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ビジネスアナリシスとサステナビリティ(前編)――なぜいま、ビジネスにサステナビリティが必要なのかビジネスとITを繋ぐビジネスアナリシスを知ろう!(1/2 ページ)

サステナビリティが現代のビジネスにおいて不可欠である理由と、組織が抱える構造的課題とは。

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 SDGsが一過性のブームやスローガンとして語られた時代を過ぎ、いま企業は「サステナビリティをどう経営に統合するか」という具体的課題に向き合っています。

 環境・社会・経済の持続性を両立させるサステナビリティは、もはやCSRや広報戦略だけではなく、投資家・規制・市場・人材の要請を1つの言語で結び、価値創造の設計に組み込み企業価値を高める経営テーマそのものです。

 本稿の前編では、サステナビリティが現代のビジネスにおいて不可欠である理由と、組織が抱える構造的課題を整理します。

 また、次回後編ではビジネスアナリシスの観点で課題の解決の考え方を記載します。

はじめに:過ぎ去ったブームではなく、経営テーマとしてのSDGs

 日本におけるSDGsの言葉の認知度は2019年ころから急速に拡大し、今では認知度は90%近くあります。

 しかし、言葉の認知度は増えても内容への理解は進まず「サステナビリティの停滞状態」が続いています。

出典:Japan Sustainable Brands Index(JSBI)プレスリリース

 SDGsは一時的なスローガンではなく、人類の持続的発展に向けた長期の到達目標として設計されています。したがって「宣言して終わり」ではなく、事業の更新とともに継続的に取り組み続けるべき基準だと捉える必要があります。

 日本では言葉の認知は急速に広まりましたが、日々の意思決定や評価制度にまで落とし込めている企業はまだ多くありません。その結果、活動が断片的になり「サステナビリティが停滞している」ように見える場面が生まれます。

 同時に、SDGsは海外からの一方的な要請ではなく、日本の人口動態、地域課題、産業構造、エネルギー事情といった固有の文脈に合わせてテーラリングできる枠組みです。自社とステークホルダーの現実に沿って再解釈し、事業機会として組み直す視点が求められます。

1. サステナビリティがビジネスに不可欠な根源的理由

 まず、SDGsが必要とされる根本には、地球環境の持続可能性に対する懸念があります。異常気象、資源制約、生態系の劣化ははっきりと事業リスクに直結します。供給網の寸断、原材料価格の変動、操業制約、保険料の上昇など、企業の経営構造に波及します。

 このとき鍵になるのが「ウェディングケーキモデル」の考え方です。


参照:SDGs “wedding cake” illustration presented by Johan Rockstrom and Pavan Sukhdev 

 環境が社会を、社会が経済を支える層構造として理解し、トレードオフではなく全体最適の設計を志向します。例えばエネルギー転換は環境の層だけの議論に見えますが、労働安全や地域雇用、製品価値の向上という社会・経済の層に同時に影響します。層間のつながりを見取り図として描くことが、SDGs17ゴールを単なる「個別の善行」ではなく「経営に効く」プログラムに変える第一歩になります。

2. 企業を取り巻く外部環境からの要請

 次に、外部環境の変化です。投資家の側では、ESG(Environment、Social、Governance:環境・社会・統治)の観点を織り込んだ資本配分が一般化しています。大型機関投資家はPRI(Principles for Responsible Investment:責任投資原則)に基づき、中長期のリスクと機会を評価するうえで、気候、人権、サプライチェーン、人的資本などの情報を財務と結び付けて投資をする「ESG投資」を重要視しています。

 ESG投資では単なる一過性のスコアの高低だけではなく、企業の方針が投資・オペレーション・KPIに落ちて持続的な成長に繋がっていることも問われています。

 同時に、情報開示の枠組みは高度化・複雑化しています。法律に基づく有価証券報告書の開示義務やコーポレートガバナンス・コードの開示義務など関連する制度改定により、サステナビリティ情報は「任意のPR」ではなく経営情報としての整合性が求められます。

 GRI、ISSB(IFRS S1/S2)、TCFD、欧州のCSRDなどの国際基準群にも目配りが必要です。さらに、温室効果ガス排出はScope1・2・3の視点で、自社だけでなくサプライチェーン全体を見渡した説明責任が生じています。


図表:主なサステナビリティ関連の開示要請

 重要なのは、これらを「対応項目の増加」という面倒なこととして捉えるのではなく、社内の共通言語として活用して企業価値向上に繋げる姿勢です。

3. 企業価値向上のための構造変革

 外部要請を受け身で開示の処理をするだけでは、面倒なコスト増に思いがちです。

 そこでCSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)の視点で考えることが、持続的な成長の条件になります。

 「共有価値」とは社会価値と経済価値の2つの価値で、社会価値と経済価値のバランスをとりながら両方ともスパイラルアップさせていくことがCSV経営です。

 ビジネスとは課題を解決してその対価を得ることです。つまり社会課題解決は善行や無償ボランティアなどのコストではなくビジネスとしても重要な要素です。

 社会課題の解決と経済価値の向上を同時に設計することで、エネルギー効率化はコスト削減と供給安定を、サプライチェーンの生活賃金・人権配慮は評判(レピュテーション)と需要の安定を、ダイバーシティや人材育成は採用力・イノベーションの質を高めます。

 また、企業価値の源泉は非財務資本(製造資本、知的資本、人的資本、社会関係資本、自然資本)に大きく依存しています。

 教育や安全、エンゲージメント、学習の仕組み、地域・顧客との協働関係、資源循環の設計力といった非財務の改良は、製品・サービスの質、原価、リードタイム、解約率、価格受容性といった指標を通じて財務成果に波及します。

 更に、顧客企業も非財務価値を高めることが市場から要求される中で、顧客の非財務価値を高める製品・サービスを提供することが企業に求められます。

 したがって、非財務KPIを財務KPIと同じ意思決定テーブルに載せ、因果を一本の線で語れるようにすることが、企業価値を高める構造変革の中核になります。

 ESGとCSVは企業が持続的に成長するための重要テーマです。


図:ESGとCSVのイメージ

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