DX推進・DX人材育成手段としてのビジネスアナリシス実践例:ビジネスとITを繋ぐビジネスアナリシスを知ろう!(2/2 ページ)
ビジネスアナリシスはDXの成功に向けたアプローチとして非常に有効で、その事例を紹介する。
6. 事業戦略の成否に寄与するビジネスアナリシス
紹介したように、単に既存事業の延長線上に新しいDXの価値を創造することは「言うは易く行うは難し」だと思います。本質的な変化を求められるビジネス環境において、顧客や利用者の視点からビジネス価値を創造するために、ビジネスアナリシスのガイドであるBABOK(Business Analysis Body of Knowledge)を活用することは有効です。今回ご紹介した事例でもよく使われる、2つの知識エリアについて触れます。
(1)BABOKの知識エリア例(引出しとコラボレーション、要求アナリシスとデザイン定義)
「引き出しとコラボレーション」のタスクは、ステークホルダからのニーズやインサイトを体系的に引き出し・収集し、新しいビジネス機会を発見する手法です。本タスクでは、顧客インタビューや観察、ワークショップなどの手法を用いることで、真のニーズ・インサイトを掘り起こします。このプロセスにより、顧客が実際に望んでいる事の意味と価値を明らかにし、それに応じたビジネスモデル仮説を構築することが可能になります。
また、「要求アナリシスとデザイン定義」タスクは、顧客を中心に据えた新しいビジネスプロセスやサービスのデザイン創造を支援します。このタスクでは顧客視点で、あるべきE2Eのカスタマージャーニーを詳細に検討・分析し、そのプロセス全体を最適化することなどをサポートします。
例えば、コールセンター業務の変革を考えてみます。「引き出しとコラボレーション」を活用しコールセンターへ電話をしてくる真の理由を探ります。本来、電話は面倒なのでかけたくないはずなのになぜかけてくるのか。そして電話する真の理由がホームページの情報が不足していたり、関連会社にリンクだけとばしていたり、キャンペーン内容の分かりにくさだと判明した場合、顧客基点で解決策の仮説を立てます。
そして「要求アナリシスとデザイン定義」の手法で仮説を具体化します。顧客が架電する前の状況から、カスタマージャーニーを作成し、企業・関係会社全体で顧客ストレスが発生しないビジネスモデルを検討、業務プロセスに落とし込み変革を進めるのです。これには、企業文化の変革や従業員のスキルアップ、ステークホルダ調整などさまざまな要件が必要ですが、ビジネスアナリストがファシリテートすることで、顧客から評価される大きな価値創造へと繋げることが期待できます。
7.最後に……ビジネスアナリシス活動を自己評価する7つのポイント
DXは、企業が従来の枠を超えた領域で、E2Eのビジネスモデルを考えられるかが鍵です。それには、これまでの垣根を超えたパートナーシップやサードパーティーとのデータ共有など、大きな意識改革と広範な視点が必要です。
この様に、ビジネスアナリシス活動は、なかなか周りに相談する事が難しい、孤独な取り組みが多いと感じます。こうした中で、手段が目的化していないか、日和ったり現状維持に流されていないかなどなど、活動を自己評価する観点を7つ挙げてみました。皆さんぜひ、自己チェックの参考としてみてください。
(1)視点を転換する
- 皆1人の消費者。顧客から見た価値観でビジネスを考える。
- 業務から顧客を見るのでなく、顧客から業務を見る。
- ×顧客の為の業務を設計するか⇔〇顧客は何を望むのか
(2)改革は発明でない
- 既に導入しているデジタルツールを「手段・業務部品」と捉えれば、今の業務を変え利益を増やせることもある。
- ToBeは遠くではなく、まずは足元にもないか考えてみる。
(3)顧客基点で前提と制約を区別する
- 「今」の業務を「担当や分掌を越えた全体」で見直し、本当に必要なモノと必要だと思い込んでいるモノを区別する。
- 出来ない事が無理なのか(制約)、無理と思っているのか(前提) 考える。
(4)関係者を出し尽くし利害を理解する
- 面従腹背や総論OK・各論NGは、相手の立場、背景や隠れた心理を理解していないから起こる。
(5)出来ることを計画する
- 言葉やイメージでゴールや効果を妄想してはいけない。
- 出来ると思ったことしかできない。
- 組織ケイパビリティを見極めて出来る事を進める、まず準備する。
(6)目的と手段・KPIを共有する
- 目的を正しく可視化する。KGI、KPIで目的効果を定義・共有し、プロジェクトを評価・共有すれば、手段が目的化する事はない。
- システムは道具でありビジネス価値創造が目的を常に意識。
(7)環境や常識の差異を意識する。
- 国や地域、立場や生活環境など、異なる個々人の「背景」「普通」という感覚を常に意識する。
著者プロフィール:成田剛史、CBAP
IIBA日本支部 事業開発担当理事
システムエンジニアを経てビジネスアナリストとして活動。ビジネス変革や業務変革の支援、PMOによる実現サポートを軸としたビジネスアナリストの活動を通し、ITを道具とした変革のファシリテート支援を実施。
2015年以降は、基本的なビジネスアナリシス・DXの研修に加え、実プロジェクトを題材に立ち上げ〜推進の伴走支援を行い、アウトカムを創出する実践×育成の企画・講師を実施。
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