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DX推進・DX人材育成手段としてのビジネスアナリシス実践例ビジネスとITを繋ぐビジネスアナリシスを知ろう!(1/2 ページ)

ビジネスアナリシスはDXの成功に向けたアプローチとして非常に有効で、その事例を紹介する。

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 「ビジネスとITを繋ぐビジネスアナリシスを知ろう!」の第13回目となりました。DXに取り組み始めたものの思った成果が出ず苦労している場合も多いでしょう。その要因はさまざまですが、ビジネスアナリシスはDXの成功に向けたアプローチとして非常に有効です。今回は「ビジネスアナリシスの実践例」として、DXの成功に寄与するビジネスアナリシスの事例を紹介します。

1. そもそもDXとは?

 デジタルトランスフォーメーション(DX)は単なるIT技術導入ではなく、提供したサービスをエンドユーザーがどのように受け止めるか? どのように評価するか? で価値を測ることです。サービスの結果がプロジェクトの評価であり、単に良いものを提供した、とは根本的に違います。

2. DXはなぜ革命なのか

 DXの成功は、アウトプットの良し悪し(QCDなど)でなく、顧客からの評価(アウトカム)で判断されます。自社の事業範囲に留まらず、顧客が得る一連の体験でサービスの評価が決まってしまうという事です。このためDXを成功させるには、企業は自社の都合や領域を超え、顧客体験の最大化を考える必要がありますが「顧客が受けとる価値」は実際にサービス提供してみないと分からない、と言うジレンマがあるのです。


アウトプットとアウトカム(画像提供元:著者)

  こうした背景から、DXは単なるIT部門や業務部門が取り組む課題ではなく、企業全体が取り組むべき戦略的な取り組みとして捉える必要があります。

3. ビジネスアナリシスとDX

 霧の中を進むようなDXプロジェクトにおいて、ビジネスアナリシスはプロジェクトを可視化し効果的に進める非常に有効なアプローチです。具体的に、DXを成功に導くビジネスアナリストのミッションについて、4つの例をピックアップしてみます。

(1)ビジネスアナリストのミッション:プロジェクトの価値向上

 DXプロジェクトのスコープは、新たな市場機会や顧客インサイトからの価値創出。効果にリミットがあるコスト削減と比較し、期待効果は「無限大」です。プロジェクトの評価は、最終的にどれだけの価値をもたらすかによるので、ビジネスアナリストはプロジェクトの進行中に価値のモニタリングを行い、進捗に応じてスコープや戦略の修正を促す役割を担います。

(2)ビジネスアナリストのミッション:推進体制とファシリテート

 固定的な役割に基づく従来型のチーム編成では、DXで必須となる機動的な対処や軌道修正への対処が難しいので、ビジネスアナリストは、部門間や外部パートナーとの調整を促進し、異なる知見や意見を統合するファシリテータとして人や組織を繋いでいきます。また、リスクよりも創出価値・チャレンジを重視し、試行錯誤を奨励するプロジェクト環境を構築することも重要なミッションです。

(3)ビジネスアナリストのミッション:予算配分と投資評価

 従来、プロジェクト予算は要件定義に基づいて策定され、進捗に応じて消化されました。しかし、DXでは初期段階で全ての要件を明確にすることは困難なため、必要に応じて予算を柔軟に配分する考え方が必要となります。このため、ビジネスアナリストは仮説検証型のアプローチの中で、客観的に正しくKPIを分析・評価しプロジェクトが目的へ向かっている状況を可視化します。チェックポイントを設け、必要な軌道修正を促すことも行います。

(4)ビジネスアナリストのミッション:挑戦への意識改革

 DXは、環境変化や新たな技術などの外部要因で要件が変化することもあるので、従来の開発プロセスや基準では対応は困難です。ビジネスアナリストは、経営トップのコンセンサスを得ながら、組織全体で挑戦を受け入れる仕組みを作り、成功体験を広め更なる挑戦への動機付けを行います。新しいビジネスアイディアやプロジェクトが常に評価され、挑戦を奨励する文化が根付くことで、企業は持続的に成長し続けることが可能となります。

5.ビジネスアナリシス・DX実践企業の取り組み

 このように、DXによる変革を成功させるには、企業を取り巻く状況にアンテナを張り巡らしプロジェクトを機動的に進める事が必要です。しかし、決まった方法論は存在しません。これを座学で身に付けるのはハードルが高く、「実践的な取り組みによるDX人材育成と価値創出の成功体験」の輪を広げていく事が、現実的で効果的です。

 以下、実際に取り組みを行っている事例を紹介します。

1.兼松株式会社(以下 兼松)の事例

 兼松は、1889年に創業した総合商社です。中期経営計画の重点施策の一つとしてDXを掲げ、デジタル技術を活用した新しいビジネスモデルにより、環境や社会的課題に対応しながら持続可能な成長を追求しています。

(1)DXインキュベーションを行う「DX道場」

 DXを通じて、サプライチェーンの変革や創出を目指す兼松の、「DX道場」という取り組みは「小さな気付きから大きな変革のうねり」を作るエンジンとして成果を上げています。

