日本再生の切り札は、グローバルで大きく先行する次世代コミュニケーション基盤と生成AI:NPO法人国際CIO学会講演会(1/2 ページ)
少子高齢人口減少社会に向け、行政DXをどう進めるべきか。また日本再生を目指すために、グローバル先端技術をいかに活用すべきか。総務省の事務次官、および日米のビジネス論客がAIや未来技術などを議論した。
NPO法人国際CIO学会(IAC)では、「テクノロジーと行政の問題、そしてビジネス」をテーマに講演会を開催した。開会あいさつには、国際CIO学会世界名誉会長で早稲田大学名誉教授(元国連ITU事務総長顧問)の小尾敏夫氏が登壇。「AIも新しい時代を迎え、行政やビジネスの世界においていかに変わりつつあるのか、日本の代表的なスピーカーに講演してもらいます。時間が許す限り、楽しい講演会にしたいと思っています」と話した。
総務省にとって地域DXと生成AIの活用は最重要課題
基調講演には、総務省 事務次官である内藤尚志氏が登壇し、「地方自治体のこれからと地域DX」をテーマに講演した。日本の中長期的な構造課題は、人口減少、少子高齢化であることは周知のとおり。2023年12月に厚生労働省の国立社会保障人口問題研究所が公開した日本の地域別将来推計人口データでは、2020年と比較して11県で2050年の総人口が30%以上減少し、25道県で65歳以上人口割合が40%を超えると報告されている。また市区町村別では、2050年の総人口が2020年の半数未満となる市区町村が約20%という。
内藤氏は、「2050年の課題はだいぶ先と感じるかもしれません。もう少し直近の課題として総務省が2023年夏に公開した住民基本台帳に基づく人口、人口動態、世代数の調査では、日本人住民は1億2242万人で、前年比で80万人減少しています。これは調査を開始して以来、最大の減少数、減少率です。都道府県別でも、47都道府県の全てで減少しています。外国人住民は29万人増えていますが、これを加えてもプラスなのは東京都のみで、地方に行けば行くほど減少数、減少率が高くなっています」と話す。
特に地方自治体にとっては、人口減少、少子高齢化は制約条件となる。例えば財政的な制約で、税金を支払う働き手が減少し、その一方で財政支出を伴う高齢者が増加するため赤字が大きくなっていく。また行政サービスを提供する地方公務員が高齢化し、定年退職したときに同等の人材を確保できるかが大きな制約要因となる。そこで重要になるのが、地域DXの推進である。
地域DXの推進では、自治体そのもののDXと地域社会でのDXの2つを推進する。自治体そのもののDXでは、フロントヤードの改革とバックヤードの改革の2つの取り組みがある。フロントヤード改革とは、地域住民と行政が接する場面の効率化で、重要になるのは現在9500万人が所有しているマイナンバーカードである。マイナンバーカードがあれば、24時間いつでもコンビニで住民票を取得できる。2024年度の利用者数は2500万通を超え、住民票を窓口で申請、交付する作業を大幅に効率化した。
「マイナンバーカードの課題は、利活用のシーンをいかに拡大していくかです。健康保険証としての利用は2024年12月に紙の保険証から切り替わることになっており、その後は運転免許証も一体化する計画です。マイナンバーカードのICチップにはまだ空き容量があるので、ここを使って例えば地域医療の診察券や福祉タクシーの割引券など、地方自治体ごとの活用も進めていき、2025年度にはフロントヤード改革を全国の自治体に拡大したいと考えています」(内藤氏)
一方、バックヤード改革では、ガバメントクラウド対象の基幹業務20種類を2025年度末までに移行することで、情報システムの標準化、共通化を進めていく。内藤氏は、「まずは20業務を共通化し、その後20業務以外も共通化することで、制度改正があってもガバメントクラウド上のシステムを改修すれば、全国のシステムを改修する必要がなくなります。そのためにはデジタル人材の確保も不可欠で、市町村がCIO補佐官の採用やDX推進リーダーの育成のための財政措置も講じていきます」と話す。
地域社会でのDX推進では、デジタル技術を活用し、地域住民、企業、団体が自治体と連携することで、地域課題やデジタルデバイドを解消し、地域社会のサービス向上、利便性向上を実現する。「地域DXの推進は、各自治体が努力することが必要ですが、小さな市町村では困難です。そこで総務省では、地域DXの推進体制を都道府県と市町村が一体となって整備するための働きかけを進めるとともに、地方制度調査会で答申し、今国会に法律を提出する予定です」(内藤氏)。
最後に内藤氏は、「地域DXは、総務省にとって最重要課題の取り組みとして推進していきます。また生成AIを行政に組み込むことも重要で、どの範囲で、何に活用できるのかを議論していきます。地域社会のこれからを考えたときに、地域DXの推進、生成AIの活用は待ったなしの課題だと考えており、今後も国際CIO学会の支援を期待しています」と話し講演を終えた。
