日本市場では模倣による激しい競争が企業を鍛え、国際競争力を高める源泉となった(1/2 ページ)
マイケル・ポーターは、著書で「日本企業は模倣しあっているだけで、共倒れの戦いから逃れるには戦略を学ばなければならない」と書いている。模倣やコピーキャット、横並びは本当にネガティブな行動でしかないのか。
「日本から発信する経営分野の独自理論」をテーマに開催された「エグゼクティブ・リーダーズ・フォーラム(企画運営:早稲田大学IT戦略研究所)」に、早稲田大学ビジネススクール(WBS)教授である淺羽茂氏が登壇。「模倣:誰がなぜ真似をして何がもたらされるのか?」をテーマに講演した。
模倣者は創造性が欠けていて戦略がないのか
模倣やコピーキャット、横並びと聞くとネガティブなイメージを抱いてしまうことが多い。模倣者は、創造性が欠けていて、戦略がないというのがその理由である。
米国の経営学者であるマイケル・ポーターは、「多くの日本企業は、ほとんどの製品範囲、特徴、サービスをライバルから模倣している。成長を続ける国内経済とグローバル市場への浸透のおかげで日本企業は成長できたが、業績が悪化した現在、共倒れの戦いから逃れるには、日本企業は戦略を学ばなければならない」と著書に書いている。
しかし淺羽氏は、模倣にはポジティブな側面もあると語る。例えば、ビールメーカー各社によるドライ戦争と呼ばれた新製品の模倣による激しい競争がビール市場を成長させている。また日本企業は、オールトランジスタのテレビ開発では米国企業に遅れたが、全ての企業がいち早く液晶テレビに転換することで世界市場を制覇した。
「日本企業による模倣は、常に他社を監視して一歩でも先んじようと考え、リードされれば即座に追随するという激しい競争の中で行われています。その結果、日本企業が国際競争力を強化できるのではないかと考えました。これを同質的行動と呼んで、単なる模倣やコピーキャット、横並びととは区別しています」(淺羽氏)。
現在、淺羽氏の著書『日本企業の競争原理―同質的行動の実証分析―(東洋経済新報社 2002年)』をはじめ、「競争を緩和するための複数市場競争」「リスク低減のための一斉投資」「模倣的同形化」「模倣的同形化」など、さまざまな模倣の研究がおこなわれている。これらの研究から模倣は、以下の2つの理論に分けることができる。
(1)現在の競争均衡を維持するために他者を模倣(Rivalry-based theory of imitation)
(2)不確実性を低減するために情報を自ら収集する代わりに、優れた情報を有していると思われる他者を模倣(Information-based theory of imitation)
2つの理論を見分ける方法は、以下の図の通りである。
「誰が誰のまねをするのか」仮説を検証する
日米飲料メーカーにおける新製品の製品ラインの重複に関する1990年の研究では、米国はコカ・コーラとペプシコが大きなシェアを持っており、製品ラインも重複している。一方、日本ではコカ・コーラが圧倒的に大きなシェアを占めているが、大塚製薬を除く多くの企業の製品ラインが重複している。
「日本市場における“はちみつレモン味飲料”の普及を分析すると、まず1986年にサントリーが発売し、その後30カ月は数社が発売した程度でしたが、アサヒ飲料が発売すると同時に多くのメーカーが一斉に模倣し始めて、1991年には30数社が“はちみつレモン味飲料”を発売するに至っています」(淺羽氏)
こうした研究から導き出された仮説としては、(1)企業規模、または(2)出身産業の2つに分類できる。また2つの仮説は、それぞれ不確実性が高いか、低いかにより結果が変化する。
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