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オーストラリアのBA(ビジネスアナリシス)事情ビジネスとITを繋ぐビジネスアナリシスを知ろう!

さまざまな企業や大学でBAの経験を積んだ後、現在はBAの育成、コーチ、トレイナーとして活躍している、オーストラリア・メルボルン支部の代表であったMaria Mongomeryによる基調講演の抜粋である。

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「ビジネスとITを繋ぐビジネスアナリシスを知ろう!」バックナンバーへ。


 本稿は、昨年のIIBA日本支部の年次フォーラムで、当時オーストラリア・メルボルン支部の代表であったMaria Mongomeryによる「“Unlocking Business Brilliance: The Power of BAs in Driving Success and Sustainability”(ビジネスの輝きを解き放つ:成功と持続可能性を推進するBAの力)と題した基調講演の抜粋である。彼女は、さまざまな企業(航空、医療、金融、物流、政府/公益事業)や大学でBAの経験を積んだ後、現在はBAの育成、コーチ、トレイナーとして活躍している。

BAの役割

 BAは、シャーロックホームズのように、コンサル的な探偵であり、高い情報収集能力を備え、観察と、演繹的思考法で、証拠を解析する。BAは、コンサルタントであり、通訳であり、コーチであり、隠れたものを表に出し、ソリューションを導き出す。 BAは、ビジョンと現実のギャップを埋める。効果的なBA活動は、アイデアを成功に導くソリューションに変換する。

BA不在の企業への影響

 BAがうまく機能していないことの影響は甚大である。

1.スコープクリープと不完全な要件定義

 不確実な要件定義、多発する要件変更は、スコープクリープ、予期せぬコスト、実装された機能の欠陥や不正確性を生む。例えば、オーストラリアでは、行政のデジタルトランスフォーメーション(DX)のプロジェクトでは、プロジェクト要件の定義が不十分なために、大幅な予算超過が発生した。

2.ビジネス目的の達成の失敗

 プロジェクトが、ビジネスニーズを完全に実現できない可能性があり、資源を浪費し、企業戦略実現のチャンスを逃す。

3.システム導入率の低さや、ビジネスの中断

 不完全な要件は、ユーザーの要求を満たさないシステムとなり、結果的に導入率を低下させ、運用の中断を引き起こすこともある。

 このような事態を回避するためにも、企業がBAに投資することは、企業の成功と回復力に投資することなのである。

世界のBAの傾向

 下記の表は、2021年の地域別のビジネスアナリストの割合と実数、および2031年の予測を示している。

  • オーストラリアのBAは2021年に約2万人、わずかに増加すると予測。
  • アメリカは2021年に約25万人、2031年には27万4千人に達すると予測。
  • カナダは現在約5万人で、わずかな増加を予測。
  • ヨーロッパは2021年に30万人で、32万5千人に増加すると予測。

 特にアメリカとヨーロッパにおいては、多くのBAが存在しており、今後も着実な成長が予測されている。オーストラリアでも、BAの役割に対して、その重要性が認められており、今後数年間で年間約2.5%の成長率が見込まれている。


2021年の地域別ビジネスアナリストの割合と実数、および2031年の予測。

●オーストラリアの成功事例

 主要金融機関の1つであるのNABの、Next Gen. という次世代プログラムは、顧客体験の向上、意思決定プロセスの改善、コアビジネス機能とテクノロジーの統合を目的とした大規模なDXの試みである。このプログラムでBAチームがどのような課題に、どのように取り組んでプログラムを成功させたかを紹介する。主な課題は以下である。

  • ステークホルダー間の調整
  • 複数の部門のステークホルダー達のニーズの調整
  • 新しいテクノロジーとレガシーシステムの統合
  • データの整合性と品質
  • 変化に対する文化的抵抗

これらの課題の解決に向けて、BAチームは、次のアクションを取った。

ステークホルダーのエンゲージメントと要件収集:

  • BAは、ステークホルダーとの定期的なワークショップやインタビューを行い、障害となる項目を特定し、組織の目標に合致した要件定義を調整した。
  • BAは、オープンなコミュニケーションを促進し、ITチームとビジネスチームが互いのニーズを理解し、共通の言語と信頼を築くのを支援した。

柔軟で拡張性ある、ソリューションの設計:

  • ITチームとBAは新システムとレガシーシステムとを統合し、将来のアップグレードをサポートできる柔軟で拡張性のあるコンポーネント化に取り組み、混乱を最小限に抑えた。
  • BAは、複雑な要件を管理可能な成果物に分解し、既存のプロセスをマッピングして改善領域を特定するという重要な役割を果した。

データガバナンス標準の実装:

  • BAは、データ品質の維持と、データの正確性のために、データガバナンスが変革のすべての段階に組み入れられていることを確認した。

変化への対応の文化の促進:

  • トレーニングや、サポートを通じて、現場が新しいツールとワークフローを受け入れるよう尽力した。
  • BAは、現場の人々の、自分の意見を聞いてもらえるか、変化が自分の役割にどのように影響するか、などの懸念に答えることに尽力した。

 Next Genプログラムの成功は、ITとビジネスを橋渡しする強力なBAチームによるものである。

BA人材育成

 これからのBAに必要なスキルは以下である。

  • デジタルトランスフォーメーション:テクノロジーの導入とプロセスの最適化を通じて、組織変革を推進する。
  • アジャイルとリーンの実践:迅速に環境に適応し、効率と柔軟性を向上する。
  • 顧客中心:顧客のニーズと顧客からのフィードバックに焦点を当て、市場に共鳴する製品、サービス、顧客体験を設計する。
  • データ分析と深い見識:データを利用して、ビジネス戦略とイノベーションを導く実用的な洞察を明確にする。
  • 最新テクノロジーの統合:セキュリティシステムやAIツールなどの最先端技術を組み込んで、ビジネスオペレーションと顧客エンゲージメントを強化する。

著者プロフィール:永谷裕子(Hiroko Nagaya)

Ph.D., MBA,PMP,

北海道大学大学院非常勤講師、東京地方裁判所 IT専門委員, IIBA日本支部理事

さまざまな業種(金融、製造、小売、卸し、石油)の多国籍企業で30年以上、プロジェクトマネジャーや、PMOマネジャーとして、主にグローバルIT開発プロジェク トに従事。

PMI日本支部の事務局長を経て、現在は(株)アスカプランニング代表取締役として、プロジェクトマネジメントや、ビジネスアナリシスのコンサルティングや研修活動を行う


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