日本の強みである先端技術を生かして情報通信産業を元気に
基調講演に続き行われたパネル討論は、パネリストとしてNTTデータグループ顧問、NTTデータ先端技術社長、前NTTデータ副社長の藤原遠氏、情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)常務理事、電気通信協会理事(元富士通ネットワークサービスエンジニアリング社長)の石井義則氏、シリコンバレーから中継でNTTリサーチ社長(前 NTTアメリカ社長)の五味和洋氏が参加、モデレーターは国際CIO学会理事長で早稲田大学電子政府・自治体研究所 教授、総務省およびデジタル庁各審議会 委員の岩崎尚子氏で「グローバルな先端技術の新動向――日本再生の切り札は」をテーマにディスカッションが繰り広げられた。
パネル討論の開始にあたり岩崎氏は、少子超高齢人口減少社会に対応したAI介護ロボットや世界一の災害大国である日本における大規模災害対策や防災デジタルインフラの充実など、「5年後の日本のDXイノベーションにとって重要な技術」について紹介。パネリストの3人が、5年後、その先の未来に登場する新しい技術に向けたグローバルの技術動向、注目の先端技術領域、日本の長所や短所などについて討論した。
グローバルにおける最新技術動向
最新技術動向について藤原氏は、NTTデータが毎年1月に広範で客観的な情報収集をベースに、ITを最大限活用して成長を続けるビジネスの現状を考察し、その向かう先をトレンドで示す羅針盤として公開する『NTT DATA Technology Foresight』を紹介。2024年のトレンドの1つである「AIが起こす地殻変動はなお継続する」では、世界を一変させた生成AIの本格普及に向け、膨大な電力消費などの課題解決が必要なことなどが報告されている。
「新しい技術の評価は、先進的なお客様や研究機関と一緒に進めています。そのためにグローバルで10カ所程度のイノベーションセンターも展開し、それぞれの国で先進的なお客様とPoC(概念実証)や技術評価を行っています。地域ごとに取り組んでいる技術要素としては、欧州ではブロックチェーンやデジタルツイン、量子コンピューティングなど、インドではサテライト&データ、中国では生産テック、衛星や宇宙、自動運転などの分野で技術研究が進んでいます」(藤原氏)
次に石井氏は、「5G無線アクセスネットワーク市場をめぐる動向」について紹介。1948年、戦後の通信の復興を目的に通信機器メーカーが集まって設立されたCIAJは、会員企業数が約140社で、通信機器メーカー、関連部品メーカー、通信事業者など、さまざまな企業が参画している。石井氏は、「活動の柱は、政府にもの申す政策提言、新たなビジネス創出に向けた環境整備、情報通信業界を取り巻く課題への取り組みの大きく3つです。今後はソサイエティ5.0の実現に貢献できる団体を目指しています」と話す。
通信業界の最大の課題は、日本の5Gがグローバルに比べ遅れを取っていること。グローバルの5G基地局のシェアは米国大手5社が90%以上で日本企業のシェアは2%という。「日本が再起するための重要なテーマが2023年12月にAT&Tとエリクソンが米国でオープンかつ相互運用可能なRANを加速させるために発表した新たな協業です。現在のRANは、同じメーカー同士でしかつながらないので寡占状態です。インタフェースがオープン化され、メーカーが違ってもつながるO-RANでは、日本企業が大きく先行しています」(石井氏)。
例えば、NECや富士通は、O-RAN対応の基地局でグローバル展開を計画している。また楽天は、自社で構築した仮想化ネットワークを楽天シンフォニーというブランドでグローバル展開。NTTドコモは、OREXブランドでO-RANサービスを提供している。
2019年よりシリコンバレーでNTTリサーチの社長を務めている五味氏は、2023年8月よりサンフランシスコ市内で始まっている自動運転による商用タクシービジネスについて紹介。「現在、クルーズとウェイモという2社がサービスを提供していますが、10月にクルーズのタクシーが人身事故を起こし、営業停止になりました。しかしウェイモは営業を続け、オースティン、フェニックスに事業を拡大しています。もしこれが日本なら人身事故を起こした段階で全てのサービスが営業停止になったでしょう」と話す。
このような状況でもウェイモは実績を積み重ね、12月末の段階で700万マイルの営業実績があり、人が運転する車よりも6.7倍安全で、警察に捕まる違反をしない確率は2.3倍であることを報告し、人気のサービスとなっている。これがイノベーションを受け入れる社会の好例だろう。自動運転はAIで制御されているが、AIはデータが全てで実戦経験を積むことが非常に重要だ。AIがDXの中心になると実戦経験を積んだAIであればあるほどサービス品質は高くなる。
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