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災害大国ニッポン、救うのはAIによる可視化、そして予測――Spectee 村上建治郎氏デジタル変革の旗手たち(1/2 ページ)

気候変動が加速する中、豪雨や台風による洪水氾濫や土砂災害が頻発している。欧州のシンクタンクの分析によれば、日本はモザンビーク、ジンパブエ、バハマに次いで危険度の高い国だという。東日本大震災を教訓に起業したSpecteeは、AIなどを活用した情報解析技術で危機の可視化からデジタルツインによる被害予測へと取り組みを進める。ITmediaエグゼクティブのエグゼクティブプロデューサーである浅井英二が話を聞いた。

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Spectee CEO 村上建治郎氏

 「危機を可視化し予測する」というミッションを掲げ、社会が危機への対応力(レジリエンス)を高め、持続可能な世界を実現できるよう支援することを目指しているSpectee(スペクティ)。主力サービスであるAI防災・危機管理ソリューション「Spectee Pro」は、災害や事故などのリスク情報をリアルタイムに配信するほか、SNSや河川・道路カメラ、カーナビ情報、人工衛星データなどをもとに、AIなどを活用した情報解析技術でさまざまな角度から災害状況を可視化し予測する。

 すでに多くの自治体の災害対応や企業の危機管理、物流やサプライチェーンのリスク管理などに採用されている。会社設立の背景、今後の展望などについて創業者でCEOを務める村上建治郎氏に話を聞いた。

東日本大震災で情報ギャップを痛感

 Spectee Proは、SNSの情報や気象庁の気象情報、電力会社の電力需給情報などの危機情報をリアルタイムに抽出して、配信するサービスだ。画面に表示された気になる情報をクリックすると画面の左側に地図が、右側に関連情報が表示される。特に災害時の利用が多く、事前に登録しておいた拠点や事象で集約することもできる。災害情報と気象情報、全国の道路・河川カメラから画像や動画情報などを組み合わせることも可能で、海外で発生している災害情報も表示できる。現在、47都道府県庁の防災部局のうち、37都道府県が利用しているほか、政府・官公庁、警察、消防、600社以上の民間企業、主要報道機関などでも利用されているという。

 村上氏は、「災害、事故、事件など、100以上のカテゴリーのさまざまな災害関連情報を組み合わせてAIで解析し、リスクの可視化と予測をサービスとして提供しています。例えば水害発生時に、浸水範囲を特定したり、今後の被害を予測したりといった情報も提供しています」と話す。

 Spectee設立の原点は、2011年3月に発生した東日本大震災だった。学生時代に阪神淡路大震災を被災者として経験した村上氏は、震災直後からボランティアスタッフとして定期的に被災地を訪れていたが、メディアが発信する情報と現地の状況とのギャップを目の当たりにする。物資や人が足りていないといった、本当の被災地のニーズを共有できないか。ボランティア活動を続ける中、Specteeを起業、SNSを活用して現地のリアルな情報を集めるサービスの開発を始める。当初はB2C向けのスマホアプリとして開発し、報道機関などでユーザーが広がっていったが、2014年にはAIを活用した防災・危機管理ソリューションへと大きく舵を切り、テスト版をリリースした。


Specteeサービスイメージ

「防災・危機管理におけるデータ解析の会社」にこだわる

 村上氏は、「B2C向けのスマホアプリは、無料のサービスは利用してもらえるのですが、なかなか課金まで至りません。広告ビジネスもハードルは高く、成立するためには1000万単位のユーザーが必要です。また災害情報は、日常的に必要なものではないこともサービス拡大が難しい要因の1つでした。そこで、ビジネスをB2B向けに転換すべく、新しいサービスの開発をスタートしました」と当時を振り返る。

 B2B向けのビジネスに舵を切った背景には、報道機関がSpecteeに興味を持ってくれたことがある。彼らが日々追いかけている事件や事故の情報は、SNSを検索すれば得ることができるが、都度SNSを検索して情報を集めるのは現実的ではない。

 「世の中には、さまざまなデータが生み出されていて、そのデータを集約して分析して使える状態にするにはかなりの手間がかかる」と村上氏。

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