事業戦略、製品戦略の強化により自律的なデジタル変革を推進――日本ゼオン 脇坂康尋氏:ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(2/2 ページ)
日本の素材産業は残された最後の砦だが、脱炭素や原材料の高騰に大きく揺さぶられ、官民挙げた取り組みが始まっている。日本ゼオンでは、データによる経営の高度化とビジネスそのものの変革を両輪とした自律的なDXを推進している。
中長期計画は、全社的にはROICを、生産系ではROAなどを指標にして推進。フェーズ1ではデジタル体力の向上、フェーズ2で経営・事業マネジメントの変革、最終的にはフェーズ3のビジネスモデルの変革につなげる。現在、デジタル体力の向上を図るとともに、フェーズ2、フェーズ3の仕込み(PoC)も進めている。
具体的な取り組みとして、自動化・効率化/システムの維持・運用、デジタルプラットフォーム構築、既存ビジネスの強化、ビジネスモデルの変革という、4象限に区分した取り組みを推進。これにより考え方を整理して、全社で共有することで、社内の対話がやりやすくなるという。
脇坂氏は、「研究員は自分用の実験ノートを持っていますが、このデータを共有するのは困難です。研究データマネジメントシステム(DMS)を構築することで、ビジネスモデルを変革する、お客さまをサポートしやすくする、実験室をIoTで自動化する、マテリアルインフォマテクスやプロセスインフォマティクスで実験を効率化するなどが可能です。具体的成果は、日本ゼオンのWebページで紹介しています」と話している。
社長直下に置くことで意思決定が容易なDX推進体制を構築
DXの推進体制としては、デジタル統括推進部を社長直下に置くことで、経営の意思反映を行いやすい体制を構築するとともに、生産部門や研究部門はデジタル統括推進部と連携する体制になっている。例えば、ビジネスクリエーショングループ長は、研究部門に設置されたデジタル研究開発推進室長を兼務するというガバナンスを効かせている。
一方、DX推進部門の課題は実行上の機能を有していないこと。また横串の連携も必要になる。1つの部門だけを便利にしても、全社的な効果は得られない。そこで有効になるのが、会議体での運営である。部門の枠を超えて資源配分、方針の意思決定権を有するメンバーで協議、意思決定している。
具体的には、第1階層のDXステアリングコミッティで四半期ごとに目標、目的の意思決定を行い、第2階層のプロジェクトマネジメントで重点課題の具体方策の意思決定を、第3階層のテーマ検討チームで個別テーマを推進する体制を構築。DX部門が直接の実行資源を持たなくても、効率的に合意形成を行い、連携活動を行っている。
具体化の課題としては、自動化・効率化における課題、仕事のやり方の変革における課題、変革の支えの3つ。
1つ目の自動化・効率化における課題は、マネジメント層の多くは、DXのビジョン、方向性は大賛成だが、実施フェーズになると、人がいない、効果が分からない、難しいという反応になる。また担当レベルは、自動化、効率化を実現してほしいと思っているが、実施フェーズになるとDX部門で全面支援してほしいという反応になる。会社全体でデジタル技術利活用の意義、強力なインセンティブが必要となる。
2つ目の仕事のやり方の変革における課題は、課題の整理、目標・方策の整理は、各部門が主体的に行うが、IT部門はデータ化、システム化、DX部門は業務の変革、標準化に踏み込んでいくことが必要。この分野で優れた能力を持つ人材を、自分の組織にどれだけ持つことができるかも大事なポイントになる。
3つ目の変革の支えに関しては、部門長への課題設定では、トップダウンで全部門長にデジタル基盤の整備とデジタル技術を利用した事業強化策の2つを設定し、各部門長の責任で各担当に実施してもらう。脇坂氏は、「そのためにDXの部門長は、嫌われる勇気が必要です」と話す。
DX推進への理解を進める上では、新入社員を対象に集中研修で一定レベルの底上げが必要になる。日本ゼオンでは、事務系はPythonのコードが書けるレベル、技術系はAI、X-AIのコードが書けるレベルに教育する。またマネジメント層の意識改革を目的に、部長級以上にデジタルナレッジの基礎教育を、経営層から部長級にワークショップ・演習を実施している。
脇坂氏は、「すでに3年続いているので、だいぶ変化してきました。多くの企業で社員教育は実施していると思いますが、いかに全社的に教育していくかというのが変革の支えになります。以下の図は、教育学で有名なモデルですが、知識、理解があり、スキルがあって、行動につながります。行動を部門長課題で設定し、理解やスキルに通じる間を埋める教育も重要です」と講演を締めくくった。(脇坂氏)。
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