第1回若手部下の突然の離職を防ぐ上司の心得:Z世代の早期離職は上司力で激減できる!(1/2 ページ)
大手企業400社以上で「上司力(R)研修」を提供するFeelWorks代表取締役の前川孝雄氏は、大企業で深刻化する若手の早期離職の予防に向けて「Z世代の早期離職は上司力で激減できる!」(2024年4月)を発行した。そこでZ世代の若手部下の育成マネジメントについて3回に分けてつづってもらう。
初々しい新入社員がやってきて1カ月が経ちました。入社時の新入社員研修も一段落し、いよいよ配属が決まり、現場でのOJT指導・育成が始まります。
Z世代ともいわれ、かなり価値観も違ってきた昨今の新入社員。こと大企業で若者の早期離職が大きな課題となっている中で、その未然防止のためにも、Z世代の理解と迎え入れる上司の心得について、考えてみましょう。
仕事ができるか、上司・先輩との人間関係が2大不安
新入社員は、期待と同時に不安も感じながら入社してくるものです。不安には大きく、仕事の知識や技術など「職務遂行能力」に関わる不安と、「職場の人間関係・コミュニケーション」に関わる不安、の2つが考えられます。
「職務遂行能力」についての不安は、自分が仕事に必要な知識や技術をきちんと身に付け、実行できるかどうか、担当の仕事が務まるかどうかという心配です。
これについては、まだ実務経験がない中で、新入社員研修などで一度に多くの知識や技術を詰め込まれることで消化不良になり、「とても覚えきれない」「自分にはとてもムリ」と不安を感じている場合も少なくありません。
具体的な実務場面を知らないうちに頭だけで学習しても、直ちに実践のイメージはわきません。入社間もない時期にすぐ身に付かないのは当然なのですが、同期より少し遅れたと思うと、とても不安を感じるのです。上司も自分の新入社員時代の気持ちを思い起こし、当時の不安や緊張感がさらに数倍のプレッシャーになっていると想像してみるとよいでしょう。
もう一方の、「人間関係・コミュニケーション」の不安は、上司・先輩に加え、さらにお客様や取引先などと円滑な人間関係が築けるか、きちんとコミュニケーションが取れるか、という心配です。
Z世代ともいわれる今の若手。Z世代とは、おおむね1990年代中盤から2010年代序盤までに生まれた層を指します。生まれながらにしてデジタルネイティブである、初の世代です。40代以上の上司世代に比べて、育ってきた環境の中で異世代と交流する機会がとても少ない場合があります。
SNSでのコミュニケーションも含め、同世代の仲間とのやり取りは活発でも、異世代は不得手という場合も少なくないのです。また、友人同士であっても、SNSで悪口を言われたり、仲間外れにされたりすることを恐れるため、目立つのを嫌がり、なかなか本音を明かさない傾向がありそうです。
そうなると、職場という世代や価値観が異なる人たちが共に働く組織に入ると、上司・先輩とのコミュニケーションギャップを感じやすいのです。そこで、「何をどう話せばいいか分からない」「会話・話題についていけない」「職場の雰囲気や習慣にうまく馴染めそうもない」といった不安や違和感を抱くことにつながります。
また、対面や電話でのお客様や取引先とのやり取りも、緊張の連続です。なにせ電話で話すという経験が少ないのですから。まだ自己裁量や自分のペースでは動けず、いきなり指示を受けて右往左往もすることでしょう。その一方で、長時間の研修や業務説明を受け身でじっと聞くことも多く、疲労が溜まるもの。緊張や疲れから、コミュニケーションの意欲がより減退することも考えられます。
Z世代の新入社員を受け入れた上司は、本人が抱きがちな「2つの不安」―職務遂行とコミュニケーション―に配慮し、しっかり受け止めることが大切です。まずは、新入社員との初期の顔合わせ面談などで、「この両方の不安は、どの時代の先輩社員も皆同様に感じ、順番に乗り越えてきた『健全な不安』だ」と話しておくとよいでしょう。
そして「徐々に職場に馴染み、OJTや実務を通して繰り返し経験を積むことで、少しずつ解消できる」と伝え、前向きな心の準備をさせることです。その上で、具体的な不安や心配に対しては、その都度相談に応じ、必要な育成を心掛けましょう。
また、新入社員は、忙しそうな上司・先輩に声をかけることを想像以上に遠慮しがちです。そこで、「知らないことを何でも質問できるのが、新入社員の特権」「分からないことは、いつでも遠慮せず質問してよい」と伝え、態度でも示しておきましょう。
とにかく傾聴に徹すること
上司は、節目の時期や、新入社員に気になる様子が見受けられた時には、傾聴のためのリラックスできる環境で面談しましょう。本人の気持ちや、感じていること、考えていることを聴き取り、できるだけ本人の立場に立って不安や思いを受け止めることが大切です。
ここで言う傾聴とは、単に相手の話を黙ってひたすら聞くことではなく、アクティブ・リスニングを指します。相手を理解するために、その言葉の中にある事実や感情を積極的につかもうと、文字通り「耳と目と心で十分に聴く」のです(【図表】参照)。
傾聴の目的は、相手の率直な気持ちや考えを「そういうことか」と共感的に受け止め、理解を寄せることです。この態度によって、相手は「話を聴いてもらえた」「また疑問や悩みを相談できる」という安心感と信頼感を抱き、心理的安全性を醸成することができます。相手に関心を示し、近づく姿勢が大切です。
ただし、傾聴による「共感」は「同調・同意」とは異なります。上司の信念や考え方を無理に曲げる必要はなく、まず「違い」を認めればよいのです。その上で、受け止めた話の中身に応じて対話を進めていきます。
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