多様性で人の成長と組織の価値最大化に取り組むリクルートのデータ組織:デジタル変革の旗手たち(2/2 ページ)
リクルートでは、2021年4月の国内7社統合を機に、個別最適と全体最適を組み合わせたデータ組織の変革に取り組んでいる。事業領域における戦略の実現を担う縦の組織と各領域で事業横断的にデータ戦略を実践する横の組織によるマトリクス構造のデータ組織を運営し、新たな価値の創出を狙う。リクルートのデータ戦略を推進するデータ推進室の取り組みについて、ITmediaエグゼクティブ プロデューサーの浅井英二が話を聞いた。
「ガードレール」には、データ推進室独自のもの、セキュリティ組織と一緒に定義したものなどいくつかがある。例えばセキュリティルールでは、全社的なセキュリティルールに加え、データ推進室独自の「データウェアハウスは、このように使うと安全」などの管理ルールを設定し、運用している。またクラウドサービスでは、インターネット接続のルールを細かく設定し、クラウドサービスの新しい機能が登場した場合、ルールを加えるなど、適時更新され、強化されているという。
「上」だけでなく「横」へも、メンバー一人ひとりの成長が組織の価値を高める
リクルートは、創業以来、「個の尊重」を重要な価値観と位置付け、多様な従業員一人ひとりの違いを重視してきた。
「リクルートには、さまざまなメンバーがいます。働き方に関しても、リモートワークで1人で仕事をしたいメンバーもいれば、オフィスに来て大人数で働きたいというメンバーもいます。個性あふれるメンバーが多いので、あるがままに多様性を受け入れ、多様な強みを活かすことが大前提です。全てを画一化することで管理はしやすくなるのだと思いますが、失うものも多いと考えています」(阿部氏)
例えばクラウドサービスを利用する場合も同様で、1つのサービスに統合することで運用も楽になり、コストも最適化できる。しかし複数のクラウドサービスを使ってみないと、それぞれの良い面、悪い面は分からない。「実際に使うことで見えてくることもあります。その経験、手触り感を大切にしています。働き方も同じで、1つのルールにすれば管理は楽ですが、多様性を許容することで経験値を何倍にも増やすことが期待できます。ただルールは必要で、働きやすさやコストなどのバランスも重要です」(阿部氏)。
人材の流動性を大事にしていることも同社のデータ組織の特徴の1つだ。勉強会などの形式化された言語だけでスキルを伝えるより、経験者を異動させたほうが継承しやすいこともある。「最大のポイントは、メンバーの成長を最大化することです。メンバーを他の領域に再配置するときも、事業の成長はもちろん大切ですが、個々のメンバーがこの異動で成長できるかを同時に考えます。メンバー1人ひとりが成長することで、組織としての価値の総量が大きくなるので、それを第一に考えています」と阿部氏は話す。
また組織として、いかに経験値を増やしていくかも意識している。統合前は領域をまたいだ交流は難しかったが、会社統合によりそれができるようになった。成功事例はもちろん、失敗事例から得られる経験も得難いものだ。こうした経験を次の成功につなげていくことが重要で、組織全体で学びを最大化している。
「リクルートは、もともと、人材育成に多くの投資をしてきた会社です。例えば、組織長がメンバーの育成にかける時間は、年間約300時間。半年に1度行われる人材開発委員会では、全ての職位の従業員1人ひとりの育成方針について検討します。各個人の成長に向けて、どのような機会を提供していけるとよいのかを、直属の上長だけではなく、組織の管理職全員で、議論、確認しています。機会の一つである異動では、データサイエンティストが、データエンジニアや機械学習エンジニアへと専門性を変えたり、兼任したりすることも推奨しています。上への成長だけでなく、横への成長も人材育成の大切なポイントです。また、”よもやま“と呼ぶ1 on 1も、育成のための大切なコミュニケーションと位置付けています。目標に対する達成度や改善点などをフィードバックし、対話しています。
聞き手プロフィール:浅井英二(あさいえいじ)
Windows 3.0が米国で発表された1990年、大手書店系出版社を経てソフトバンクに入社、「PCWEEK日本版」の創刊に携わり、1996年に同誌編集長に就任する。2000年からはグループのオンラインメディア企業であるソフトバンク・ジーディネット(現在のアイティメディア)に移り、エンタープライズ分野の編集長を務める。2007年には経営層向けの情報共有コミュニティーとして「ITmedia エグゼクティブ」を立ち上げ、編集長に就く。現在はITmedia エゼクティブのプロデューサーを務める。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- できることからDXにむかって――JFA 鈴木隆喜氏できることからDXにむかって――JFA 鈴木隆喜氏
- DX推進は経営そのもの、守りも攻めもできるところから一気に――H2Oリテイリング 小山徹氏
- データ活用でエンターテインメントの未来をつくる――バンダイナムコネクサス
- 災害大国ニッポン、救うのはAIによる可視化、そして予測――Spectee 村上建治郎氏
- 目指すのは「のび太くんの部屋」? 「らしさ」を生かしてDXを推進 ── J.フロントリテイリング 野村泰一氏
- 「おもてなし」とkintoneで伴走型のDX支援を――八芳園 豊岡若菜氏
- 人の感性とデジタルのバランスで商品やサービスの変革へ ―― 三井農林 佐伯光則社長
- デジタルで生命保険の顧客体験を再定義――ライフネット生命 森亮介社長
- デジタルで20世紀型の産業構造を変革する――ラクスル 松本恭攝氏
- コロナ禍の今こそDXでビジネスモデルを見直す好機――ANA 野村泰一氏
- デジタルでヘルスケアのトップイノベーターを目指す――中外製薬 執行役員 デジタル・IT統轄部門長 志済聡子氏
- デジタル化へ突き進む日清食品、データ活用、内製化、会社の枠を超えた次なる挑戦を直撃――日清食品HD 情報企画部 次長 成田敏博氏
- AIで店舗の「3密」対策、社内ハッカソンから2週間で実装――サツドラホールディングス 代表取締役社長 富山浩樹氏
- 変わらないと、LIXIL 2万人超えのテレワーク支援を内製エンジニアでやりきる――LIXIL IT部門 基幹システム統括部 統括部長 岩崎 磨氏
- いま力を発揮しなくてどうする。一日でテレワーク環境を全社展開した情シスの現場力――フジテック CIO 友岡賢二氏
- DXに現場はついてきているか? 「とんかつ新宿さぼてん」のAIが導き出したもの――グリーンハウスグループ CDO 伊藤信博氏
- 3年目の覚悟、実体なきイノベーションからの脱却――みずほフィナンシャルグループ 大久保光伸氏
- 問題は実効支配とコンセンサスマネジメント――武闘派CIOにITガバナンスを学ぶ