事業戦略、製品戦略の強化により自律的なデジタル変革を推進――日本ゼオン 脇坂康尋氏:ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(1/2 ページ)
日本の素材産業は残された最後の砦だが、脱炭素や原材料の高騰に大きく揺さぶられ、官民挙げた取り組みが始まっている。日本ゼオンでは、データによる経営の高度化とビジネスそのものの変革を両輪とした自律的なDXを推進している。
アイティメディアが主催するライブ配信セミナー「ITmedia DX Summit vol.13 変わるデータ経営、変わるデータ基盤」が開催された。Day1の基調講演に、日本ゼオン デジタル統括推進部門長 理事の脇坂康尋氏が登場。「元事業部長が奮闘する日本ゼオンのDX推進 ── その課題と方策」をテーマに講演した。
世界に誇れるトップクラスの製品を持つ日本ゼオン
日本ゼオンは創業72周年の中堅化学メーカーで、19カ国/地域に55社のグループ企業を展開し、従業員は約4000人。連結の売上高が3617億円、経常利益が494億円と収益率が高いのが特長である。事業は、エラストマー素材、高機能材料、その他の3つに区分され、それぞれの事業ステージや性格は異なっている。
脇坂氏は、「収益率が高いのでIT投資の余力があります。世界に誇れるトップクラスの製品が多くあり、独創的技術により生み出される製品は、私たちの暮らしを支えています。事業の性格や文化、風土、業務の仕組みは異なるものの、デジタル技術利活用と部門の枠を超えた新しい仕組みにより、効果を創出する機会があります」と話す。
DX視点で事業をSWOT(強み:Strength、弱み:Weakness、機会:Opportunity、脅威:Threat)分析すると、まず強みは機能性化学製品に収益力があり、IT投資に余力があること。弱みは、中堅の化学メーカーのため、IT投資のスケールメリットを得難いこと、多様な事業分野のため、文化、風土、業務の仕組みが異なり束ねるのが難しいことである。
また機会は、グローバルトップクラスの製品により、顧客と密接な関係、およびビジネスモデル構築が可能で、複雑なプロダクトミックスのためデジタル技術による効率化の余地があること。脅威は、収益性の高さ、および危機感の低さにおける変革(DX)推進の阻害が懸念されることという。
「IT投資の余力の面では、DXのための組織化をしてリソースを投入します。またスケールメリットが得にくい面では、大掛かりにやらない、攻めどころを決める。束ねるのが難しい面では、仕組みを作る。ビジネスモデル構築では、最終ゴールを目標に。デジタル技術による効率化の余地では、挑戦すること。DX推進の阻害懸念では、動機を作ることです」(脇坂氏)
デジタル技術の利活用により企業価値を高める
日本ゼオンの中期経営計画では、SDGsが注目される以前より「大地の永遠と人類の繁栄に貢献する」という企業理念に基づき、2030年に向けたビジョンである「社会の期待と社員の意欲に応える会社」を目指し、「大切にすること」として「まずやってみよう」「つながろう」「磨き上げよう」を掲げ、取り組みを推進している。
社会の期待に応えるために、持続可能な社会に貢献し続ける、社会にとってなくてはならない製品・サービスを提供するという2つの取り組みを展開。一方、社員の意欲に応えるために、まずやってみよう、つながろう、磨き上げようという取り組みを推進。2030年に目指す姿から、3つの全社戦略を立案している。
「社会の期待に応えるために、ビジネスで社会を変革し、研究の力で顧客の夢をかなえます。また自宅からのオペレーションやVRオペレーション、シフト表に基づく自由な勤務など、多様な働き方を実現します。これらデジタル技術の利活用により、企業価値を高めるという2030年に向けた目標達成を目指しています」(脇坂氏)
デジタル技術利活用の課題であるデータの孤立、不足を解消し、連携した開発を行い、デジタル技術の利活用による企業力の強化、顧客への提供価値向上へと挑戦を続けている。
こうした課題を解決するために、事業ポートフォリオ分析を活用している。分析結果はダッシュボード化により、現状をビジュアル化して、経営トップと対話することが重要になる。ダッシュボードでは、事業別、SBU別、期間でさまざまなシミュレーションを行いながら、DX推進上の攻めどころを明らかにし、投資の効率化を図っている。
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