日本で生まれたビジネスアナリシス方法論:GUTSY-4:ビジネスとITを繋ぐビジネスアナリシスを知ろう!(1/2 ページ)
BA方法論は具体的なビジネスアナリシスの作業にまで落とし込んであるため、すぐにでも使用することが可能だ。GUTSY-4というBA方法論の概要を紹介する。
第2回:ビジネスアナリシスの知識体系BABOKガイドとは(前編)
第3回:ビジネスアナリシスの知識体系BABOKガイドとは(後編)
第7回:戦略と実行の橋渡し、ビジネスアーキテクチャの役割――デジタル時代を生き抜く、企業の新しい羅針盤
第8回:要件定義をツールで行なう:ビジネスアナリシスツールの紹介
第11回目は「日本で生まれたビジネスアナリシス方法論:GUTSY-4」 です。
BABOKはビジネスアナリシスの知識体系でタスクやテクニックを紹介していますが、かなり抽象的で具体的なビジネスアナリシス活動をするのにはまだギャップがあり、そのままで使えるものではありません。今回紹介するBA方法論は具体的なビジネスアナリシスの作業(ワークとその下位のアクティビテイ)にまで落とし込んでありますから、すぐにでも使用することが可能です。GUTSY-4というBA方法論の概要を紹介します。
(GUTSY-4:Grand Unified Synchronizing Four models)(GUTSY-4は株式会社プロセスデザインエンジニアリング 代表 渡辺和宣氏考案のビジネスアナリシス方法論です)
この方法論の主な特徴は次のとおりです。
- 階層的なアプローチ:戦略をプロセスとITに落とし込む方法論で、具体的なビジネスアナリシスの作業(ワーク/アクティビテイ、技法、ツールなど)が定義されています。
- 豊富な業務参照モデル:マーケティング、人的販売、商品企画・開発、設計、サプライチェーン(調達、生産、受注出荷、顧客サービス)などが用意されています。ベストプラクティスなので全て実績のある業務参照モデルです。
階層的なアプローチの概要:
プロジェクトライフサイクルに沿って、4つのフェーズ(構想、企画、計画、実施)にわたり、戦略(ビジネスモデル)、プロセス(ビジネスプロセスモデル)、IT要求(IT要求モデル)、ソフトウェア(ITモデル)の4つのモデルにより要求定義を行います。従って下図のようにIT要求が戦略に完全に整合するように定義できるようになります。
豊富な業務参照モデル:
ビジネスプロセスを考えることを大幅に助けてくれる多くの業務プロセス参照モデル(ベストプラクティス)が準備されています。そのベストプラクティスの対象領域は次のとおりです。
- マーケティング
- 人的販売
- 商品開発
- 設計・開発
- サプライチェーン計画
- 調達
- 製造
- 受注・出荷
- 顧客サービス
DXで必要な業務改革プロセスの多くのベストプラクティス(参照モデル)が用意されていることが分かります。この参照モデルを使えば、不足しているプロセス、改善/改革が必要なプロセスが一目瞭然になるのではないでしょうか。ベストプラクティスなのでプロセスのTOBEモデルが素早く定義できるようになります。
プロセスの階層構造は組織の構造にほぼ対応します。例えば次のように考えると分かりやすいと思います。
- レベル0:事業戦略:全社 :事業戦略の立案。経営機能を複合したものです。
- レベル1:経営機能:事業部:事業戦略を経営機能に分解した個別戦略です。
- レベル2:業務機能:部 :個別戦略を実現するための業務改革設計⇒戦術です。
- レベル3:上位プロセス:課:業務改革を業務プロセス(ハイレベルプロセス)に具体化したものです。
- レベル4:中位プロセス:係の仕事:アクティビティレベル(正常プロセスのみ)です
- レベル5:タスク :担当者レベルの仕事です。
- レベル6:サブタスク :個人の作業
次の図はビジネスプロセスを階層的に表したものです(イメージ)。
上記業務参照モデル(ベストプラクティス) の対象領域 「マーケティング」、「人的販売」、「商品開発」……は全てレベル1のプロセス階層レベルです。
