日本再生の切り札は、グローバルで大きく先行する次世代コミュニケーション基盤と生成AI:NPO法人国際CIO学会講演会(2/2 ページ)
少子高齢人口減少社会に向け、行政DXをどう進めるべきか。また日本再生を目指すために、グローバル先端技術をいかに活用すべきか。総務省の事務次官、および日米のビジネス論客がAIや未来技術などを議論した。
今後注目すべき先端技術領域
注目すべき先端技術領域について藤原氏は、災害対策の側面での衛星技術、少子高齢化による人手不足の側面でのセンサテクノロジーや自動運転などを紹介。「グローバルでさまざまな企業と協力し、大量の3次元画像データを収集し、分析したり、シミュレーションしたりするAW3Dと呼ばれる技術を提供しています。AW3Dにより、自然災害対策や地球温暖化対応などに活用したいと考えています。またレジリエンス系のソリューションとしてD-Resilioをグローバル展開することも検討しています」(藤原氏)。
また日本でも、安全なモビリティ社会の実現に向け、自動運転技術への期待は高まっている。藤原氏は、「自動運転は日本では制約がありますが、トヨタ自動車は中国のベンチャーと協力して中国でレベル4のサービスを提供しています。またホンダもハンドルのない車を作ったり、ソニーと協力したりして移動手段だけでなく、社内でオーディオやビジュアルを楽しむ新しい空間としての車づくりを進めています。新しい技術を取り込むことで、日本はまだまだ戦うことができる余地が残っているのではないでしょうか」と話す。
次にCIAJ会員企業の関心事について石井氏は、「無線では、Beyond 5G、6Gに向け、テラヘルツ波という超高速の無線技術が進められていますが、その前に5Gのミリ波がどうなるかが最大の関心事です。一方、光では、NTTが2019年5月に提唱した次世代コミュニケーション基盤構想のIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)への期待が大きくなっています。トラフィックが増えていく中で、消費電力を劇的に下げ、グローバル競争の中で新たなビジネスモデルを創出できるIOWNにチャンスがあると思っています」と話す。
またデータセンター(DC)とオール光ネットワークにも期待が寄せられている。「日本のDC市場は、年率10%で成長していますが、今後5Gの本格化やAIの活用拡大でさらに成長が期待されます。現在、DCはアクセスの良さやインフラ整備の関係上、首都圏、関西圏に集中していますが、デジタル田園都市国家構想で地方に分散させるのが国の動きです。地方分散のメリットは、自動運転など低遅延の必要なサービスをなるべく近くで処理できること、大量のデータを電力供給減に近い場所で処理できることなどです」(石井氏)。
自動運転以外の米国の技術動向について五味氏は、「AIが注目されていますが、エネルギーの消費問題や間違った情報の学習にどう対処するかなど、懸念も広がっています。エネルギー消費問題は、いかに省電力のGPUを開発するかが重要で、NVIDIAがキープレイヤーになります。また間違った情報の学習に関しては、どこで間違った情報を学習したのかを把握し、学習し直すことが必要で、そのための技術の基礎研究を行っています。これは非常に重要なテーマです」と話している。
情報通信産業から見た日本経済の長所と短所、将来課題
日本経済の長所と短所、将来課題について石井氏は、「米国はITバブル崩壊後、リーマンショック後に一時的に落ち込みますが、ICT投資を続けGDPも成長しています。一方、日本はバブル崩壊後にICT投資を行わなかったためGDPも成長していません。このことからも、ICT投資と経済成長には強い相関関係があることは明らかです。GDPがドイツに抜かれたとはいえ、日本の強みは経済規模がまだまだ大きいことで、規模に見合ったICT投資をしていけば成長の余地はあると思います」と話す。
また五味氏は、「米国企業では、全ての産業においてAIを活用しなければ時代に乗り遅れてしまいます。AIの特長の1つとして、データがあればあるほど有効で、価値の高いデータを持っている企業ほど、競争力も高くなります。日本への教訓としては、日本の高齢化社会は海外から見てもかなり特異な状況ですが、これを生かさない手はありません。AI活用の波にどうやって乗るかを一生懸命に考えることが必要です」と話す。
パネル討論の総括として岩崎氏は、「さまざまな国際競争力調査で日本の競争力の低下が著しいというショッキングなデータが公開されています。国際CIO学会としても、こうした損失の検討が必要と考えています。NTTグループの基礎研究、応用研究、IOWNや生成AI、さらにミリ波の活用など、デジタル化に関してより一層の質の高い投資が必要だという話をうかがいました。一方、米国のDX推進のスピードがすさまじく、すでにデータ活用が市場を形成している状況にあり、日本の特異な環境、防災、高齢者社会、人口減少社会など、海外が注目する分野で、いかに日本の強みを発揮していくかが求められます。国際CIO学会としても、喫緊の課題であるデジタル人材の不足を補うための人材育成を続けるとともに、来場者の皆さまとも協力し、日本の情報通信産業を元気にしていきたいと思っています」と話している。
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