多様性で人の成長と組織の価値最大化に取り組むリクルートのデータ組織:デジタル変革の旗手たち(1/2 ページ)
リクルートでは、2021年4月の国内7社統合を機に、個別最適と全体最適を組み合わせたデータ組織の変革に取り組んでいる。事業領域における戦略の実現を担う縦の組織と各領域で事業横断的にデータ戦略を実践する横の組織によるマトリクス構造のデータ組織を運営し、新たな価値の創出を狙う。リクルートのデータ戦略を推進するデータ推進室の取り組みについて、ITmediaエグゼクティブ プロデューサーの浅井英二が話を聞いた。
住まいに関する情報を提供する『SUUMO(スーモ)』や婚活・結婚・出産育児に関する情報を提供する『ゼクシィ』、就職に関する情報を提供する『リクナビ』、クルマに関する情報を提供する『カーセンサー』、飲食店の情報を提供する『ホットペッパーグルメ』、ヘアサロンなどの情報を提供する『ホットペッパービューティー』、オンライン学習サービス『スタディサプリ』、決済サービス『Airペイ』など、多種多様なサービスを展開しているリクルート。2021年4月に中核事業会社と機能会社の合計7社を統合したことで、展開している事業は数百にのぼる。
統合の目的は大きく2つ。1つは各機能会社が培ってきた事業運営ノウハウや多様な人的資産を集約し、社会に提供する価値を最大化すること。もう1つは個性豊かでさまざまなスキルを持った人材一人ひとりが、事業や組織、社内外の垣根を越えて、より広いフィールドで活躍できる場を整え、最大限にその能力を発揮してもらうこと。ミッションである「まだ、ここにない、出会い。より速く、シンプルに、もっと近くに。」を実現するための「CO-EN」(公園、Co-Encounter)のような場の創造を目指している。
会社統合を経てリクルートのデータ組織が目指す多様性的進化について、プロダクト統括本部 プロダクト開発統括室 データ推進室 データテクノロジーユニット ユニット長の阿部直之氏に話を聞いた。
マトリックス構造のデータ組織で新たな価値を創出
リクルートという会社の特色でもあるが、飲食店やヘアサロンの予約などのために、週に何度か、あるいは月に何度かの頻度で利用するサービスもあれば、住宅購入のように一生に1度、あるいは多くても数度といった、大きなイベントのために利用するサービスもある。事業ごとにビジネスモデルも異なるので、ユーザーのアクションはもちろん、使われるデータも、使われ方も、データのライフサイクルもサービスごとに異なる。また事業ごとに、アマゾン ウェブ サービス(AWS)やGoogle Cloud、Microsoft Azureを利用しているサービスもあれば、オンプレミスで独自に運用しているサービスもある。そのため、これらのシステムを統合するのは簡単ではない。
「2021年の国内7社統合は、リクルートにとって大きな変化でした。例えば、ビジネスモデル1つを見ても、マッチングプラットフォームによるメディア事業や『スタディサプリ』などのサブスクリプションモデル、「Air ビジネスツールズ」などのSaaSモデルなどがあります。また、個別に進化してきた複数の組織を1つの会社に統合したことから、わたしの技術領域である、データ活用の観点から見ても、複数の技術スタックをマネージメントすることが必要で、クラウドサービスだけでも、AWSやGoogle Cloud、Azureなど、複数の環境が存在しています」と阿部氏は話す。
技術スタックが複数あるということは、それらを選んだ狙い、つまり、デリバリーを迅速にする、であるとか、品質を上げる、といった背景にある技術的な思想も異なってくる。異なる技術スタック、技術的思想が、統合された1つの組織に同居することで、時としてコンフリクトが避けがたい状況になっていた。データ推進室では、こうした課題を解決するために、人材(HR)や飲食、住まいなど、さまざまな事業領域のデータ戦略の実現を担う縦の組織と、データサイエンティストやデータエンジニア、データマネジメントのメンバーが各領域で専門性マネジメントを実践する横の組織によるマトリクス構造のデータ組織を構成し、新たな価値の創出に取り組むことにした。
阿部氏は、「会社の統合により、取り扱うサービスに関するデータや、ユーザーのアクションデータなど、多種多様なデータが存在し、混沌としている状況では、標準化するというアプローチをとるのが一般的かもしれません。しかしリクルートでは、多様性という強みを活かし、各事業領域の個別最適とリクルートとしての全体最適のバランスをとるというアプローチを進めています」と話す。
トップアップ、ベースアップ、ボトムキープの3つのアプローチを推進
マトリクス構造による組織の運営は課題も多いことで知られているが、リクルートのデータ推進室では、「トップアップ」「ベースアップ」「ボトムキープ」という3つのアプローチで取り組み、個別最適と全体最適という2軸の価値向上と、各事業領域で向上させた価値水準の維持を目指している。トップアップでは、現場ごとにチャレンジすることで安定的に新しい価値を生み出し、トップアップで生み出した価値を横展開することで全体のベースアップを実現。セキュリティやプライバシーなど、同じ基準で守るべき領域をボトムキープとして横断組織が主導している。
3つの取り組みは複合的に組み合わされて組織の価値を高めていく。下の図のように、まずは必ず守らなければならないボトムキープの活動がコアにあり、各領域の価値向上を横展開するベースアップで全体の価値を大きくし、さらに現場ごとに新しい価値創造としてトップアップの取り組みでエッジを立たせる。大切なのは、ここで終わりではなく、次の段階ではベースアップの部分までボトムキープの活動を広げ、トップアップの部分もベースアップの活動につなげていくこと。このサイクルを繰り返し回すことで、組織の価値を高めていくことができる。
阿部氏は、「具体的には、各事業の制約や前提条件を考えたとき、よりパフォーマンスを発揮できる技術や方法を検討します。また同時に、ガバナンスやセキュリティ、システム運用などの観点から、会社として守るべきものは何かを検討します。守るべきラインを“ガードレール”と位置づけ、ガードレールの内側であれば、自由に事業を伸ばせるよう支援をしています」と話す。
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