「おもてなし」とkintoneで伴走型のDX支援を――八芳園 豊岡若菜氏:デジタル変革の旗手たち(2/2 ページ)
婚礼をはじめとする多角的な事業を推進する総合プロデュース企業の八芳園。2020年、突如として見舞われたコロナ禍を機に、事業・組織全体でDXに取り組むためのDX推進室を立ち上げ、さまざまなプロジェクトに取り組んでいる。ITmediaエグゼクティブのエグゼクティブプロデューサーである浅井英二が話を聞いた。
IREROの開発について四宮氏は、「IREROは、八芳園の業務要件で開発していますが、kintoneを利用しているので、ゼロベースのコーディングではなく、業務の変化に柔軟かつ迅速に対応できる開発手法になっています。そのため、それほど多くの工数やコストをかけずにカスタマイズすることができるメリットがあります。IREROを婚礼ソリューションとして展開することで、DXの推進が急務であるブライダル業界全体の底上げを支援したいと思っています」と話している。
八芳園のDX推進では内製化に向けた人材育成が重要なポイント
既存のシステムを刷新して業務を効率化し、DX推進の第一歩を踏み出した八芳園だが、並行してDXが本来意味する、事業や企業文化を改革したり、さらには社会を変革したりといった取り組みも進めてきた。すでに2022年3月より八芳園独自のDXの知見やノウハウを生かし、伴走型DX推進支援サポートであるSOLVE EIGHTを提供、自社のDXはもちろん、他社のDX推進を支援する事業も展開している。
SOLVE EIGHTは、DXを推進したいがどの業務支援ツールを使用したらいいのか、自社に合う、自社にいま必要なツールはどれか分からない、そもそもどこからDX推進を始めればいいか分からないといった、企業のDXの悩みに対し、「おもてなし」の気持ちで支援をする伴走型のサービスである。強力なDX支援を実現するために、業務システム開発や教育サービスの提供によるデジタル人材の内製化などの一貫したDX化を支援する。
「SOLVE EIGHTによる他企業の支援は、立ち上げ当初はブライダル業界向けに考えていたのですが、スタートしてみるとまだ紙文化が根強い他業種の企業からの問い合わせが多くありました。自分たちの悩みを試行錯誤しながら解決してきたノウハウで、同じ悩みを抱える企業を少しでも支援できればという思いで取り組んでいます。自分たちが使っている仕組みを惜しみなく提供し、利用した結果もお伝えできるので、DX化をイメージしやすく、共感を得やすいソリューションになっていると思います」(豊岡氏)
今回の八芳園のDX推進では、内製化も重要なポイントの1つであり、その実現に向けジョイゾーが提供する伴走支援型教育サービス「J Camp」にも参加している。J Campは、なぜDXが必要なのかという目的の明確化から要件定義やシステム設計の基礎知識、kintoneの開発スキル、DXを推進していく具体的な計画立案までを座学とシステム開発のロールプレイングによって学ぶ全4日間の講座である。八芳園で実施したJ Campについて四宮氏は、次のように語る。
「デジタル人材が少ない中で、どのような人材を育成すればいいかが企業にとって大きな課題になっていますが、J CampではITとビジネスをつなぐブリッジ人材の育成が重要だと考えています。八芳園では、DXを推進するために、どのようなマインドチェンジが必要で、何をすればいいかを教育することを目的にJ Campを利用してもらいました。対面開発で具体的に何が必要かを学んでもらい、それをそのままDX推進の事業に転換していきました。この部分が、まさにDXだと思っています」(四宮氏)
ブライダル業界全体で情報を共有して業界全体の成長を促進
今後、八芳園では、人でなくてもできる作業はデジタル化し、人でしかできない業務に集中できる環境の構築に取り組んでいく。企業向けのバンケットサービスや、さらに調理場など、手作業、紙ベースの作業が多いことからデジタル化を検討している。
「SOLVE EIGHT事業では、システム部門を持たない中小規模の企業のDX推進を支援しながら、一緒に成長できればと考えています。IREROに関しては、ブライダル業界全体で情報を共有し、業界全体を成長させていくための仕組みにできればと思っています。IREROを差別化ポイントにするのではなく、情報をオープンにして、業界全体でお客さまにより良いサービスを提供して、市場の拡大を目指しています」(豊岡氏)
聞き手プロフィール:浅井英二(あさいえいじ)
Windows 3.0が米国で発表された1990年、大手書店系出版社を経てソフトバンクに入社、「PCWEEK日本版」の創刊に携わり、1996年に同誌編集長に就任する。2000年からはグループのオンラインメディア企業であるソフトバンク・ジーディネット(現在のアイティメディア)に移り、エンタープライズ分野の編集長を務める。2007年には経営層向けの情報共有コミュニティーとして「ITmedia エグゼクティブ」を立ち上げ、編集長に就く。現在は企業向けIT分野のエグゼクティブプロデューサーを務める。
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