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「創造AI」が生み出す、新たな労働意義 – 日立 フェロー 矢野氏生成AIのその先へ、挑戦が生み出す幸福を追求する(1/2 ページ)

日立フェロー矢野和男氏は、生成AIの先にある「創造AI」を提唱する。「幸福は挑戦から生まれるもの」という考えの下、AIを知性の増幅器と捉えて新たな挑戦を促している。人と共進化し、組織の創造性を高めるAI環境とはどういったものなのか。デモを交えて披露した。

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 生成AIは人の仕事を奪う存在なのか、それとも人の可能性を広げる道具なのか――。日立製作所 フェロー 兼 ハピネスプラネット代表取締役 CEO 矢野和男氏は、この二者択一を退け、「創造AI」と人との共進化というビジョンを示す。

 本稿では、2025年11月11、12日の2日間にわたり、東京都文京区のホテル椿山荘東京で開催された、マーカス・エバンズ・イベント・ジャパン・リミテッド主催のCIO向け招待制カンファレンス「CIO Japan Summit」に登壇した矢野氏の講演内容を紹介する。

矢野 和男

「報酬により幸せになるのではない、幸せだから報酬が付いてくる」

 矢野氏はまず、20世紀と21世紀では「働く目的」の前提が変わりつつあると指摘する。

 20世紀型の発想では、人は経済価値を高めるために働き、その報酬で物質的豊かさを得ることで幸せになると考えられてきた。だが先進国のデータを見ると、一定以上豊かになっても幸福度はほとんど伸びていない。

 一方で、職場という場を通して「創造・挑戦・つながり」を感じること自体が、強い幸福感につながることが心理学・経済学の研究から分かってきた。働くことで得られる工夫や挑戦の喜びが、そのまま幸せであり、結果として新たな経済価値も生む――矢野氏は、この循環こそが21世紀の「働く」概念だと説明する。

図1

挑戦と能力拡張の延長に存在する幸せな「フローゾーン」

 こうした議論を机上の空論に終わらせないために、矢野氏らは20年にわたり、人の行動と幸福感をデータでとらえる研究を続けてきた。

 日立は世界に先駆けてリストバンド型センサーを開発し、身体の動きを24時間365日記録した。矢野氏自身も2009年から2020年まで12年間、左腕の動きを取り続け、その変化を可視化している。海外出張や引っ越し、コロナ禍の在宅勤務への移行などが、活動パターンとして浮かび上がるという。

 さらに、誰と誰がどれくらい会話しているかといった「つながり」のデータも取得し、1500人規模の組織のコミュニケーション構造をネットワークとして描き出した。こうしたデータをさまざまな企業・職種で集め、延べ1000万日、10兆個以上のデータから、「幸せで生産的な人」は何が違うのかを解析してきたという。

 そこで鍵になったのが、心理学者ミハイ・チクセントミハイが提唱した「フロー理論」だ。

 仕事の難易度(チャレンジ)と、自分の能力活用度の2軸で状態を整理すると、次のような4象限が現れる。

  • 能力は発揮できているがチャレンジが低い、「余裕・退屈」領域とも言える「コンフォートゾーン」
  • チャレンジ性が低く、自分の力も活かせていない「充電」領域
  • チャレンジングな状況だが能力発揮が追いつかない「緊張・不安」領域
  • チャレンジ性と能力活用がともに高い「フロー・夢中」領域
図2

 矢野氏の分析によれば、人はこの4象限を時間とともに「右回りのスパイラル」で移動している。

 コンフォートゾーンにとどまっていると、環境変化で次第に苦しくなり、ゾーンを広げるために緊張領域に踏み出す。そこで力を振り絞るうちに能力が引き上がり、フローに入る。フローは、「力を生かして背伸びしてやっと届くような仕事」に夢中になっている状況だ。熱意が高く、楽しさに溢れ、成長を実感できる。

 フローの状況にある人にインタビューすると、営業もプログラマーも芸術家もスポーツ選手も、職種を問わず皆が、「変化していく周りの流れに乗っている感覚で高いパフォーマンスを発揮できた」と答えるという。そのような特性があることから、この状況を「フロー」と名付けられた。

 やがてそのフローも慣れてコンフォートゾーンになり、再び緊張度の高い挑戦へ――こうした循環を繰り返しながら、仕事のレベルと幸福感を同時に高めていく。

 フローを経験した人に「仕事の報酬は何か」と尋ねると、「お金」ではなく「仕事そのもの」が返ってくるという。制約の多い現場であっても、自ら突破口や選択肢を探す「創造性」を発揮している点が共通していた。

日本企業に足りないものは「効率化」の先にある創造性

 こうした研究から、矢野氏は「生産性」「幸福」「創造性」は同じ実態の別の側面だと考えるに至った。創造的に問題解決している現場は業績も良く、働く本人も充実感を得ている。

 一方、日本企業は標準化や品質管理など効率化の面では世界トップクラスだが、「創造性」を組織のテーマとして正面から扱う場面が少ないのではないかと矢野氏は指摘する。効率化を突き詰めるあまり、「はみ出し」や新しい問いを立てる余地が削られ、結果として成長のボトルネックになっているという見立てだ。

AIは人を代替するのか、それとも「知性の増幅器」か

 ここで矢野氏はAIの捉え方を二つに分ける。

 1つは、人や仕事を置き換える「人間の代替」としてのAI。もう1つは、人の能力や知性を増幅する装置としてのAIであり、こちらをエンゲルバートの概念にならって「IA(Intelligence Amplifier)」と呼ぶ。

 人間らしくない単純作業や反復・正確さが求められる仕事はAIに任せればよい。しかし、価値観の調整や新しい発想が求められる仕事は、「AIをまとった人間」が行うべきだと矢野氏は語る。議論すべきは「AIか人間か」ではなく、「AIか、AIでを武装した人間か」だと強調した。

「指示AI」「予測AI」「生成AI」そして第4世代「創造AI」

 矢野氏は、AIの進化を次のように整理する。

  1. 指示AI:GoogleのPageRankに代表されるような、アルゴリズムで検索結果を並べ替えるAI。ウェブ検索を通じて巨大なIT産業を生み出した
  2. 予測AI:ユーザーの行動履歴や購買データから「次に何をしそうか」などを予測する機械学習。デジタルマーケティングやレコメンドの基盤となり、FacebookやYouTubeなどを支えた
  3. 生成AI:トランスフォーマーの登場により、人間の言葉の「正しさ」ではなく「文脈の流れに沿うもっともらしさ」を重視することで、自然な文章生成が可能になった。ChatGPTに代表される技術

 しかし、日々の経営課題の多くは「正解のない問題」であり、そこでは一般論を並べるだけの生成AIでは物足りない。矢野氏が次のステージとして位置づけるのが、第4世代の「創造AI」である。

矢野 和男

 創造AIの役割は、唯一の正解を素早く出すことではない。例えば、リスク・投資・人材・組織・営業など、経営にまつわる複雑な課題であれば、「どんな選択肢があり得るか」「どの利害関係者が何を重視しているか」「どんなリスクや機会が見落とされているか」といった視点を多面的に提示し、意思決定を支えることにある。

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