第4回 ドラッカー「部下の仕事の生産性を高める」:ドラッカーに学ぶ「部下を動かそうとする考えは時代遅れ」(2/2 ページ)
部下に指示したことと部下がやっていることが違う。部下をもつ上司なら、誰もがそんな経験をしたことがあると思う。そこには、上司と部下の間に、なんらかの認識の相違が起こっている。
もう1つは、一度に多くのプロジェクトに手を付ける組織だ。より多くのインプットでわずかの成果もあがらない。生産性が極めて低い。後者は、「プロジェクトで成果をあげること」より「プロジェクトをこなすこと」が仕事になっていく。何が重要かは誰も分からないし、成果もあがらない。成果をあげるための秘訣を1つだけ挙げるならば、それは何だろうか。
ドラッカーはこう言っている。
成果をあげるための秘訣を1つだけ挙げるならば、それは集中である。集中とは、「真に意味あることは何か」「最も重要なことは何か」という観点から時間と仕事について自ら意思決定をする勇気のことである。
ピーター・ドラッカー
一度に多くのことに手を出していては、成果があがらなくて当然だ。一度に、2つも、3つも異なる仕事を同時に進めることはできない。一度に1つのことをうまくできればいい方だ。ただこなすのではなく、自ら進んで一番重要な仕事は何かを決めなければならない。上司は、部下に成果をあげてもらうためも、部下に自ら意思決定をする余地を与えなければならないのだ。
会社に必要な3つのイエス
働く人の意欲をもたらすもの
マネジメントと言う言葉を聞くと、多くのビジネスパーソンが思い浮かべるのは、「管理すること」「部下をうまく動かす手法」「効率のいい仕事の進め方」といったものではないだろうか。そのような手段、方法、技法といったことからいったん離れて、人間という原点に立ち返って考えてみたい。
米国のアルミメーカーであるアルコア社の元会長兼CEOポール・オニールという人がいた。
彼は、1950年代、ニューヨーク大学の大学院で教鞭(べん)に立つドラッカーの授業に出席していた。彼は、その日のドラッカーの授業を鮮明に覚えていた。ドラッカーは次のようなことを言った。ある3つの質問に対して、社員が「はい」と答える組織は良い組織だ。逆に「いいえ」と答える組織は、問題が起こる。
3つの問い
3つの質問とは次の内容だった。
(1)会社はあなたに敬意を払ってくれていますか?
(2)会社はあなたが成長したいと思った時、あなたを応援してくれますか?
(3)会社はあなたが貢献していることを理解してくれていますか
もちろん、会社という人はいない。ここでいう会社とは、上司のことだ。3つの質問で、上司の部下に対する態度が分かってしまうということだ。1つ目の質問は、上司は部下を一人の人間として誠実に接しているかどうか。2つ目の質問は、上司は、部下の話を聞いたり、相談に乗ってくれたりしているかということだ。
ポール・オニール氏はCEOに就任した時、全ての社員にこの3つの質問をしたら、全員から「はい」と答えてもらえるような経営をしようと決意した。そして、トップを退任する際は、会社の時価総額は8倍になっていた。事業といっても、それを推し進めるのは人である。人を尊んでこそ、人は本来もっている力を発揮してくれる。ぜひ、あなたの会社でも3つの質問を実践してみてほしい。どんな答えが返ってくるだろうか。
著者プロフィール:山下淳一郎 ドラッカー専門の経営チームコンサルタント
ドラッカー専門の経営チームコンサルティングファーム トップマネジメント
東京都渋谷区出身。ドラッカーコンサルティング歴約33年。外資系コンサルティング会社勤務時、企業向けにドラッカーを実践する支援を行う。中小企業の役員と上場企業の役員を経て、ドラッカーの理論に基づいた経営チームをつくるコンサルティングを行う、トップマネジメントを設立。現在は上場企業に「経営チームの研修」「経営幹部育成の研修」「後継者育成の研修」を行っている。
著書に『ドラッカーが教える最強の後継者の育て方』(同友館)、『ドラッカー5つの質問』(あさ出版)、『新版 ドラッカーが教える最強の経営チームのつくり方 』(同友館)、『日本に来たドラッカー 初来日編』(同友館)、『ドラッカーが教える最強の経営チームのつくり方 』(総合法令出版)、『ドラッカーのセミナー』(Kindle)、『ドラッカーが教える最強の事業承継の進め方』(Kindle)がある。主な連載に『ドラッカーに学ぶ成功する経営チームの作り方』(ITmedia エグゼクティブ)がある。ほか多数。
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