第4回:タイム・イズ・マネーからタイム・イズ・ハピネスへ:仕事と自分を成長させる新しいキーワード「スモール・ハピネス」(2/2 ページ)
スモールハピネスなしで、パフォーマンスのことを主に考えることから、日常生活や仕事の中で、スモールハピネスとの付き合いを重ねていこう。
これに対して、柳一さんのゴルフ開始時間変更は妙手です。開始時間という一点のみを変えて、それ以外の習慣はほとんど変えることなく、ハピネスを倍増させています。
こういう手はありそうでないものですが、もし、柳一さんのゴルフ開始時間のような突破口が開いたら、ためらわずにとにかく試してみるべきだと思いました。
30分毎にスモールハピネスの機会をつくる
りなさんは元SEで、今は人事担当者。彼女はSEらしいスモールハピネスについてこのように話しました。
私はSEの仕事をしてきたせいか、人事担当者になった今でも、朝一番でメールのチェックをした後すぐに、Excelシート上でその日に行う仕事の作業リストを時系列にそって書 き並べています。例えば、「午前9:00〜9:30 部下2人との面談を行う」というように、30分を最小単位として作業を書き込みます。Excelに1案件1行でさっと書き込めるようにフォーマット化しています。
1つ何かが終わるたびに、実績をシート上にさらっと書いて頭をリセットし、では次はこれにとりくもうと確認しながら仕事を進めています。実績を書き込んだところで、達成感を感じていたのですが、それはまさにスモールハピネスでしょう。これからは「スモールハピネス」とつぶやくことにしようか。
実際の仕事では、予定外のものも「割り込み」作業的によく入るので、それも仕上げたら実績に書き込みます。予定外もスモールハピネスのチャンスです。
その日の終わりまでに、作業リストにあげた仕事全てを完了できたら、さらに、予定と比べて何かプラスしてできたら、やった!と思うのです。この方法を使うと予定と実績が並ぶので、すでにできたことと、まだできていないこととが現在進行形で一目瞭然となり、作業のもれもふせぐ効果があり、全ての仕事を完了させることの下支えになっています。
こういう仕事の進め方は、SEの仕事の肝だった予実管理の名残でしょうが、今はSEではないので厳密に行う必要はありません。むしろ、上記の作業リスト・ ベースの仕事は緩くやることがコツです。例えば30分単位よりは細かく刻まないようにします。また、作業リスト作成の目的は、作業の質向上を狙う分析ではなく、都度達成感を味わうことにおいています。
りなさんの話をききながら、キャメルはこんなことを考えました。
SEの経験があって、作業リストを作ることが負担にならなければ、この方法はスモールハピネスをゲットする仕掛けとして素晴らしい。元来、SEのパフォーマンスをあげるための方法であったのでしょうが、りなさんによってハピネスを得るための方法に衣替えされたのです。
一歩ひいてみれば、この方法は、パフォーマンスもハピネスも狙える「一つの型」であり、そのときの必要に応じて、どちらを狙うか切り替えることや、両方狙うこともできそうです。
予定しないことで生まれるスモールハピネス
りなさんは、作業リストの例のように「予定すること」でスモールハピネスをみつけるだけでなく、「予定しない」ことからもハピネスをゲットしています。
生活でも何かハピネスありますか? ときくと、こんな話を してくれました。
仕事でも、趣味でも、ネットにログインして、例えばザッピング(切り替え速読)しつつYouTubeをみます。私の好みをとらえたAIの判断のおかげで、頼みもしないのにおすすめ動画が出てきます。ただしこの方式だと意外性のある新しいものは出にくいですが、それでもたまには、おっというような予想外のものが出てくるのです。そういうときにスモールハピネスを味わうことができます。
このような予想外のスモールハピネスを味わうには2つの手があります。
1つ目は目的をもたないことです。調査目的をもって自分で何かを探しに行くのではなくて、好奇心にまかせてザップしているうちに、偶発的にポンと新しい情報がはいってきて、それがおっとラッキーという感覚を生み出すというあんばいです。
2つ目は、仮に目的を定めてサーチする場合でも、振り返りを織り交ぜることです。目的を決めてサーチしているときは、目的に狙いを絞るせいで、目的以外の意外性をもった副産物的な獲物がでてきても目に入りません。そういうときに、振り返りをいれると、副産物をみる余裕ができるのでハピネスを感じます。目的以外の副産物に出会うと、1つ目と同じく偶然性による「おっと」という驚きが生じるのです。もちろん、目的の獲物が得られたときもハピネスは感じられますが、ここでは意外性のある副産物から得られるハピネスについてお話しました。
今回は、時間の流れの中で、スモールハピネスと付き合う事例を紹介しました。全体を通して私が改めて気付いたことは、時間の質の変化です。以前の私のように、スモールハピネスなしで、パフォーマンスのことを主に考えていたときは、「タイム・イズ・ワーク」か「タイム・イズ・マネー」でした。これに対して、日常生活や仕事の中で、スモールハピネスとの付き合いを重ねていくと、時間は次第に「タイム・イズ・ハピネス」になっていくのです。
著者プロフィール:キャメル・ヤマモト
本名、山本成一。学芸大学付属高校卒、東京大学法学部卒業後、外務省に入省。エジプトと英国留学、サウジアラビア駐在等を経て、人材・組織コンサルタントに転身。外資系コンサルティング企業3社を経て独立する。専門は企業組織・人材のグローバル化・デジタル化プロジェクト。
また、ビジネスブレークスルー大学と東京工業大学大学院でリーダーシップ論の講義を担当。人材・組織論を中心に20冊余りの著作がある。近著は『破壊的新時代の独習力』(日本経済新聞出版)
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