日本での業務改革はいきなり担当者の業務をヒアリングし分析して改善しようとすることが多いですね。そうすると、そこではその担当者固有の作業までプロセス化しがちです。特殊なケース(1年に数回もしくはそれ以下の頻度)や例外処理なども含まれがちになります。しかもその担当者の業務は階層構造で見ればかなり低いレベル(レベル5以下)なので、その改善が経営課題に結びつくとは言いづらいものです(ほとんど期待できません)。それは担当者レベルの単なる作業改善でしかなく、業務改革とは程遠いものです。
そうではなく、経営課題を解決するためにはプロセス階層構造の上位のレベル2かレベル3でボトルネックを明確にし、その要因となるレベル3プロセスを明確にし、つぎのレベル4プロセスに落とし込んでいくことが重要です。全ての個人作業までプロセスを分析する必要はなく、上位プロセスのボトルネックに関連する(トレースされる)下位プロセスだけを変革すればよいのです。
そして必要に応じてIT化し定着する。そうすれば、このIT化はノーコード(またはローコード)開発でも可能なものがあります。このようなアプローチでノーコード(またはローコード)開発を活用すると、かなりの業務改革まで可能になります。しかしながら、いきなりレベル5やレベル6の担当者レベルのプロセス業務改善(単なる作業改善)をローコード開発で実装しても肝心の経営課題の解決とは程遠いものになってしまいます。
日本で大流行りのRPAの多くの導入にも問題が散見します。10人が、東京、大阪……で同じ業務をしているとします。業務を標準化せずに個人レベルの作業をロボット化して業務を改善するには10台のロボットが必要になります。確かに工数削減には貢献するかもしれませんが、その代わりに10台のロボットの費用がかかってしまいます。もし業務を標準化すればロボットは1台で済みます。個人レベルの業務はレベル5〜6です。RPAはさらにその個人の仕事の一部の作業を肩代わりするだけですから、レベル7くらいになります。レベル7作業を標準化するためにはその上のレベル5〜6が標準化されていなければ意味がありませんね。さらにその上のレベル4〜3の標準化も必要です。こうしてみると、プロセスの標準化がそう簡単にできるものではないことが分かります。
そこで業務参照モデル(ベストプラクティス)が威力を発揮します。1から業務プロセスの標準化をする必要ありません。参照モデル(ベストプラクティス)を使用すれば、ビジネスプロセスのフロー、インプット/アウトプット、成果物が明確に定義されますので業務プロセスの分析に役立ちます。そしてビジネスプロセスの問題を特定し、改善策を提案することができます。プロセス参照モデルを使用して、ビジネスプロセスの効率性を向上させ、コストを削減し、品質を向上させることができます。
また、プロセス参照モデルを使用して、組織内でのコミュニケーションを改善することができます。ビジネスプロセスの全てのステークホルダーは、プロセス参照モデルを使用して、プロセスの目的やプロセス内での役割や責任についての共通の理解を確立することができます。
次の図はビジネスの階層構造と4つのモデル(ビジネスモデル/ビジネスプロセスモデル/IT要求モデル/ITモデル)の関係を図示したものです。
ビジネスアナリシスを実行するためには具体的なアクティビティーを規定しなければいけません。そのために活動を4つのフェーズに分けて行います。
プロジェクトライフサイクルに沿って、4つのフェーズ(構想、企画、計画、実施)にわたって、プロセス階層レベル(レベル1、レベル2、レベル3……)に沿って階層的に4つのモデル(ビジネスモデル、ビジネスプロセスモデル、IT要求モデル、ITモデル)をモデリングしていきます。
つまり、
- 4つのフェーズ(構想、企画、計画、実施)
- プロセスの階層レベル(レベル0、レベル1、レベル2……)
- 4つのモデル(ビジネスモデル、ビジネスプロセスモデル、IT要求モデル、ITモデル)
を上から順番に階層的に、段階的に詳細に作業を進めていくわけですが、その手順は少し複雑です。
そして、おのおののモデリングを行う際のビジネスアナリシス作業(500以上のアクティビティー)と成果物がしっかり定義されています。ですからそれらのアクティビティを順番に実行しさえすればビジネスアナリシス作業が完遂することになります。
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