教養は、ビジネスパーソンの武器になる――世界のエリートが学んでいる教養書 必読100冊を1冊にまとめてみた:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(1/2 ページ)
いまビジネスパーソンの間で、教養がブームだ。現代の複雑な問題は、すぐに学べるノウハウでは解決できず、問題の本質を洞察して解決するには幅広い教養が役立つからだ。
この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。
ビジネス書の著者たちによる連載コーナー「ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術」バックナンバーへ。
「教養を学べば、仕事力は大きくアップする」というのは、マーケティングのプロとして『100円のコーラを1000円で売る方法』(シリーズ60万部超)、『世界のエリートが学んでいるMBA必読書50冊を1冊にまとめてみた』シリーズ(15万部超)などのベストセラーを手がけてきた永井孝尚さんだ。『世界のエリートが学んでいる教養書 必読100冊を1冊にまとめてみた』(KADOKAWA)を出版した永井さんに、話を聞いた。
教養を身につければ、骨太なビジネス思考が身につく
ビジネスパーソンの間で、いま教養がブームです。教養書はベストセラーの常連です。現代の複雑な問題は、すぐ学べるノウハウでは解決できません。問題の本質を洞察して解決するには幅広い教養が役立つことを、ビジネスパーソンは認識し始めているのでしょう。
例えば、哲学の祖といわれるソクラテスが実践した「ソクラテスの問答法」は、対話で「なぜ?」を繰り返しながら新たな知を発見していきます。これは仕事に悩む部下と話す際に、部下自身も気付いていない自分の中にある答えを、コーチング手法を通じて引き出す方法としてそのまま活用できます。
また哲学者として有名なカントは「一切の前提条件なしで道徳を考える」という「定言命法」を提唱しています。この定言命法は、企業がコンプライアンスを判断する基準にもなります。例えば「評判が落ちると困るから、コンプライアンスに取り組む」という姿勢で取り組む企業は少なくありませんが、これは容易に「評判が落ちなければコンプライアンスは適当でいい」となって、不正が起こってしまいます。カント流の定言命法がちゃんとハラ落ちすれば、コンプライアンスの本質はシンプルに「悪いことは悪いから、NG」ということが分かります。
さらに立派な知識人でも、統計の基本的知識がないために間違った判断をしたり、統計を駆使したトリックにだまされたりすることが往々にしてあります。しかし統計の基本が分かれば、そのような数字のトリックにだまされなくなります。
このように教養が身につけば、骨太なビジネス思考を身につけることができるのです。
一方で、ビジネスパーソンが教養を学ぶ際には、課題もあります。
ビジネスパーソンが教養を学ぶ際の高いハードル
1つ目の課題は、教養の専門家が哲学、経済、政治、社会科学、アート、サイエンス、テクノロジーなどの分野に、あまりにも細分化していることです。
1960年代前半、英国人のC・P・スノーは著書『二つの文化と科学革命』で、「理系の自然科学者と文系の人文学者の間で話が通じないことが、英国で深刻な国力低下を招いている」と指摘しました。この断絶は現代で、より細分化された分野で発生しています。
例えば著名な哲学者や社会学者によるSNS上の発言が、科学リテラシー不足やビジネス常識を知らないために炎上することは少なくありません。いまや専門に特化した知識では、現代の複雑なビジネスの問題解決は難しいのが現実です。
本来の教養とは、1つの専門に偏らずに全体をバランス良く俯瞰(ふかん)し、知らないことを発見する力です。多様な教養の各分野を縦軸に、ビジネス領域のさまざまな課題を横軸にして掛け算することで、今まで気付かなかった新たな深い視点が得られます。現代のビジネスパーソンに求められているのは、まさにこの力なのです。
2つ目の課題は、ビジネスパーソンが教養を学ぶ際のハードルの高さです。
例えば哲学者カントの著書は、ヘーゲル、ハイデガーの著書と並び「三大難解書」と呼ばれています。ソクラテス哲学やフッサールの現象学もビジネスパーソンには難解です。
サイエンスの分野ではダーウィンの『種の起源』やアインシュタインの『相対性理論』も難解です。
そしてこれらの幅広い教養書を、一気通貫で分かりやすく理解できる本が、世の中にはないのが現状です。そこで私は考えました。
「ないのならば、自分で書いてしまおう」
私はマーケティングが本職ですが、教養書にも幅広く接してきました。大学は工学部出身なので、理系は専門です。ビジネス書の著者としても、難しい理論を初心者に分かりやすく紹介する本を数多く手掛けてきました。
個人的に、強い問題意識もありました。
私は企業へのマーケティング戦略研修を提供しています。現場の第一線で頑張るビジネスパーソンと接してきて、「ビジネスパーソンが、問題の本質を考え抜く力が弱いことが、企業のマーケティング力の低下を招いている」と痛感してきました。そしてビジネスでは、問題の本質を構造的に捉える上でも、教養が役立つのです。
そこでこの2年間かけて書き上げたのが、本書『世界のエリートが学んでいる教養書 必読100冊を1冊にまとめてみた』です。本書は幅広い教養分野を横断的に俯瞰し、一見すると難解な教養を「ビジネスでどう役立つか」という視点で、面白く、かつ楽しく理解できることを狙って、次の6章で構成しています。
- 第1章 西洋哲学:ソクラテスを起点に、カントやヘーゲルなどの近代啓蒙思想、構造主義、ガブリエルの現代哲学までの西洋哲学を紹介します。
- 第2章 政治・経済・社会学:アリストテレスの政治学から始まり、ロックの自由民主主義思想、アダム・スミスやマルクスの経済学、社会学、最新の自由主義思想の課題までを紹介します。
- 第3章 東洋思想:古代の中国やインドで生まれた儒教・老子・ブッダの思想を起点に、飛鳥時代の古代日本から現代日本までの思想の変遷、さらにインドや現代中国思想までを紹介します。
- 第4章 歴史・アート・文学:歴史書やアート、文学の名著を紹介します。
- 第5章 サイエンス:サイエンスも教養では重要な1分野です。そこでダーウィンを起点に生物学の名著をひと通り紹介した後、物理学の基礎から最新宇宙物理学、さらに科学思想も紹介します。
- 第6章 数学・エンジニアリング:技術革新は人間社会を豊かにしてきましたが、最新AIなどの登場により人間のあり方は根本から問われつつあります。そこで技術を支える数学と、基本から最新までのテクノロジーの教養書を紹介します。
このように本書は、いわば、ソクラテスから最新AIまでの教養を、ビジネスパーソンのために、幅広く網羅した1冊です。
これからの世の中は、深い教養を身につけているか否かで、人生が変わる時代になります。
本書は、そんな教養のエッセンスを凝縮しました。本書で紹介している100冊は、いずれも例外なく人類としてかけがえのない知識。まずは手に取ってみて、気になるページから読んでみて下さい。
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