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» 2008年12月01日 10時00分 公開

混沌とする時代に立ち向かえ:CIOに求められる役割とは

企業を取り巻くビジネス環境の変化が激しい今、企業の基盤である情報システムは組織がビジネスや政策を推進するうえで欠くことのできない要素となった。それに伴い、CIOも従来のように情報システムを統括するだけでなく、経営戦略やセキュリティなど幅広い領域のスキルが求められている。これからのCIOのあるべき姿とは何か。早稲田大学 電子政府・自治体研究所次長の岩崎尚子氏がCIOの目指すべき方向性を示す。

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注目が期待されるCIO

 地球環境問題や自然災害、サブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅投資)に端を発する世界の金融不安、資源高など、昨今の社会環境の変化に伴い、CIOに求められている役割について議論をすれば恐らく数年前とは異なる様相を呈しているかもしれません。

 わたしは、2008年4月に「CIOの新しい役割」(かんき出版)を出版しました。その本の中で、わたしはCIOの歴史に触れています。CIOが誕生したのは1980年代前半の米国で、IT革命以降、CIOの役割は年々期待されつつあります。

 4回シリーズのうち、初回は、「CIOに求められる役割」についてお話したいと思います。

CIOの定義

 ご存じのとおり、CIOはChief Information Officerの略であり、最高情報責任者、あるいは最高情報統括責任者と訳されます。CEO(Chief Executive Officer;最高経営責任者)やCOO(Chief Operation Officer;最高執行責任者)、CFO(Chief Financial Officer;最高財務責任者、財務担当役員)などのいわゆる“CXO”とともに組織のマネジメントを実行するという経営幹部であり、ICT(情報通信技術)関連の業務全般を統括する責任者でもあります。

 わたしはCIOを「組織において、情報管理、情報システムの統括を含む戦略の立案と執行を主たる任務とする役員であり、変革のリーダー」と定義しています。CIOはITと経営の橋渡しを行い、組織のICT関連の経営を統括する責任者のことです。当シリーズでは主に企業CIOを中心に進めたいと思います。

CIOが必要とされる背景

 ここ数年で、CIOの重要性が高く評価されるようになりました。日本では2006年1月19日に政府のIT戦略本部が策定した「IT新改革戦略」によって、企業、行政、地方自治体、病院、大学、小中高校、特定非営利団体にCIOは必要であるといわれています。

 さらに2008年度から始まった「金融商品取引法;日本版SOX法(以下J-SOX法)」によって上場企業ならびに連結子会社を対象とした会計監査制度の充実と企業の内部統制が求められるようになりました。相次ぐ財務の不祥事やコンプライアンスの欠如を防止するために、上場企業、連結子会社を対象として、会計監査制度の充実を図るべくCIOの設置が要求されているのです。IT経営のビジョンに沿った形で、企画からシステム開発へ、導入から運用へといった一連の流れの中でITガバナンスを構築する必要があるのです。米国で行った調査では、調査対象者の約7割がCIOはSOX法の影響を受けているとし、SOX法がCIOに与えるインパクトの大きさを指摘しています。SOX法は、CIO活動を大きく前進させた法案といえるでしょう。

 J-SOX法によって上場企業ならびに連結子会社へのCIOの設置が求められる中で、深刻な問題はCIOの人材不足です。日本における上場企業とその連結子会社は数万社あるにもかかわらず、日本のCIOは現在数千人にとどまります。人材不足であることは周知の事実です。

 このほか、米国では、2001年の同時多発テロを契機にCIOの設置が加速しました。突発的な自然災害や緊急時においてCIOの活躍、ベストプラクティスが数多く紹介されてきたことで、CIOの存在は急速に脚光を浴びたのです。 Y2K問題(2000年)や米国南部を襲ったハリケーン、リタやカトリーナ(2005年)などの災害に対する情報セキュリティへの偏重は、米国企業のCIOの位置付けを大きく飛躍させるものでした。社会システムの変容や歴史的なプロセスの変化の中で、組織内外のガバナンスを強化する動きは必要不可欠になっています。

CIOの歴史

 CIOは、IT革命の開花と同時に誕生し、IT社会の急激な変化と発展に伴って、求められる役割も変化しています。CIOの歴史は大きく次の3つに分類することができます。

  1. 1980年代初頭から90年代初頭が第1世代CIO
  2. 1990年代中頃が第2世代CIO
  3. 2000年代が第3世代CIO

 CIOが誕生する以前の1960年代から70年代後半には、ITはDP(Data Processing:データ処理)部門が管理し、データ処理を行っていました。DP職こそCIOの前身ともいわれていますが、決定的な違いは経営管理能力の有無です。1970年代の業務のオンライン化は80年代に加速し、事務処理が効率的に行われ、コスト削減に成功し、新しいビジネス活動が誕生しました。1980年代に情報システムの地位が向上すると、集中管理されていたデータは分散化し、情報資源の管理や調整、アーキテクチャーの統合化など、CIOは社内や長期的な視点での競争力強化を視野に入れた情報システムの管理が要求されるようになりました。

 その後、1990年代の爆発的なインターネットの普及に伴いITは企業の発展と成功に重要な役割を担うようになります。ERP(統合基幹業務システム)の本格的な実施に伴う競争力の強化や優位性を生み出すことが、企業目標に据えられる時代に突入します。CIOには戦略的経営だけでなく変革的経営を企画、提言することが新しい任務課題として浮上し、急速に普及したインターネットは、既存の社会経済構造を大きく変革させる一大潮流となったのです。

