな本を読んでも構わないが、まずは知識を得るために読む、興味のある分野の本を読むことだ」(寺田氏)。
役者という仕事は、今日は警察官役だったのに、明日は犯人役だったりする。さらに別の日は、裁判官役ということもある。それでも、これまでの知識や経験を生かし、常に役に徹することが求められる。寺田氏は、「役者の世界に入ったときに、日本のハムレットの役者の第一人者で、芥川龍之介を父に持つ芥川比呂志先生から、本を読め、本を読んで想像しろと散々言われ、これがきっかけで本を読むようになった」と話す。
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