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第5回:スモールハピネスの「型」:インプット(I)〜つなぐ(T)〜アウトプット(O): ITO仕事と自分を成長させる新しいキーワード「スモール・ハピネス」(2/2 ページ)

これまでの連載でスモールハピネスの事例を紹介してきたが、最終回なので、全ての事例を振り返りつつ、共通してみられる「型」について話そう。

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 第2の事例では、ハイパフォーマーの翔さんが、スモールハピネスにおあつらえ向きの絶好球がきても見逃したり、空振りしたりしていることを指摘しました。翔さんもいわばベテランのハイパフォーマーなので第1の事例で述べたことがあてはまりますが、この例ではもう一歩踏み込ん話しました。すなわち、スモールハピネスというヒットを打つには、パフォーマンスのストライクゾーンとスモールハピネスのストライクゾーンが異なることに気付き、視点をパフォーマンスのストライクゾーンからスモールハピネスのストライクゾーンにずらすことが必要だと述べました。

 その上で、視点のずらし方について3点指摘しました。この3点についてITOを意識しつつ復習するとこうなります(ポイントの順序もITOに合わせて変えてあります)。

 スモールハピネスを生み出すコツは、

 (1)何かと何かがつながることでハピネスを感じられるように自分を調教する、

 (2)アウトプットの期待水準を下げる、

 (3)小さなアウトプットでも鋭く感じとれるように感度を高める、でした。

 (1)はITOがハピネスなのだと学習することであり、(2)はITOが成立しやすいように期待アウトプットを低く設定することであり、(3)は(2)と密接に絡みますが、ごくわずかなアウトプットでも見逃さないでITO成立を感度よく捉えることを意味します。

 最後に、今回の連載の「あとがき」として、スモールハピネスを考え始めたきっかけを振り返りつつ、スモールハピネスを基点とするワーク・ライフを展望します。

 私がスモールハピネスについて取り組み始めたきっかけは、期待されるパフォーマンスを生み出すことがだんだん難しくなっている中で、せめてハピネスを味わおうと思ったことです。国際情勢の不安定さ、デジタル化・ソーシャル化を巡る変動の大きさと速さ、簡単には消えない感染症など、安定して高いパフォーマンスを生み出すことを難しくしてしまう「情勢」の中で私たちは生きているのですが、このような「情勢」は今後も続くでしょう。

 そういう中で、いわば防衛策としてスモールハピネスの考えがでてきました。仮に期待される成果(アウトプット)を生みだせなくても、小さなハピネスは味わえるようにしよう、それも毎日味わえるようにしようと思ってスモールハピネスをデザインしました。

 デザインの肝は、今回話したように、とにかくITOが成立すればハピネスが成立する点に置きました。その際、アウトプット(O)の水準が低くても、インパクトがあまりないような微妙なアウトプットであっても、ハピネスが成立するように自分の感度を高めていくことです。

 このようにデザインする意味は、スモールハピネスを考えるきっかけとなったパフォーマンスと比較することで明らかになります。パフォーマンスも、多くの場合、諸インプットをつなぎ合わせてアウトプットを生み出すというITOを経て成立します。

 ただ、パフォーマンスの場合は、アウトプットを生み出すだけではだめで、そのアウトプットが誰かのニーズに応えることや、他の人が生み出すアウトプットを上回ることが求められます。今の世の中、人々のニーズが定める期待水準も競争水準もどんどん高まっています。

 さらに、ニーズを満たし競争に勝つことに加えて、ESGやSDGsなど社会的・環境的要件を満たすことも条件となります。そうなると、相当高度で複雑なハイスペックのITO・パフォーマンスが求められるので、それを個人が独力で生み出すのはもはや無理で、さまざまな専門性をもつ他の人々との協働やAIなどを駆使することが求められます。

 これに対して、スモールハピネスは一人で毎日できる素朴で単純なITOでも成立します。そこにスモールハピネスのありがたみがあります。同時に、一人一人のITOがなければ、高度なパフォーマンスも成功しませんから、一人一人のITOの充実はハイ・パフォーマンスの必要条件にもなっています。

 このような対照的な事情に照らすと、パフォーマンスとハピネスの関係を切り替える必要性がみえてきます。従来は、難易度の高いパフォーマンスに成功してはじめてハピネスを味わうことができました。いわばパフォーマンス・ドリブンでした。

 これからは、パフォーマンスが全面的には成功しなくても、小粒のITOの成立のみでスモールハピネスは味わえるという保険をかけつつ、スモールハピネスを伴った小さな成功(小さなITO)を積み重ねていき、気付いてみたら複雑で高度なパフォーマンスにも成功している、という想定に切り替えます。

 パフォーマンス・ドリブンをスモールハピネス・ドリブンに切り替えることでハピネスは当然増大し、あわよくばパフォーマンスもうまくいく……。果たしてそうなるかは、自分に合ったITOをものにできるかにかかっています。

著者プロフィール:キャメル・ヤマモト

本名、山本成一。学芸大学付属高校卒、東京大学法学部卒業後、外務省に入省。エジプトと英国留学、サウジアラビア駐在等を経て、人材・組織コンサルタントに転身。外資系コンサルティング企業3社を経て独立する。専門は企業組織・人材のグローバル化・デジタル化プロジェクト。

また、ビジネスブレークスルー大学と東京工業大学大学院でリーダーシップ論の講義を担当。人材・組織論を中心に20冊余りの著作がある。近著は『破壊的新時代の独習力』(日本経済新聞出版)


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