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リーダーが実践すべき、部下との信頼を築く『大切の法則』(1/2 ページ)

部下をほめるとき、自分の価値観を相手にも求めたり、あいさつ代わりになっていないだろうか。相手の価値観を知り、どんな思いで行動しているのかに注目してほしい。

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「また何か言ってるわ」部下は上司の下心を見抜いている

 私はこれまで、さまざまな組織の現場を見てきました。経験を通して感じるのは、上司は「部下と信頼関係ができている」と思っていても、部下の目には“信頼できる上司”として映っていないケースも多いということです。

 信頼関係を築く手段として「ほめる」ことに注目し、部下を積極的にほめている人も多いでしょう。でも、無意識のうちに「ほめたのだから、いい結果を出してくれるよね?」と、見返りを求めていないでしょうか。

 部下は、上司の表情や声のトーン、何気ない一言から、言葉の裏にある本音を敏感に察知します。「優しい言葉をかけているけれど、サボっていると思われているな」「聞こえのいい言葉を並べて、機嫌を取ろうとしているな」といった印象は一瞬で伝わるもの。要は、部下は上司の下心を見抜き、「また言ってるわ」と感じているかもしれないのです。

 ほめ育を導入し、現在では離職率を大きく低下させた「社会福祉法人 千早赤阪福祉会」(大阪府)も、以前は信頼関係の構築で悩んでいました。「げんきこども園」や「石川こども園」など7つの園を運営し、地域に根差した保育を行う同法人。保育業界は「3年以内に新卒の約半数が辞める」と言われるほど離職率が高く、同法人でも若手職員の退職が相次いでいました。

 向井秋久理事長は、子どもを育てる中でほめることの大切さは感じており、日頃から職員にも前向きな声かけをしていました。しかし、「心が響き合うような信頼関係を築くには、自分1人がほめても限界がある」と痛感していたそうです。そこで私の講演を聞いたことをきっかけに、2018年から園全体でほめ育を始めることにしました。

 ただし、最初はうまくいきませんでした。職員は行事の準備や保護者対応に追われ、慢性的な疲労状態。そのため冷静な判断を欠き、ミスを他人のせいにしたり、指導が必要以上に厳しくなったりしていました。そんな状況では、心から人を認めてほめることなど不可能でしょう。むしろ「ほめる」という新しい取り組みに抵抗感をもつ職員もいて、現場の空気が悪くなってしまったのです。

組織の成果はリーダーの覚悟と本気度で決まる

 状況が好転したのは、リーダーである向井理事長が「まずは自分が変わる」と決めたことがきっかけでした。「みんなが辞めない職場をつくりたい」「ほめ合って助け合い、お互いに尊敬の念をもてる職場にしたい」と切望していた向井理事長。「自らが率先して行動しよう」と覚悟を決めました。

 ほめ育では、上司から部下へ「ありがとう」「成長したなぁ・すごいなぁ・好感が持てる」「期待していること」の3つの項目を書いて渡す「ほめシート」を活用しています。向井理事長は、“年間1000枚のほめシートを書くこと”を目標に掲げました。

 それからというもの、出勤前の早朝や夜のミーティング後など、わずかな時間を見つけては、ほめシートを書き続けました。時には深夜まで机に向かい、職員一人ひとりの顔を思い浮かべながらペンを走らせたそうです。そうして書くうちに義務感ではなく、「いいところを見つけることが楽しい」という喜びに変わっていったといいます。

 すると、職員にも変化が見られました。当初はほめシートを渡しても無反応な人や、「何が始まるのだろう」と不安そうな表情をする人もいたそうです。ところが次第に、笑顔で受け取る人が増えました。そして、「自分も書いてみよう」と思う人や、家族に書く人も現れたのです。

 この変化を生み出したのが、“返報性の原理”です。人は相手から何かを受け取ると、「自分も返したい」と感じる心理が働きます。向井理事長が諦めずに書き、渡し続けたことで、相手からもほめシートが返ってくるようになったのです。

 リーダーの覚悟は、言葉で示すものではなく、行動で伝わるもの。リーダーが本気で変わろうと覚悟を決め、本気で行動した瞬間から、組織全体が変化を始めるのです。

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