「おもてなし」とkintoneで伴走型のDX支援を――八芳園 豊岡若菜氏:デジタル変革の旗手たち(1/2 ページ)
婚礼をはじめとする多角的な事業を推進する総合プロデュース企業の八芳園。2020年、突如として見舞われたコロナ禍を機に、事業・組織全体でDXに取り組むためのDX推進室を立ち上げ、さまざまなプロジェクトに取り組んでいる。ITmediaエグゼクティブのエグゼクティブプロデューサーである浅井英二が話を聞いた。
八芳園では、2020年に始まった新型コロナウイルス禍を機に、事業・組織全体でDXに取り組むためのDX推進室を立ち上げ、さまざまなDXプロジェクトに取り組んできた。kintoneのスペシャリスト集団であるジョイゾーの協力を仰ぎ、リモートから業務を進められるように既存のシステムを刷新、2022年3月には「おもてなし」の思想で企業の業務改善をしなやかに促進する伴走型DX推進支援サポート「SOLVE EIGHT」事業の立ち上げに漕ぎつけた。
この6月には、さらなる企業の課題解決に取り組むべく、事業会社とシステム開発会社の関係を超えてジョイゾーと業務提携し、その第1弾としてブライダル業界向け婚礼ソリューションパッケージ「IRERO 〜indicate real road〜」(以下「IRERO」)を展開、併せて伴走型DX推進支援サポートのSOLVE EIGHTとジョイゾーのシステム開発ノウハウを融合させ、新たな価値を提供しようとしている。ユーザーの視点から同じ課題を抱える中小規模の企業へのDX推進支援を強化していくのが狙いだ。両社の取り組みについて、八芳園DX推進室 ITソリューションチーム マネージャーの豊岡若菜氏、およびジョイゾー 取締役COOの四宮琴絵氏に話を聞いた。
少子化やコロナ禍などの影響でブライダル業界も変革が必要に
これまでの少子化に追い打ちをかけるようなコロナ禍は、ブライダル業界を直撃した。結婚式は実に多くの人たちが関わり、作り上げられる。案内状に始まり、衣装や会場を彩る装花・花束、振舞われる料理・引出物に至るまで、カップルは式場に出掛けて打ち合わせるのがこれまでのやり方だった。コロナ禍では、会場に大勢が集まることに対する抵抗感が強くなったのはもちろんだが、そもそも顧客が打ち合わせのために式場に来られない、スタッフも出社できない状況が続いた。どうすれば顧客と接点を持てるのか、業務が滞りなく遂行できるのかが課題となっていた。
「これまでは、お客さまも、スタッフも、全員が式場にいることが前提の業務だったので、紙ベースで対面による打ち合わせを進めていました。資料も全て紙ベースで、自宅に持ち帰ってもらって検討してもらうのが当たり前でした。そこで、お客さまも、スタッフも自宅からコミュニケーションができる方法を模索しました。ちょうどシステムを刷新する計画があり、八芳園も約3カ月の休業になったので、その期間に各現場のスタッフの要望を聞き、システムを刷新することを決定しました」(豊岡氏)
以前のシステムは、オンプレミス環境で、社内にサーバがあったので、基本的には社内のネットワークからしか利用できなかった。VPNを使えば社外から接続はできたが、動作が遅く、最終的には紙ベースのワークフローだったので、社外からシステムを利用してもあまり意味はなかった。システム刷新の検討は、2020年6月のDX推進室の発足と同時にスタートした。豊岡氏は、「経営層は、DXに限らず新しいことに前向きで、今後のデジタル化は不可欠なので、どんどん進めてほしいと言ってもらいました」と話している。
システムの刷新にあたり八芳園では、ジョイゾーの協力を仰ぐことにする。背景を豊岡氏は、「意外に思われるかもしれませんが、八芳園では良いことはすぐに取り入れる文化があり、事業の改善スピードが速いんです。市販のパッケージシステムやスクラッチ開発では事業の変化にシステムが追従できないことが課題でした。ちょうど別件で相談していたコンサルタントからkintoneとジョイゾーを紹介され、やりたいことが実現できるかを相談した結果、実現できることが分かりました」と話す。
婚礼業務に必要な情報を集約し業務改善をサポートするIRERO
八芳園とジョイゾーの提携の第1弾として展開するのがIREROである。婚礼業務に必要な情報を集約する営業支援プラットフォームであるIREROは、八芳園がこれまでに培ったブライダルに関する知見やノウハウを生かして設計/監修を行い、ジョイゾーがkintoneで構築した。婚礼に関する情報を一元管理し、「カルテ」と呼ばれるアプリにより、複数の情報を1つの画面で閲覧/登録することが可能。シームレスな情報共有により、柔軟かつ迅速な業務改善をサポートする。
婚礼の運営では、顧客情報や打ち合わせ情報など、多岐にわたる情報をいかに管理するかが重要になる。ブライダル企業では、これらの情報が部署ごとに保持されることが多く、情報の管理が煩雑となり、ベテランのプランナーが何とか遣り繰りしている現場が多い。豊岡氏は、「IREROでは、八芳園のプランナーはもちろん、装花を担当するフローリストや衣装を担当するドレスコーディネーターなど、あらゆるパートナーが同じプラットフォームにアクセスできるようになっているので、相互に情報のやりとりや報告をする必要がありません」と話す。
「ブライダル業界全体の底上げのため、IREROを展開していきたいと考えています。ほかのブライダル会社では、導入しているブライダル用システムでは足りない機能があるという話を聞いています。その部分は、手作業やExcelなどを使ってデータをまとめ、それをシステムに再度入力する2度手間の状況です。こうした問題を解決するために、今後も改善を繰り返し、より良いプラットフォームを目指しています。企業によって業務のやり方が違うので、現状をベースに柔軟にカスタマイズすることも可能です」(豊岡氏)。
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