(2)DX道場で練り上げ経営コミットへ

 道場に来る担当者は、デジタル変革により大きな価値を生み出すテーマを抱えています。道場では専門家が壁打ち相手となり、単なる改善や部分最適ではなくE2Eで価値創造が生まれるよう案件のポテンシャルを引き出します。数回の壁打ちを経て案件が練りあがると、変革の価値を検証するフェーズに進むことを経営決裁(DX推進委員会)にかけます。ここを通過すれば、担当者はプロダクトオーナーとなり、案件の位置付けも明確となります。

(3)トップダウンでのDX推進と予算

 道場から上がってくるような案件を検証するPOCのコストは、多くの企業では事業部が持つケースが通常です。しかし、価値創出は効果に対するコミットが難しいのでROIが出しやすいコスト削減や課題解決がKPIとなる改善活動になりがちです。兼松では、DXが「既存の枠組みで物事を考えない=ビジネスモデル変革」であることを経営トップが明確に示す意味も含め、DX推進委員会で決裁された案件は全社予算を活用します。

 変革推進に対し「コミットされ、守られている」と感じる事で現場社員は現状業務を遂行しながら、ワクワクして変革推進を起案し、自らプロダクトオーナーとして成功経験を刻み込んでいます。


兼松のDXインキュベーション(画像提供元:著者)

 兼松では、ビジネスアナリシスのアプローチを実践的に組み込んだ、こういった取り組みを通し、小さな成功体験を持った社員が、実戦経験を生かして他の社員をファシリテートしています。こうした自律サイクルを通し、DX変革を着実に進めています。

DX推進室 古川 海太氏 

 これまでは事業部からの相談を個別に受け付けており、担当者ごとの案件の偏りや、議論を重ねても一向に実行に移すことができない案件がたくさんありました。この度、DX道場とPoC予算制度を整備したことにより、相談窓口が一本化され、またDXチームで一丸となって案件に取り組むことができるようになりました。更にPoC予算のおかげで、練り上げたアイデアを実際に実行に移す事例が増えています。


DX道場の様子(画像提供元:兼松株式会社 広報室)

2.テンソル・コンサルティング株式会社(以下TENSOR)の事例 

 TENSORは、データ分析とAI技術を活用したコンサルティングサービスを提供する企業で、AIモデルの構築支援を行いクライアントの意思決定をサポートしています。専門性の高いチームが、最新技術を駆使し、顧客に合わせたカスタマイズソリューションを提供していますが、より顧客ビジネスに寄与することを目指しビジネスアナリシスの浸透を図っています。

(1)データサイエンティスト集団にビジネス思考を

 TENSORは技術者(データサイエンティスト)の4割がドクターという非常に専門性に特化した企業で、技術力においては業界随一と言えます。与信モデル作成からメガソーラーや航空機の故障検知モデル作成まで、分析対象のスコープは非常に幅広く、事業は順調に伸びています。しかし昨今、数理モデルの精度だけでなく、分析結果がビジネスに直結することが求められていると感じています。

(2)データサイエンティストが顧客の深層ニーズの掘り起こし

 こうしたことから、データサイエンティストが、データ分析の先にあるビジネスの目的やマーケットを理解し、分析結果を業務改善や新マーケットの可能性として提言できる事を目指しています。多面的に分析を行い、結果には表れにくい分析データの特徴や癖を把握しているからこそ、思わぬビジネス機会のきっかけを発見できると考えています。取り組みとしては、ビジネスアナリシスの基礎からビジネス適用イメージまでの応用を座学中心でインプットし、実プロジェクトの中で分析内容解釈や顧客企業への示唆整理を実践的な育成トレーニングとして実施しています。人事評価体系もこれに合わせイノベーションや挑戦を評価要素として取り込むなど見直しを行いました。

 こうした活動を通して、「分析を行う」という探求的な姿勢から、価値を生み出すという「創造思考×行動」へと社員の意識変革が進んでいます。

(3)価値創出と継続率向

 こうした実践的な取り組みの中で、大きく変化したのはプロジェクトの継続率です。従来は、分析業務は単発のプロジェクトが多かったのですが、半数近くが継続的な支援へと変化しています。また、データサイエンティストが顧客企業の課題やニーズを発見し営業担当と連携して提案活動を行う場面も出てきました。

 今後、データアナリティクス分野は、事業会社での内製化の流れが進むと考えられますが、TSRのこうした取り組みは、専門的なエンジニアリングスキルに加えてビジネス面での解決策や方向性をファシリテートできる上位のポジションとして、ニーズが大きくなることが想像されます。

代表取締役社長 田代 勇一氏

 BAの世界にふれるまでは、 AI技術の精度の高さを差別化要素としてお客様へ提案をしていました。 BAトレーニングの実施を通し、 お客様の課題に向き合い解決することで、 お客様のビジネスの推進・収益の向上を真の目的として、プロジェクトに取り組む姿勢が定着してきました。 結果として、プロジェクトの継続率が28%向上しました。 当社は、これからもお客様に寄り添い、信頼されるパートナーとなれるようBAをスタッフに浸透させていきたいと思います。

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