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ビジネスアナリシスの現場実行力を組織的に磨く実践的手法ビジネスとITを繋ぐビジネスアナリシスを知ろう!(1/2 ページ)

社会的役割を果たす行動を実践し、成果を発揮することができるコンピテンシーを向上させるには、ショートケースを用いたワークショップ手法が有効だと考えている。

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コンピテンシーとは何か

 私たちは、コンピテンシー研究の第一人者でもあるライル・スペンサー&シグネ・スペンサーが考えるように、氷山モデルを意識することが重要だと考えています。私たちは人材を評価するときに、目に見える知識やスキルを評価しがちですが、知識やスキルがあることが必ずしも仕事の成果とイコールになるわけではありません。ある役割における成果を発揮するには、その役割に期待される行動をとる必要があります。各人材の中にある社会的役割、価値観、自己イメージ、特質や動機などが重要であり、ある仕事の成果を達成するには、この外から見えない領域の能力も向上させる必要があると考えています。


氷山モデル

 アビリティやスキルとは、何かができること、そしてそれができるために用いられる技術や技法を使いこなすことを意味しますが、コンピテンシーとは、ある社会的役割において、その役割を果たして期待される成果を出すためにふさわしい行動をとることができる能力を指します。こうしたコンピテンシーを向上させ、自我流ではない持続的に成果を発揮し続けるためには、3つのコンピテンシー要素が必要と考えられます。

 1つ目が、その役割における適切な知識です。ビジネスアナリストの役割を果たすのであれば、ビジネスアナリシス実践者のグッドプラクティスが体系化されたBABOK(Business Analysis Body of Knowledge)を正しく理解するということです。

 2つ目が、実践コンピテンシーであり、これはコンテキストに応じて、知識体系におけるプロセスやプラクティスや手法を適切に選択して適用できるということです。例えば、顧客やユーザと開発者の間でソリューション要求が明確に固まらないとします。私たちはその状況(コンテキスト)をまず分析し、何が事実として起きており、何が問題や原因なのかを特定することから始める必要があります。

 ユーザは頭にイメージはあるのだけれど言語化できないならば、プロトタイプを作成して要求を引き出す手法を用いるかもしれません。ステークホルダとの個別インタビューでさまざまな異なる意見が出てしまい集約できないのであれば、ビジネスアナリストがファシリテートする要求ワークショップを開催するかもしれません。私たちビジネスアナリシス実践者は、その状況に合わせて、どのような手法を用いることができるかを知っており、それを実際に現場で適用実践できる必要があり、これを実践コンピテンシーと呼びます。

 しかしこれだけでは成果が発揮できないかもしれません。そこで出てくるものが、3つ目のパーソナルコンピテンシーです。これは、一般的にソフトスキルやヒューマンスキルと言われているものとも重なっており、人間関係構築力、コミュニケーション力、コンフリクト対応や交渉力、リーダーシップなどさまざまな要素が含まれてきます。

 実践者は、実践コンピテンシーとして、多様な対立も含む見解があるときに要求ワークショップを開きます。要求ワークショップとはどのような手順で進め何をすればいいかです。しかし、それを実際に実行するためには、高いファシリテーション能力や共感力、コンフリクトマネジメント力などのパーソナルコンピテンシーがなければ、うまく運営することができません。

 さらに重要なのは、ビジネスアナリストという役割として期待されることが何かを本人が理解していなければ、望ましい方向へファシリテートすることができません。例えば、声の大きな強面のステークホルダがいたときに、ファシリテータであるビジネスアナリストが弱腰になってしまい、強引な主張に一方的に押し切られてしまうだけでは、ビジネスアナリストとしての社会的責任を果たしていることになりません。

 また、各機能部門に対し風見鶏的にそれぞれの要求を聞いて、個別最適なばらばらなソリューションにつながってしまうような要求のまとめかたになってしまっていては、(全体最適な)価値を実現することへの期待に応えられていません。私たちのビジネスアナリストとしての行動の裏には、こうした社会的役割と期待への自らのコミットメントとプロフェッショナリズムが求められるのです。

コンピテンシーを向上させる実践的手法

 私たちは、こうした社会的役割を果たす行動を実践し、成果を発揮することができるコンピテンシーを向上させるには、ショートケースを用いたワークショップ手法が有効だと考えています。もちろん現場でのOJTによる育成は有効ですが、それだけでは、ある特定の文脈での経験しか得られず、そしてうまく運用できなければその現場に閉じたコンテキストでしか考えられないある種のバイアスにかかった思考しかできなくなる可能性さえあります。

 より多様な経験やバックグラウンドを持った実践者同士が集まって議論できる場が、本人の多様な視点の獲得とパターン学習を促します。これが1つ目のメリットであり、実践力を強化することにつながります。

 もう1つのメリットが、こちらがより重要ですが、本人の行動を変えるきっかけになるということです。ただし、これには、本人の内省が必須条件です。なぜなら、人間が行動を伴う形で進化するためには、自分で自分が行動を変えなければいけないということを深く認識し、変えることに自分でコミットしていくことが重要だからです。

 ショートケースワークショップは、ケースの文章を意図的に短くして情報量を少なくすることで、参加者は、ケースを見て裏では何が起きているのか、何が本質的な問題なのかを類推する必要があります。これにより、各参加者のバックグラウンドや知見によって、多様な見立てが生まれてきます。

 ある参加者は、自分の見立てと全く異なる見立てを出してきた他の参加者と会話することで、想定したケースの背景や過去にあった似たような事例の話などを聞き、自分が考えもしなかった視点があることに気づくでしょう。そうした自分の思考の癖や不足している視点や視座の低さなどに気づいて内省することで、本人の行動を変えるきっかけを与えることができるのです。

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