日本で生まれたBA方法論 匠Method:ビジネスとITを繋ぐビジネスアナリシスを知ろう!(1/2 ページ)
ビジネスアナリシス活動を実践する際の方法論の1つ、BABOKの考え方にも沿った、「戦略アナリシス」から「要求アナリシスとデザイン定義」の知識エリアに対して有効な、日本で生まれた匠Methodを紹介する。
第2回:ビジネスアナリシスの知識体系BABOKガイドとは(前編)
第3回:ビジネスアナリシスの知識体系BABOKガイドとは(後編)
第7回:戦略と実行の橋渡し、ビジネスアーキテクチャの役割――デジタル時代を生き抜く、企業の新しい羅針盤
第8回:要件定義をツールで行なう:ビジネスアナリシスツールの紹介
「ビジネスとITを繋ぐビジネスアナリシスを知ろう!」の第10回目となりました。これまでビジネスアナリシスに関して、その大切さについての話や、知識体系であるBABOKガイドの概説から、付随する専門領域の概説を行ってきました。
ただ知識体系というものは、考え方や必要となるタスク、及びタスクを実行する上で有効なテクニックなどを紹介しているもので、具体的な方法論ではありません。PMBOKを元に各社が開発標準を作成し、具体的にプロジェクト運営を行うように、何かBABOKに沿った具体的な方法論がないものか? と考える人もいると思います。
そこで今回は、ビジネスアナリシス活動を実践する際の方法論の1つを紹介します。ビジネスアナリシスの要素はいろいろな活動の中に存在し、唯一無二の方法論というものは存在しませんが、BABOKの考え方にも沿った、「戦略アナリシス」から「要求アナリシスとデザイン定義」の知識エリアに対して有効な、日本で生まれた匠Methodを紹介します。
匠Methodとは?
匠Methodは、(株)匠Business Place代表取締役会長の萩本順三氏が作成した独自の事業戦略、組織戦略、プロジェクトなどをデザインする手法です。
基本的な考え方は、業務やプロジェクトを実施する前に、そもそも「その業務やプロジェクトを実施する価値は何なのか?」を追求する価値創造のサイクルが必要であり(下図の左の絵)、全ての要求は価値を元にして生まれる価値駆動でなければならないということです。
一般的に「要求」に基づいて現状業務を現状から理想に変革し、そのための具体的な活動を計画しますが、そもそもの「要求」に「価値」があるのかを問い、「価値」に裏付けされた「要求」のみを実行に移すことにより、関連する人の変革活動への動機を強固なものにし、また価値がない無駄な要求は排除します(下図の右の絵)
ここでの「価値」とは、誰のどんなものでしょうか? 匠Methodでは、「価値デザインモデル」で表現される、その活動を推進する側の価値(シーズ)と、「価値分析モデル」で表現される、その活動から影響を受ける関連者(ステークホルダ)の価値(ニーズ)の両面があると考えます。そして実現すべき要求は、独りよがりだけのシーズではなく、またワガママだけのニーズでもない、両者の整合が取れたものであると考え、「要求分析ツリー」という形で表現します。
上記で登場するモデル(図)は、図を描くこと自体が目的ではなく、図を描く中で関連者が議論を行い、議論を通して描かれた内容に共感し、合意することが目的です。ビジネス価値を生むプロジェクトであれば、戦略的視点を持つ経営者(経営企画部門)、業務問題解決の視点を持つ業務部門、技術活用の視点を持つ開発部門がその議論に参加する必要があります。もちろん最初から完成形が得られることはなく、それぞれの関係を見ながら洗練させていくことになります。
活動を推進する側の思いである「意」、関連者の理解、共感である「情」、両者を論理的に整理した「知」をバランスよく考えるというところが、哲学者カントが提唱した「知・情・意」にも通じています。
主要な3つのモデルの概説を以下に示します。
(1)価値デザインモデル
価値を6つの領域で定義することで、プロジェクトの軸足(強み、大切にすべきこと)をデザインします 。長期的に何を目指すのかを示すビジョン、その目指すところへ到達するための戦略を示すコンセプト、そしてそれらを分かりやすく伝える、言葉、意味、ストーリー、デザインにより、自分たちの強みが何であるのか、長期的に何を目指すのかというプロジェクトのコアを描き共感することに集中できるようになります。
(2)価値分析モデル
ステークホルダがプロジェクトでどのような場面と手段により価値を「感じる」のかを魅力的な言葉(=嬉しい言葉)によって表現します。このモデルを作成することにより、独りよがりな価値ではなく、さまざまな視点からの価値を定義することができます。また、プロジェクトの目的と価値とを関連付けをすることにより、価値を届けられない目的(不要な目的)や、価値から抽出される新たな目的(発見的目的)を発見することができ、プロジェクトチームに1つの価値観を共有することができるようになります。
(3)要求分析ツリー
価値デザインモデルのビジョンとコンセプトをトップに、価値デザインモデルの目的と、価値分析モデルの価値記述に含まれる手段を参考に要求を抽出し、それらを「目的と手段」の関係でつないでいきます。 もちろん最初からきれいにつなげることは難しく、つなげる議論を受けて価値デザインモデル、価値分析モデルを修正することが必要になり、3つのモデル間で議論と修正を繰り返することもありますが、「つなぐ」ことより価値につながらない要求を排除し、またそれまで気付いていなかった要求や価値を創造し、一貫した要求アーキテクチャを構築することができます。
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