コミュニケーションの質が一変! 心理カウンセラーの「聞く技術」とトレーニング法:ITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(1/2 ページ)
ビジネスシーンにおいても重要なコミュニケーション。部下やクライアントとコミュニケーションをとるなかで、相手が本心を話していないと感じることはないだろうか? 8000人以上の悩みを解決してきた心理カウンセラー 山根洋士氏に、相手がなんでも話してくれる「聞く技術」を聞いた。
ライブ配信で開催されているITmedia エグゼクティブ勉強会に、心理カウンセラーの山根洋士氏が登場。カウンセラーとしてさまざまな人と向き合い8000人以上の悩みを解決してきた山根氏が、2022年6月に発行された著書の内容に基づき、「なぜ、あの人には何でも話してしまうのか 心理カウンセラーのすごい「聞く技術」」をテーマに講演を実施した。
心理療法でメンタルを変化させ、「メンタルノイズ」カウンセラーへ
山根氏は、1970年生まれ、大阪府出身の52歳。大学でメンタルトレーニング、大衆心理などを学んだのち、情報誌の編集やコピーライターを経験。その後FXトレーダーとなり、心理療法と出会ってメンタルを改善することで平均月利10%を稼ぎだすように。自身や周囲の人を変化させた心理療法を発展させ、2019年にオンラインで心理療法が学べる講座『メンタルノイズキャンセリング講座』をリリース。現在は講座受講生が1万人を超える「メンタルノイズ」カウンセラーとして活躍している。
山根氏は、カウンセラーにとって重要なのは“聞く技術”だと話す。
「カウンセラーというのは、たった数回会っただけの人に、本人も気付いていなかった心の奥底にある深い話をしてもらうのが仕事です。そのカウンセラーがカウンセリング現場で何を大事にしているかというと、“聞き方”なんですね。トップセールスやホストなどの超一流の人というのは、間違いなく“聞き上手”です。“聞き上手”というのは、相手の話を引き出すのがうまいという、能動的なスキルです。そのためにカウンセラーは何をやっているかをお伝えします」(山根氏)
カウンセリング(傾聴)は心理療法の1つで、その方法はカウンセリング(傾聴)、コーチング(コーチングは実はカウンセリングの技術)、ティーチング(指導、アドバイスなど)などの段階に分かれている。
「カウンセリングの現場では、カウンセリング、コーチング、ティーチングなどが行われています。本来はカウンセリング(傾聴)でただひたすら話を聞くことのみでクライアントの問題を解決に導くことを意識しているんですが、時間短縮、効率アップやその効果を持続させるために、コーチング、ティーチングも合わせて使っています。ただ、カウンセリングがしっかりできていれば、コーチングやティーチングは必要ないとも言えます」(山根氏)
傾聴というのは、ただ相づちをうちながら話を聞くこと。アドバイス、質問などは一切しないことが重要で、相手の感情を共感的理解を持って受容することが重要になる。
しかし、主に職場などで行われる一般的なコミュニケーションでは、ティーチング、コーチング、カウンセリングの順番になりがちで、相手の話を傾聴することがなかなかできていない。
アメリカの臨床心理学者であるカール・ロジャースが創出した『クライエント(来談者)中心療法』の根幹となる技法が『傾聴』である。「人は本来、自己解決能力、成長発展意欲を有する生き物で、他者の介入的関りは、人が本来持っている能力を阻害するのみ」という考えのもと、相手の自己解決能力を促すための技術となる。
「傾聴は聞くだけの技法ですが“ただ聞いているだけ”ではありません。言語1割、非言語9割のコミュニケーションスキルとなります」(山根氏)
カウンセラーが活用する「バイスティックの七原則」と「傾聴」のテクニック
カウンセリングの現場で大事にされているのが、アメリカの社会福祉学者フェリックス・バイスティックが提唱した対人支援の七原則である「バイスティックの七原則」だ。
1、個別化原則 … 同じ人は二人いない、パターン化しない、自分の経験から判断しない
2、意図的な感情表出の原則 … クライアントに感情を出しても大丈夫と安心感を持ってもらう場づくり
3、統制された情緒的関与の法則 … カウンセラーは自身の感情表出をコントロールして事に当たる(難易度高、専門的かつ高度な訓練が必要)
4、受容原則(無条件の肯定的配慮) … 話し手のネガティブ面もふくめた全ての情報を受け止める。違法や自他を害する行為そのものではなく、その奥にある感情(後悔、悲しみ、恐怖)を受け止める
5、非審判的態度(ノージャッジ)の原則 … この世の中に絶対的な真実は存在しない。個人が絶対的真実の存在ではありえない(人間は矛盾しているもの)。ゆえに、クライアントを倫理、道徳、善悪、正誤、上下、偏見、価値観、なんらかの基準でジャッジしない
6、自己決定原則 … 人は自分が決めた時だけ責任を持つ。他人からの押し付けには無責任になる。本人に決めさせる
7、守秘原則 … クライアントの意志なく情報を外部に漏らさない(心理的安全性の根本)
「この“七原則”と“傾聴”で、コミュニケーションの内容が本当に変わります。傾聴の基本テクニックとして“受容”“共感的理解”“自己一致”を用いることで、相手の姿勢が変わっていくのです」(山根氏)
「傾聴」の3つの基本テクニック“受容・共感的理解・自己一致”
受容……無条件の肯定的配慮
部下が「仕事が嫌だ」と言っても否定せずに「仕事が嫌なんだね」と受け止める
受容してもらうと…何を話しても否定されない、大丈夫だという安心感が生まれる
共感的理解……共感ではなく、共感的「理解」
専門的には同感と共感の違いまで深く自分自身を確認する
共感的理解をしてもらうと…自分の気持ちなど、深い部分を話しても受け入れてもらえるという
深い情緒的安心感が生まれる
自己一致……自己概念(私は〇〇だ)が、自分の心理的スタンス、発言、態度、行動、体験、価値観、
生き方と一致している状態。
他人にウソはついても、自分にウソをついていない心理状態
自己一致したカウンセラーと話をしていると、クライアントにも「自分もあるがままの自分でいいのかもしれない」という安心感が生まれます。こんなこと話したらどう思われるだろう……、この人の本音本心は……、という疑念、不信感がなくなります。自己一致しているということは、裏表がないように見えるということ。カウンセラーにとっては、自分を整えて自己一致した状態でカウンセリングに臨むことが、もっとも重要な仕事とも言えます」(山根氏)
今日からできる「受容」「共感的理解」
「そうだよね」「そうですよね」「そっか……」「ふーん……」といった言葉は、相手の言葉をそのまま“受容”する表現となる。しかし、注意しなければいけないNGワードも存在している。
「“なるほど”という返答は“あなたの言いたいことは分かっています”というサインになってしまい、NGです。ただ相手の言葉を受け取るのみでいいのです。また、“そうなんですか?”という質問もNG。質問には、疑いや心理的抵抗の意味が入るので、受容されていないと感じられます」(山根氏)
相手に共感的理解を示すために重要なのは、相手との会話で、感情を表す言葉で相づちをうつことだ。
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