機械学習やAIでセールスを変革するLayerX――BizOps部 鈴木崇之部長:デジタル変革の旗手たち(1/2 ページ)
Gunosy創業者が設立したLayerXは、経理のメンドクサイを解決するためのクラウドサービス「バクラク」事業において、「BizOps」を推進している。ビジネスとオペレーションをデータ活用により連携させ、セールスを変革する同社の取り組みについて、ITmediaエグゼクティブ プロデューサーの浅井英二が話を聞いた。
LayerXは、2012年大学院在学中に株式会社Gunosyを創業し、約2年半で上場した実績を持つ福島良典氏が、「すべての経済活動を、デジタル化する。」というミッションを掲げて2018年に設立したベンチャー企業。当初はブロックチェーンの開発・コンサルティング事業に集中的に取り組んだが、日本の現状ではブロックチェーンを利用した社会変革は時期尚早と判断することに。福島氏によるMBOを経て独立した企業となった現在は、どの企業にも必要とされる身近な業務のDX実現に舵を切り、バクラク事業、Fintech事業、AI・LLM事業という3つの事業を展開している。
成長事業であるバクラクは、2020年後半よりPoC(概念実証)が開始され、2021年1月に正式リリースされたクラウドサービスだ。企業間の取引における稟議業務の統一や債権債務業務の一元管理に特化した複数のプロダクトで構成される。バクラク事業では、顧客へのサービス提供の迅速化や価値向上を図るべく、ビジネスとオペレーションをテクノロジーやデータを活用して連携させ、組織運営をより効率化する「BizOps」を推進している。バクラク事業部 BizOps部 部長 兼 カスタマーサクセス部 CSOpsグループ マネージャーの鈴木崇之氏に、バクラク事業やBizOps部の取り組みについて話を聞いた。
経理のメンドクサイを解決するために
バクラクは、従業員や経理担当者がそれぞれにかかわる業務領域において、業務のなめらかな連携により企業経営を加速させるクラウドサービス。2021年1月にプロダクトの第一弾として「バクラク請求書受取」をリリースし、その後は半年から1年ごとに新たなプロダクトを追加している。現在は、バクラク請求書受取をはじめ、「バクラク経費精算」「バクラク申請」「バクラクビジネスカード」「バクラク電子帳票保存」「バクラク請求書発行」の6つのプロダクトを展開、稟議の統一と債権債務の一元管理の領域を幅広くカバーできるようになった。また、2024年7月にはこうした企業の支出管理だけでなく、人事領域(HRM)にも進出することを発表。HRM領域の第1弾として、「バクラク勤怠管理サービス」を2024年秋にリリースする計画だ。
バクラク事業をスタートした背景を鈴木氏は、「新しいビジネスを立ち上げるために、さまざまな角度でお客様に話を聞いて回ったところ、企業において経理業務が重要な役割を果たしているにもかかわらず、デジタル化が進んでおらず、大きな課題があることが分かりました。特に請求書は、紙やPDFで受け取った書類を電子化して保存、各種法規制に対応する必要がありますが、デジタル化が圧倒的に遅れており、これを解決するプロダクトも少ない状況でした。こうした背景から生まれたのがバクラク請求書受取で、導入社数はすでに1万社を超えています」と話す。
複数のプロダクトを次々と提供していくというバクラク事業の戦略は、「コンパウンドスタートアップ」と呼ばれている。米Ripplingのパーカー・コンラッドCEOが提唱している競争戦略で、単一プロダクトではなく、複数プロダクトを意図的に提供し、データを中心にサービスを統合していくことで、より早い成長が見込めるというもの。LayerXでは、コンラッド氏のコンパウンドスタートアップという戦略を特に意識していなかったものの、創業時から同じ考えで事業を迅速に展開してきたことから、現在はコンパウンドスタートアップという言葉で自らの戦略を表現しているという。
「1980年代から1990年代はERPによって全社のリソースを管理していこうと業務パッケージの導入が進みましたが、2010年ごろからはSaaSによる部署単位での便利な単一機能の提供が盛んになり、再びサイロ化してしまいました。バクラクは、リリース当初から1つのプロダクトではなく、複数のプロダクトで構成することが計画されており、経理や労務、営業などの部門でサービスを分離するのではことなく、データを中心に部署間のシームレスな連携を実現できるアーキテクチャになっています。プロダクト間の連携の良さが、お客様にも支持いただいている特徴です」(鈴木氏)
複数のプロダクトを連続してリリースしていくことは、コンパウンドスタートアップの醍醐味であり、価値である一方、難しさでもある。さまざまなフェーズのサービスが入り乱れ、かつサービスの組み合わせごとにターゲットや売り方が異なるためである。鈴木氏は、「3年前にリリースしたプロダクトと今年リリースしたプロダクトでは、成熟度や導入しやすさなどがまったく違います。フェーズの違うプロダクトを提供することの難しさはもちろん、サービスごとに組み合わせて使ってもらうことが価値なので、複数のプロダクトを組み合わせて提供する難しさもあります。こうした課題を解決するカギとなるのがテクノロジーと営業の融合です」と話している。
機械学習やAIの活用でセールスを変革
LayerXには、大切にしている5つの行動指針があり、その1つに「Bet Technology」がある。Bet Technologyが意味するのは、技術に賭けることがよりよい未来につながるという考えだ。この行動指針に基づき、営業目標となる新規売上を要素分解し、各指標の改善方針を洗い出し、改善方針ごとにテクノロジーによる変革ポイントを見極めることで、テクノロジーと営業の融合を実現している。
「テクノロジーで営業を変革していくためには、データとAIによって営業生産性が増幅される“LayerX流の営業組織”を作っていく必要があります。データを活用してセールスの周辺業務を自動化し、可処分時間を増やしたり、誰がどの商談を担当すると受注率が向上するかを自動的に判断したり、セールスの評価を数値化したりなど、機械学習やAIに投資をすることで、セールスのパフォーマンス向上を目指しています」(鈴木氏)。
具体的な取り組みとしては、顧客への価値を生み出す業務プロセスをシステムによって効率化し、さらにシステムから生み出されるデータを管理・活用することで意思決定の精度と速度の最大化を実現するライフサイクルを構築・改善している。併せて、さまざまなデータを収集、蓄積し、使いやすく加工するための基盤を構築することで、客観的なデータに基づき意思決定することが可能になり、これまでのビジネスの経験や勘をデータで可視化することができるようになるという。
「例えば月160時間のうち、お客様との商談時間は50〜60%程度が実情です。社内のミーティングや事務作業、商談前の準備、商談後のデータ入力などに時間を取られ、実際の商談に使える時間はかなり少なくなってしまうからです。そこで見積、契約などの業務をシステムにより自動化、簡略化して、本来のセールス活動に専念できる仕組みを構築し、セールスの生産性を向上することに部署として取り組んでいます」(鈴木氏)
また、営業活動で生み出されるテキストや音声、動画などのバラバラな場所にバラバラなフォーマットで存在するデータとLLM(大規模言語化モデル)を活用するシステムを自社開発することで、商談の良かったポイント、改善すべきポイントなどをフィードバックできるようになり、セールスのスキルと営業生産性の向上に役立てようとしている。
「商談の動画を解析して、誰が、いつ、どのような話をしたのかをテキストベースで表示できる商談動画プレーヤーや電話によるセールスの音声を解析するコール音声プレーヤー、社内のプロダクト情報の検索を容易にするAIアシスタント(社内情報)、商談先の情報検索を容易にするAIアシスタント(Web情報)の開発など、データとAIによるセールスの生産性向上に関して、すでに実績があります」(鈴木氏)
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