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「CISOは1人の経営者たれ」――ログの先の人を思う、LayerX CISO 星氏セキュリティリーダーの視座(2/2 ページ)

LayerXのCISO兼VPoEを務める星北斗氏の歩みと哲学。前職での技術トップや海外組織の立ち上げを経て現職へ。「CISOは事業を加速させる経営者である」と説き、AI時代のセキュリティ構築を主導する。一行のログの先にあるユーザーを思う、裏方としての矜持に迫った。

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事業を加速させるCISOの美学

──その後、2024年1月にCISOとしてLayerXへ参画されます。CISOの役割についてどう考えていますか?

星氏: CISOは、第一に「1人の経営者であるべき」だと考えています。事業を進めていくための機能、役割の1つとしてセキュリティは不可欠なものだからです。

 セキュリティというと、どうしても「守る」「止める」という印象が強くなりがちです。もちろん事故やお客さまの不利益を防ぐために守るべきものはたくさんありますが、やみくもに怖がりすぎてバランスが崩れ、事業の効率を落としてしまっては本末転倒です。

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Photo by 山田井ユウキ

 危ないことに対して「それはまずい」とストップをかけるのは、実は結構簡単なんです。難しいのは、大丈夫なことに責任を持って「大丈夫」と言うこと。両面の責任を果たすために技術や法律の知識・感覚を総動員し、トレードオフとトレードオンを考えることが、CISOの仕事だと思っています。

──CISOという立場で加入しましたが、現場とのコミュニケーションは難しくなかったですか。

星氏: もちろん現場からしたら、突然やってきたCISOを最初から信頼しづらいと感じた部分はあったかもしれません。ですから、LayerXに入社した直後は「この人がいると仕事が進む」「自分たちは安心して事業に集中できる」と同僚に思ってもらえることを優先しました。

 例えば、お客さまから依頼される「セキュリティチェックシート」を私が直接見て入社半年で大量に書きました。商談にも自ら出て、お客さまに当社のセキュリティ体制を直接説明し、心配に感じられていることを伺いました。現場の皆さんと直接コミュニケーションがとれたうえ、自社のシステムやお客さまといった、守るべきものについて理解する良い機会にもなりましたね。

 組織をリードする立場で参画するときには、いきなり改革を振りかざすのではなく、まずは事業と今の状況を徹底的に知ることが大事だと思っています。

 現在私はバクラク事業のVPoE(Vice President of Engineering)も務めていますが、VPoEはセキュリティとのシナジーが非常に大きい役割です。経営や組織、プロダクトにセキュリティをどう組み込んでいくかを考え、自身の責務において実行できるので、仕事の幅が広がっています。

AI時代のセキュリティと、未来の「当たり前」を創る夢

──LayerXはAIエージェントサービスの開発に注力しています。AI特有のセキュリティ課題にはどう向き合っていますか?

星氏: 現在の最大のトピックは、「AIの“ブラックボックス感”をいかになくしていくか」です。特に、AIエージェントは自律的にタスクを進めるため、裏側で何をしているのかが見えにくくなりがちです。

 だからこそ現在は、「AIが外部に向けてどんな振る舞いをしているか」を可視化し、継続的に監視できるようにすることを重視しています。

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Photo by 山田井ユウキ

 例えば、AIが事実と異なる情報をもっともらしく生成してしまうハルシネーションなどがAIセキュリティの文脈ではよく話題になりますが、社内に閉じたものであれば人間がチェックする業務プロセスを挟むことである程度は影響を抑えることができます。

 問題は、AIが外に何かをするときです。他のシステムとやり取りしたり、データを外部に送信したり、というケースで正しい処理が行われないと被害が大きくなってしまいます。

 また、従業員が業務でAIアプリケーションを利用する機会が急速に増えていますが、ここで見落とされがちなのが、業務利用とプライベート利用の境界です。私たちはこの境界をどう技術的に担保するかを、重要なテーマとして捉え、AIアプリケーションをサンドボックス環境で隔離して動作させる仕組みを作っています。

「1行のログの向こうに1人のユーザーがいる」

──仕事をするうえで大切にしている言葉があれば教えてください。

星氏: 私の根底にあるのは、クックパッドのインフラ部で語り継がれていた「1行のログの向こうに1人のユーザーがいる」という言葉です。

 我々の下には日々、膨大なトラフィックログが集まってきます。軽微なエラーも少なからずあるわけですが、慣れてくると「たくさんあるトラフィックの1つ」と捉えてしまいがちです。しかし、その1行の裏で、ユーザーの今後が変わるような出来事が起きているかもしれません。

 例えば、セキュリティシステムのエラーで更新に失敗したトランザクションが、もしかしたらすごく大事な申請で、時間をかけて集中して入力したものだったかもしれない。あるいは、次に大事な仕事が控えていて、めちゃくちゃ急いで頑張ったものだったかもしれない。思いを乗せて送信ボタンを押してくれたのに、エラーになってしまい失望しているケースもあるわけです。

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Photo by 山田井ユウキ

 その1行の向こう側にある背景を想像し、トラフィックの価値を我々が勝手に過小評価してはいけません。見えない裏方の仕事だからこそ、システムだけではなく「人」に向き合う。その想像力と心配りを、これからもずっと大切にしていきたいと思っています。

──最後に今後のキャリアで成し遂げたいことは何でしょうか。

星氏: テクノロジーの力で「未来の当たり前」を作りたいとずっと思っています。我々が全力を込めて作っているプロダクトで、大きな社会課題を解決すると同時に、社会のインフラとして安心して使っていただけるものにしたいし、自分が関わるプロダクトや会社を「イケてる」ものにしたい。そのためにも、ログの向こうにいる人を思いながら、よりよいセキュリティやインフラをつくっていきたいです。

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