CIOの役割の拡大

 ITを戦略的に利用することによって組織の全体最適化を目指し、膨大な情報の中から、価値ある情報を選び出し、生かしていくキーパーソンがCIOです。かつては、CEOが組織のすべてのプロセスを管理、経営する責任者でしたが、情報システムがビジネスや政策推進の面で決定的な要素となるにつれ、CIOの存在が拡大してきました。組織内のCIOの職位が向上し、ほかの役職者やステークホルダー、株主への説明責任も要求され、高度なコミュニケーション能力が問われるようになりました。目覚しい情報社会の進展の中で、CIOはシステム環境の大きな変化に対応し、ビジネス、戦略、技術開発、標準化、そしてセキュリティなどの新領域を任されるようになります。

 CXOについては、次のような役職もあります。

  1. ハードウェアやソフトウェアなどテクノロジーを基に事業戦略を立案し新たな業務組織や業務プロセスを創造し、通信と放送の融合も目指すCTO(Chief Technology Officer;最高技術責任者)
  2. 企業が所有するノウハウや知識、データベースを再構築して組織やプロセスを再編成し、情報システムに適用するCKO(Chief Knowledge Officer;最高知識責任者)
  3. リスクマネジメントやIPR(知的財産権)、コンプライアンス、デジタルコンテンツによる知的所有権を担当するCRO(Chief Risk Officer;最高リスク責任者)
  4. 財務や内部統制をマネジメントするCFO(Chief Financial Officer;最高財務責任者)
  5. セキュリティの保全とリスク管理を担うCSO(Chief Security Officer;最高セキュリティ責任者)

 CIOにはこうしたほかの役職についてもある程度の多面的な知識やコンピタンスが求められるようになりつつあります。

CIOの拡大する機能と役割 「CIOの新しい役割」(かんき出版)より CIOの拡大する機能と役割 「CIOの新しい役割」(かんき出版)より

CIOの進化

 CIOは時代の変化や組織形態の変革によって少しずつ進化してきました。例えば、1980年代末から1990年代初頭にかけてITはツールという認識が高く、特有の専門性が多く求められていました。情報システム部門出身者のCIO比率の高さも物語っています。ネットワーク環境が整備されると、ITによる競争力を強化する試みが盛んになり、90年代後半には「IT戦略」や「業務革新」、「研究開発」がCIOの任務課題として浮上してきました。CIOには、情報システムの構築や運営に関する技術的能力だけでなく、CEOをはじめとする経営陣や役職者に対して適切な報告・助言を行うことも求められ、経営戦略に対する深い理解と提案力が要求されるようになりました。さらに、IT戦略の立案から実行、業務プロセス改革や最適化によって、経営や業務のあり方の見直しの基礎となる指針を期待されるようになりました。

 2000年代に入ると、大規模なシステム開発やIT投資への理解を得るために組織内のコミュニケーション力や、社員やチームを率いるためのリーダーシップこそが円滑な組織運営の鍵になることが明らかになってきました。

ビジネス戦略への造詣

 CIOの役割の力点は次第にビジネス戦略へとシフトし、職責が向上しつつあることは事実です。さらにCIOへの期待は、企業や政府、自治体、NPO(非営利団体)など特定組織に固執せずに拡大しています。戦略性が重視される新潮流は、社会背景に呼応するための手段であり進化です。CIOは環境の変化に影響を受けやすいのではなく、変化に素早く対応し、順応できる――時代のニーズをうまくキャッチアップし、ITのみならず業務プロセスのグランドデザインが描ける人材が望ましいといえます。

 ITの効果は、単なる効率性や生産性の向上、あるいは運用管理コストの削減のみならず、ITの戦略性を生かすビジネスによって成功をけん引するのです。そのためにはITの能力だけでも、経営の能力だけでも駄目で、この2つのスキルを両方兼ね備えることが重要です。

 最近では、従来なら社長やトップが遂行すべき業務をCIOに任せる企業も増えてきました。ITは経営に貢献する、経営をけん引する存在であり、企業戦略とIT戦略の一体化こそ、CIOの課題といえるでしょう。またCIOは、複雑かつ膨大な情報の中から価値ある情報の取捨選択を行い、速やかに導入していくイノベーター(変革者)でなければなりません。必然的に起こり得る変化や突発的な事象に場当たり的に対応するのではなく、迅速かつ適切に行動をとることがCIOに求められるのです。最近ではCIOがCEOへの登竜門となる企業、例えば、カルビーや三菱東京UFJ銀行など――も増えています。

 次回はCIOの新しい役割について述べたいと思います。

岩崎尚子氏

岩崎尚子氏

早稲田大学大学院国際情報通信研究科修了。国際情報通信学博士。専門はCIO。

現在、早稲田大学電子政府・自治体研究所講師。

国際CIO学会幹事。APEC、国連ITU、UNESCO等の情報通信分野における教育・人材育成に関わる国際協力連携に携わる。

著書に『CIOの新しい役割』(かんき出版 2008年)、『CIO学―IT経営戦略の末来』(共著、東京大学出版会、2007年)がある。


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提供:日本オラクル株式会社
企画:アイティメディア営業本部/制作:ITmedia エグゼクティブ編集部/掲載内容有効期限:2008年12月31日