コミュニケーションの質が一変! 心理カウンセラーの「聞く技術」とトレーニング法:ITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(2/2 ページ)
ビジネスシーンにおいても重要なコミュニケーション。部下やクライアントとコミュニケーションをとるなかで、相手が本心を話していないと感じることはないだろうか? 8000人以上の悩みを解決してきた心理カウンセラー 山根洋士氏に、相手がなんでも話してくれる「聞く技術」を聞いた。
部下、後輩が仕事で失敗した、お客さんを怒らせたといった話をしていたら、「それは悲しいね」「それは落ち込むよね」「それはへこむね」と相手の感情を理解していることを示す。部下、後輩が腹を立てていたら、「それは腹が立つね……」「それはムカつくね……」と相手の感情を共感し代弁することで、共感的理解を示すことができる。
この共感的理解にも、やはりNGワードがある。それは「分かるー!」という言葉。これは「同感」になるのでNG。あくまでも相手の感情を共感して理解することが重要なのだ。
「これらは、カウンセラーが実際に使うテクニックになります。カウンセリングもスポーツと同じで、日々の練習なんです。これらの受容、共感的理解を示す言葉を使った対話を1カ月くらい続けてもらえば、相手との対話がスムーズになるはず。部下と話していると「甘いことを言ってるな」などと思う時もあるでしょうが、これらの言葉を使ってコミュニーションをとっていると、相手に対するいら立ちや不満もだんだん和らいで、気持ちが楽になり、人の話を聞けるようになるはずです。ぜひ使ってみてください」(山根氏)
すぐにはできない『自己一致』
受容、共感的理解と違って難しいのが自己一致だ。
自己一致は、自己概念(私は〇〇だ)と実際の自分が一致している。自分にウソをついていない心理状態のこと。自己欺瞞(ぎまん)を回避して自己概念の更新と統合を目指すことといえる。自己概念と現実が異なっている場合は、今の現実が答えであり、自己概念よりも現実を重視することが重要となる。
「自分はやさしい人間だ」という自己概念を抱いている人が、現実には「たまに部下にキレる」という場合、「自分はやさしい人間だと思っているけど、たまに部下にキレる一面もあるのだな……」と理解することで、自己概念の更新と統合ができ自己一致に近づいたといえる。しかし「自分はやさしいのに部下が切れさせた、あいつが悪い」というふうに現実を否定して自己概念に執着する態度を取ると、心理的不安をまき散らす存在になるため注意が必要だ。
「自分はやさしいと思っていて、立派な先生っぽく振る舞ってるけど、たまに子どもにキレて叱ったりもします。開き直りでもありますけど、それがあるがままの自分なら、それが自己一致した状態です。自分の概念と自分の現実を一致させる、これが自己一致なので、ぜひ心掛けてみてください」(山根氏)
カウンセラーの「聞く技術」養成トレーニング
最後に山根氏が伝授してくれたのが、聞く技術を上達させるための、簡単でありながら効果的なトレーニング方法だ。それは「質問は全て5Wからの1Hに限定する」というもの。
カウンセリングをする場合は5Wの質問のみ、When(いつ)、Where(どこで)、Who(誰が)、What(なにを)、Why(なぜ)。
コーチングをする場合は1Hの質問も、How(どうやって)。
コーチングに使用する「How」は、過去の原因を探すのではなく「これからどうやっていけばいいと思う?」という未来志向の質問として利用するのがコツだそう。
「このトレーニングは実際にカウンセラーもやっています。重要な会議からではなく、軽い対話の場面からでいいので、質問の際に5Wのみを使うという練習をやってみてください。コーチングの場合は、未来志向の「How」も使えます。この5Wの質問を意識することで、本当にコミュニケーションの質がまったく変わってくるはずです」(山根氏)
最後の質疑応答では、参加者から多くの質問が寄せられた。なかでも自己一致に関する質問が多く、「自分の意見もあるが、会社側の立場で部下と相対しなければならない管理職は、自己一致が難しいのではないか?」「自己一致した状態は“ウェルビーイングな状態”といえるのでは?」などという質問が挙がっていた。
それらの質問に山根氏は、「自己が明確になればなるほど、自分の軸がしっかりしてくるので、逆に違うスタンスが取りやすくなります。自分はこうだけど、上司としての立場はこう、とスタンスが揺るがなくなるんですね。必要に応じていろいろな立場が取れるようになるはずです。自己一致ができているのは、自分のスタンスを持ってありのままに生きている、つまりはウェルビーイングな状態とも言えます。“ウェルビーイングな状態”であれば、他者ともよりよい関係が築きやすくなる。個人のウェルビーイングは他者のウェルビーイングにつながるんですね。ぜひウェルビーイングを目指して『自己一致』を進めていってください」と答えて講演を終えた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 自分らしく幸せに生きる――「ウェルビーイング」でリデザインする社会とビジネスの在り方
- 人的資本を生かすリーダーになるためにTMOに求められる7つの能力とは
- 日本近代文学の文豪でラスボスの“夏目漱石”――その攻略法を漫画にひもづけて読む
- 俳優・寺田農氏の「みのりのアル話」理想は町中華の親父!50歳になったら自己主張し過ぎず、悠々と急げ
- ホスピスにおける人との関わり方、マインドから企業のリーダーとしての役割を学ぶ
- おとなの学び方のコツは、プライドを捨て、素直になり、愚直になること――マンガ家 すがやみつる氏
- ビジネスパーソンに「睡眠」が重要視されるわけ――スリープコーチ 角谷リョウ氏
- 心を動かすプレゼンの技 Whyから語れば人は心が突き動かされ行動する――トッププレゼン・コンサルタント 永井千佳氏
- “伝わる技術”は相手ありき――大切なマインドは“相手を思う優しさ”
- 俳優・寺田農氏の「みのりのアル話」。参加者から寄せられた質問に、寺田氏が生回答
- コミュニケーションを円滑化し、チームを活性化する「超ファシリテーション力」
- 終身雇用の保証より、どれだけ変化しても活躍できる人材の育成が人を活かす経営の新常識
- ミーティングの相手が孫さんや柳井さんだと思えばより真剣に計画を具体化できる