第5回 ソフトウェア開発の英知を組織運営に適用せよ:“デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー”ではじめるDX2周目(1/2 ページ)
変革のマネジメントのために必要なのが「組織アジャイル」。ソフトウェア開発領域での概念である「アジャイル」という考え方と振る舞い、その仕組みを開発以外の業務、事業、組織運営に適用している。
「変革の負債」を一気に返そうとするDX
業務のデジタル化、人材教育・育成、既存事業の質的向上、そして新規事業の創出。デジタルトランスフォーメーションでは、こうした取り組みを順次始めていくことになる。あくまで日常の基本となる業務、コミュニケーションから変えていき、次の事業作りに向けてリスキリングの教育を用意する。
王道となる流れではあるが、それぞれの取り組みをやりきってから次へ移るという進め方にはならない。そうした直線的な段階構想では、最後までたどり着くのに大変な期間を要することになる。業務のデジタル化1つ取ってみても、この取り組みをやりきるところまで持っていくのに、1年や2年では済まないだろう。ゆえに、ここで述べた段階は始まりは順次ではあるが、それ以降並行して進めていくことになる。
逆に最初から全てを並行に取り組むのも推奨しない。ここまでの連載で述べた通り、急激な変化負荷を組織にかけても強いハレーションを生んでしまう。結局取り組むのは人なのだ。組織の中の人が受け止められて、日々の活動にできるかがどうかに全てがかかっている。速度を求めて、全てを同時にやれ、という勇ましいだけで無責任な評論に惑わされてはいけない。
DXは最終的には取り組みのポートフォリオをどう組むかという状態に入っていくことになるので、そのためのマネジメントが必要になる。捉えるべきはここに述べた切り口だけではない。より解像度をあげて見る必要がある。既存事業は組織が取り組む事業の数だけ対象があり、新規事業も1つ2つのプロジェクトを扱うということにはならないだろう。並行に取り組むものの多様さと数の多さは、それだけ組織が「変革の負債」を抱えていたということだ。変えるべきところを変えてこなかった、その負債を一気に返そうというのがデジタルトランスフォーメーションであり、その並行度合いを見誤ると組織のハレーションが一度に押し寄せるもろ刃でもある。
バックログとスプリントで探索を仕組み化する
変革のマネジメントのために必要なのが「組織アジャイル」である。もともとアジャイルとはソフトウェア開発の領域での概念である。重厚な開発プロセスへのアンチテーゼとして提唱され、より探索的に仕事を進める、かつ適応(結果からの学びで判断や行動を変えていく)を実現するための方法として整えられてきた。この「アジャイル」という考え方と振る舞い、その仕組みを開発以外の業務、事業、組織運営に適用しようというのが「組織アジャイル」である。
要点は、「バックログ」と「スプリント」という探索のための仕組みと、「ふりかえり」「むきなおり」という2つの適応を駆使するところである。本稿では概要にとどめるが、アジャイルの世界は奥深く、より詳細は「デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー」をあたってもらいたい。
「バックログ」とは要はリストのことで、変革のためのポートフォリオを可視化し、組織内で共通の認識とする対象になる。ポイントは、このバックログを「構造化」することである。変革の主語が事業部であれば、そのバックログはかなり抽象度の高いものとなるだろう。部であればそれに準じるものになる。もちろん、課やグループ、チームとなればバックログの解像度は最も高く、細かいものとなる。
こうした捉えるべき粒度が異なることを踏まえて、バックログを各階層それぞれで作る。そして、構造化されたバックログ間で内容の整合を取るようにする。事業部観点での施策Aは、部における活動Bであり、それを取り組むチームではよりタスクレベルに分解して遂行にあたっている。そうした関連をトレースできるように管理したい。
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