ビジネスアナリシスの現場実行力を組織的に磨く実践的手法:ビジネスとITを繋ぐビジネスアナリシスを知ろう!(2/2 ページ)
社会的役割を果たす行動を実践し、成果を発揮することができるコンピテンシーを向上させるには、ショートケースを用いたワークショップ手法が有効だと考えている。
ビジネスアナリシス・ショートケースワークショップの進め方
こうした手法はプロジェクトマネジメントの領域でも長年研究会活動をやってきましたが、ビジネスアナリストの育成においても非常に有効だと考えています。以下にその手法の概要を紹介します。
基本のワークショップの運営プロセスは、用意したショートケースに対し、
1、個人ごとに短時間でケースにおける課題と対策アクションの見立てを行う
2、4人程度のチームごとにお互いの見立てを紹介しながら協議する
3、その後全員で集まって各チームで出た議論を紹介してもらい、参加者全員で議論する
4、最後に今回出た論点が、BABOKのようなフレームワークのどこに該当するポイントであるかを考えてみる。最後の検討は、実践的な行動の議論のポイントを、体系的なフレームワークに紐づけることで、自己流ではない知識体系を踏まえた上での実践力へとつなげるための工夫になります。
まずは、次のようなショートケースを用意します。できれば、参加者のリアルなケースを用いるほうがよく、特に、そのケースを提出した本人は、多様な意見を他の参加者からもらうことになり、とても勉強になります。情報量は多すぎず、一方で起きていることがイメージできる形で背景を描写し、その状況におけるビジネスアナリスト本人としての抱えている問題意識を記述します。
ワークショップの最初に、本ケースを参加者全員に紹介します。この時点では、不足している情報などへの質問は受け付けてはいけません。それを参加者個人の経験や知見で類推することが、この手法の重要なポイントの一つであるからです。
次に、ケースにおける本質的な課題と対策(アクション)を考える個人ワークを10分以内で行います。ここでのポイントは、各参加者が十分な検討時間をもって、できる限りの可能性の検討や詳細な“分析”を行うことが趣旨ではないことです。
自分としての最も可能性のある見立てが何であるか、そしてなぜ自分としてはそう考えるかを明らかにしておくことが趣旨です。多様な視点での議論は、次のチーム内での協議の時間で実施します。それゆえ、個人ワークのための時間を多くとって、チームでの議論の時間を減らしてしまうのは、本末転倒になります。
ビジネスアナリストとしての基本的な思考や振る舞いも合わせて身につけていきたいという目的を持つ場合は、これまで説明した手順で実行する前に、もう1つ事前検討のワークショップを追加し、次の2つのワークショップを実施します。
1、BACCM(Business Analysis Core Competency Model)を用いてショートケースを理解する
2、ケースにおける課題と対策(アクション)を考える
BACCMとは、BABOKが定義しているビジネスアナリシス活動のコアの要素を説明しており、突き詰めればビジネスアナリシスとはこの6つの点について検討し、問題解決を図り、チェンジの活動を実行して価値を生み出している活動であることを示しています。
このBACCMのフレームで、ショートケースの状況をとらえることで、ケースが対象にしている本質的な内容が何かを理解するベースになります。こうした分析をまず個人で行ったうえで、チーム内で検討結果を共有しながら、理解を深めます。このようにBACCMの分析を行ってから、ショートケースにおける本質課題と対策を考えることで、よりビジネスアナリストとしての思考法が身につくでしょう。
演習を行う前に、以下に示すようなワークシートを用意し、チームごとに区切って各チームのワークスペースを作成し、その中に各参加者の個人ワーク用のスペースを人数分と、チームで協議するためのスペースを1つ用意し、そこにアウトプットを作成してもらいます。
チーム内の議論をする際の注意点は、無理にチーム内での意見を1つにまとめようとしないことです。ワークショップの趣旨は多様な視点からの気づきを得ることであり、むしろチーム内でこういったさまざまな視点からの見立てがあったということをまとめる方が好ましいと言えます。
これらの内容をチームごとに発表できる程度に整理し、全チームが集まって、相互に発表しながら、チーム内では出てこなかった新たな視点の獲得をさらに行います。
最後に実施するとよいのは、議論のポイントが、BABOKのフレームのどこと関連しているかを振り返って整理してみることです。BABOKにおけるビジネスアナリシスの実践コンピテンシーの元である知識エリア(戦略アナリシスや要求アナリシスとデザイン定義など)と、ビジネスアナリストのパーソナルコンピテンシーについて多く触れられているビジネスアナリシス基礎コンピテンシーの両方を参照し、ケースの議論で出てきたポイントが、これらの内容のどこと関連しているかを照らし合わせることで、現場での行動と体系的な知識やスキルが紐づいてきます。
最後に
ショートケースを用いた手法はこれまでにも世の中にありましたが、それらはパターン学習の域にとどまっているかもしれません。それは学習のポイントの1つではありますが、私たちがより重視しているのは、このワークショップを通して内省するきっかけを得るということです。その内省を通して、自らが変わらなければならないことに気づき、自らの行動を変えていくことで、ビジネスアナリストとしての社会的役割を果たすコンピテンシーを向上させることができると、私たちは認識しています。
IIBA日本支部でも、個人会員およびスポンサー企業向けにこのショートケースワークショップを毎月開催しています。関心を持った場合は、是非IIBA日本支部の活動をのぞいてみてください。
またこうしたビジネスアナリシス能力開発の手法についても、次に詳しく紹介しています。関心があればアクセスしてみてください。
著者プロフィール:塩田宏治
株式会社クリエビジョン代表取締役
IIBA認定CBAPR (Certified Business Analysis Professional)
IIBA認定CPOA (Certificate in Product Ownership Analysis)
The Open Group認定TOGAFR Enterprise Architecture Leader (TOGAFR10)
The Open Group認定TOGAFR Enterprise Architecture Practitioner (TOGAFR10)
The Open Group認定TOGAFR Business Architecture Foundation
米国PMI認定PgMPR(Program Management Professional)
米国PMI認定PMPR(Project Management Professional)
Scaled Agile認定SAFeR SPC(SAFeR Practice Consultant)
【略歴】
- NTTデータ、ソニーを経て、独立。プロジェクトはモノを作るだけの活動ではなく顧客とビジネスの価値を生み出すチェンジ活動であるという信念のもと、プログラムマネジメント、ビジネスアナリシス、ビジネスアーキテクチャやエンタープライズアーキテクチャ、エンタープライズアジャイルなどの専門領域の経験と知識・スキルを活用し、顧客のビジネスおよび組織のトランスフォーメーション活動を支援し続けています。
- IIBA日本支部理事
- Iasa日本支部アドバイザリーボード
- 経済産業省・IPA ビジネスアーキテクチャ人材の育成に関するタスクフォース 委員
- 北海道大学非常勤講師
(株)クリエビジョンのサイトからビジネスアナリシスに関連する情報を発信しています
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