第4回 ドラッカー「部下の仕事の生産性を高める」:ドラッカーに学ぶ「部下を動かそうとする考えは時代遅れ」(1/2 ページ)
部下に指示したことと部下がやっていることが違う。部下をもつ上司なら、誰もがそんな経験をしたことがあると思う。そこには、上司と部下の間に、なんらかの認識の相違が起こっている。
前回は、「いま上司に求められている仕事」という話をした。今上司がやらなければならない仕事は、会社の想いや考えを伝えることである。それが、部下にとって働く意欲の源泉となるからだ。第4回は、「部下の仕事の生産性を高める」というテーマでお話ししたい。
生産性を高めるために最初に行うこと
上司の意思と部下の解釈の相違
部下に指示したことと部下がやっていることが違う。部下をもつ上司なら、誰もがそんな経験をしたことがあると思う。もちろん部下は、上司の指示を無視しようなどと思って上司の指示と違うことをやろうとしているのではない。そこには、上司と部下の間に、なんらかの認識の相違が起こっている。
ある企業でこんなことがあった。上司は41歳。その業界一筋の人間で、その分野についてはベテランだった。研究職という職種のせいか、はじめて部下を持たされたのは39歳の頃だった。部下をもってから2年目で、上司としてはまだベテランとはいえなかった。
彼の下に配属されたのは、院卒の新人で社会人一年生だった。部下は心あらたにこの仕事に全力を尽くそうと決意していた
ある日、上司は部下に指示をした。「例の件、来週の金曜日までに考えておいて」部下は答えた。「はい。分かりました」上司が言いたかったことを要約するとこうだった。「来週の金曜日までに、例の件について、簡単な企画概要書のようなものをA4ペラ一枚でいいので、自分のところに持ってきたほしい」
その部下は解釈はこうだった。「来週の金曜日以降に、ミーティングか何か行うのだろう。
そのために、頭の中でいろいろな思案をまとめていけばいい」資料を作成して、提出しなければならないとは、ゆめゆめ思っていなかった。その部下は、事実、資料作成することも、資料を提出することも、指示されていない。金曜日という期日があるだけだった。
部下の仕事にイラ立つ上司
数日が過ぎ、上司は自分の指示が部下に伝わっていないことに気が付いた。そこで、指示をあらためて言い直した。その指示はこうだった。「例の企画、来週の金曜日まで企画書を持ってきてほしい」上司は、その企画書をもとに、打ち合せを重ねながら、数回ブラッシュアップしていこうと考えていた。
企画書の提出までは部下に伝わった。しかし、打ち合せを重ねながら、数回ブラッシュアップしていこうという上司の考えは部下に伝わっていなかった。部下の解釈は「来週の金曜日まで企画書を提出すること」だけだった。部下の解釈は決して間違っていなかった。
その部下は、前記の通り、優秀とはいえ、社会人一年生だ。院生時代、企画書といえば、ボリュームは30ページほどで完成度の高いものだった。上司が頭に描いていたものはA4ペラ一枚で書かれたラフ案。しかし、部下がつくろうとしていた資料は、ボリュームは30ページほどで完成形に近いものだった。
当日金曜日の朝。企画書の提出はまだだった。上司は、金曜の朝に持ってきてほしかった。
部下は、金曜中に提出すればいいと思っていた。部下は、午前中、そして、午後と、必死になって何十枚もの企画書の完成に全力をあげていた。上司は自分のイライラが限界に達していた。「A4ペラ一枚に書くラフ案に何時間かかっているんだ」と。
あぜんとする上司に憤慨する部下
当日金曜日の夕刻4時過ぎ。部下は企画書を上司に持っていった。上司は既に、A4ペラ一枚を持ってくるものだと思い込んでいる。しかし、部下が手にしているのは何十ページもある企画書だった。「お前、何時間それにかけるんだ……」上司はつい言ってしまった。もちろん悪気はなかった。
部下は心の中でこう呟いていた。「必死につくった書類に対して、内容すら見てないのにその言い方はないのではないか!」その呟きはこう続いた。「もう、“この上司に応えよう”とは思えない。仕方ないから、適当にうまくやるかぁ」
「全力でやる」と決意していた部下の心が「適当にうまくやるかぁ」に変わった瞬間だった。
成果をあげる人に必要なのは、「成果をあげる力」ではなく、「生産性」である。より少ないインプットで、より多いアウトプットが得られるほど生産性が高く、より多くのインプットでより少ないアウトプットしか得られないと生産性が低いといえる。この上司とこの部下は、成果をあげる力を持ちながらも、極めて生産性の低い2人だった。
部下に成果をあげさせるために
以上のようなことは、あなたも経験があるのでないだろうか。上司として、部下の生産性を向上させるために何を最初に行えばいいのだろうか。
ドラッカーはこう言っている。
知識労働の生産性向上のために最初に行うことは、行うべき仕事の内容を明らかにし、その仕事に集中し、他のことは全て、あるいは少なくとも可能な限り無くすことである。そのためには知識労働者自身が、仕事が何であり、何でなければならないかを知らなければならない。
ピーター・ドラッカー
知識労働。この言葉は、この記事で私が幾度となく使ってきた言葉だ。この記事を始めて読んでくれた皆さまのために補足をすると、知識労働とは、知識や情報を使って価値を創り出す仕事のことだ。200年前は、仕事と言えばほとんどが力仕事だった。力仕事は、予定通り進んでいるのか、予定より進んでいるか、予定より遅れているか、目で見て確認することができた。予定より遅れていれば、「もっと急げ!」と指示することができた。
ところが、今日の仕事のほとんどがそうはいかない。知識や情報を使う仕事は、肉眼で進捗を確認することができない。ましては、部下は上司が何を考えているか、上司は部下が何を考えているか。どちらかがどちらかに、聞かなければ分からないし、知らされなければ分からない。大事なことは、仕事をする本人が「自分の仕事は何か」を理解しなければならない、ということだ。言われた通りに体を動かせばいい時代は既に終わった。部下は、上司の指示に対して、その真意を問わなければならない。同時に、上司は、部下にその真意を問うことをさせなければならないのだ。
最も重要なことは何かを明らかにする
何に集中するかを決める
ある目的のために各部署の代表者が集まり横串のチームで進める仕事をプロジェクトと呼ぶ。プロジェクトの進め方について、大きく分けて2つのタイプの組織がある。1つは、重要なプロジェクトを1つに絞って取り組む。そのプロジェクトで成果をあげてから次のプロジェクトに進んでいく。より少ないインプットでより多くの成果をあげる。つまり、生産性が高い。
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