採用DXの次の一手。御社はカルチャーを語れても、スタイルを語れるか:早期離職を避けるには(1/2 ページ)
現代の採用の勝ち筋は、福利厚生や、風通しのよさといった「カルチャー訴求」から、価値観が現場の意思決定や行動にどう落ちているかを伝える「スタイル訴求」へと変化している。「いい人が採れない」といった悩みの背景には「会社の価値観」を示し切れていないのではないだろうか。
採用DXの本質は、ツール導入や効率化だけではありません。データやテクノロジーを通じて、「どんな価値観で働く人と出会い、共に成長するか」を再定義することでもあります。
現代の採用の勝ち筋は、福利厚生や、風通しのよさといった「カルチャー訴求」から、価値観が現場の意思決定や行動にどう落ちているかを伝える「スタイル訴求」へと変化しています。
「いい人が採れない」「優秀な学生に辞退される」「応募自体が集まらない」。
こういった悩みの背景には、制度や雰囲気といった表層的な情報で終わり、仕事の進め方・判断基準・評価される行動といった「会社の価値観」を示し切れていない可能性があります。
警鐘:なぜ従来の「いい人を採る」採用は失敗するのか
「いい人を採りたい」……採用現場でよく聞く言葉です。しかし、今の時代、その考え方では採用はますます難しくなっていきます。
あなたの会社は、仕事の進め方や意思決定の速さ、リスクの取り方、情報共有の粒度といった「働き方の作法」を、候補者が自分ごととして判断できるレベルで語れているでしょうか。
「いい人を採る」採用は、どうしても「総合的に良さそうな印象」に寄りかかりがちです。結果として、相性は運任せになり、入社後のミスマッチや早期離職が発生します。
これからの採用で大切なのは、「いい人」ではなく「合う人」を採ること。つまり、価値観の相性が合う人を見極めることです。
そのために必要なのは、「会社の良さ」を誇ることではありません。どの価値観が、どんな局面で、どのような行動に表れるのか。候補者が自分の仕事に置き換えて想像できる粒度で語ることが求められます。
AIがスキルや経歴を自動評価する時代、企業が見極めるべき差は“数値化できない部分”にあります。それが「価値観」「判断軸」「スタイル」です。採用DXとは、スキルの自動化ではなく、スタイルの可視化に向かうプロセスでもあるのです。
スペック採用から、スタイルマッチ採用へ
入社後のミスマッチや早期離職につながる、価値観のズレを解消するために、今注目されているのが「スタイルマッチ」という考え方です。
突然ですが、就活生が企業に対して最も知りたい情報の一つは、「社員のとある一日の流れ」です。
ここでのポイントは、「一般的な一日」ではなく「あなたの会社で、ある社員が過ごしたリアルな一日」です。少し意外に感じた人もいるでしょうか。
彼らは、その中にこそ企業の空気や判断基準、仕事への姿勢が現れると感じています。つまり彼らは、「何をしている会社か」よりも、「どう働いている会社か」を見ようとしています。
この「どう」の部分こそが、まさにスタイルです。
同時に、企業側のスタイルもかつてないほど流動化しています。事業転換、M&A、AI、ジョブ型の拡大などにより、組織の「型」そのものが変わる時代です。採用を通じてスタイルを言語化し共有することは、変化の連続に耐える経営基盤の再構築でもあります。
カルチャーが制度や雰囲気といった表層の話に留まりがちな一方で、スタイルは「なぜその行動が生まれるのか」を説明できる状態を指します。
言い換えれば、価値観がどう行動に落とし込まれているかまでを含む概念です。スペック(スキルや経歴)やカルチャー(環境)ではなく、スタイル(価値観と行動様式)でマッチングする。これが、これからの採用の主流となると考えています。
スタイルを武器にした企業の変革
スタイルを武器にした企業は、採用の在り方そのものを変え始めています。これまでのように「求職者に選ばれる会社」を目指すのではなく、自社の価値観を明確に示し、共感でつながる仲間を集める会社へ。採用を単なる人事領域ではなく、経営戦略の一部として再定義する動きが広がっています。
とくに令和に入り、求職者のキャリア観は大きくアップデートされました。会社が一生守ってくれる時代ではなく、頑張れば出世できるという直線的なキャリアも通用しません。
転職を前提にキャリアを設計するZ世代に響くのは、どんな価値観で働けるのか、どんな意思決定が行われているのか。つまり、会社としてのスタイルです。
さらに、情報の取り方にも変化が起きています。合同説明会やナビサイトを経由する「とりあえずエントリー」が減り、SNSや自社メディアなどを通じて企業を深く理解した上で応募する“本気のエントリー”が増えています。選考通過率・内定承諾率のデータを見ても、応募数の多さよりも、「どんな文脈で出会ったか」が採用成果を左右する時代になっています。
スタイルを発信する企業は、SNSでも共感を軸にした採用広報が可能になります。結果として惹きつける力が格段に高まり、その取り組みは採用だけでなく、組織の意思決定や人材育成のあ在り方までも変えていくのです。
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