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» 2017年11月27日 10時00分 公開

特別対談 根来龍之 早稲田大学ビジネススクール教授 × 福田譲 SAPジャパン社長:俊敏に「隙間」を見つけ顧客のニーズを満たす デジタルディスラプションを勝ち抜くためのセオリー

デジタル変革の波はもはや止めようがなく、大きなうねりとなって日本企業に押し寄せている。北米ではUberやAirbnbから始まり、SpotifyやWeWorkといった、デジタルテクノロジーを活用した破壊的なイノベーター、いわゆる「ディスラプター」がさまざまな業界で既存プレーヤーのビジネスを棄損し始めている。製造業が産業の柱となっている日本でも、インダストリー4.0でその復権を目指した欧州に負けじと、国を挙げて「IoT」(Internet of Things)に取り組み始めた。いずれはあらゆる業界がこのデジタル変革の波に飲み込まれていくだろう。世界トップランクのビジネススクールとして知られるスイス・ローザンヌのIMD(International Institute for Management Development)は、こうしたデジタル変革の潮流を「デジタルボルテックス(デジタルの渦)」と呼ぶ。例外なくおよそすべての企業が継続的な対応戦略を余儀なくされるからだ。IMDのマイケル・ウェイド教授らが著した「対デジタル・ディスラプター戦略 既存企業の戦い方」(日本経済新聞出版社)を先ごろ監訳した早稲田大学ビジネススクールの根来龍之教授とSAPジャパンの福田譲社長に話を聞いた。(ITmedia エグゼクティブ 浅井英二)

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── デジタル変革の大きなうねりは、伝統的な日本企業においても対岸の火事ではなくなってきました。デジタルテクノロジーが既存のビジネスを根底から変えてしまうという漠然とした「不安」と新たな成長機会へのおぼろげな「期待」が入り混じった、まさに「デジタルボルテックス(デジタルの渦)」に巻き込まれようとしています。このデジタルの渦では何が起こっているのでしょうか。

早稲田大学ビジネススクール 根来龍之教授

根来 デジタル化というと、音楽産業においてレコードやCDという物理的な媒体を必要としなくなった、つまり「製品」のデジタル化を思い浮かべる方が多いと思いますが、実際にはダウンロードによる音楽ファイルの販売は「チャネル」のデジタル化であり、楽曲の感想をソーシャルネットワークで発信・共有する「消費者との接点」もデジタル化しました。デジタル化の概念は、もっと幅広く捉えるべきであり、そのように考えるとほとんどすべての産業で対応戦略が迫られているといえます。

 そのとき大切なことは、顧客への「価値提案(バリュー)」から戦略を考えるということです。IMDの「対デジタル・ディスラプター戦略 既存企業の戦い方」にもそうした思想が貫かれています。デジタルボルテックスを回転させるのは、デジタルテクノロジーの力もありますが、同時に市場や社会において満たされていないニーズがあるからです。

 そうしたニーズを満たすもの、すなわちデジタル化によってもたらされる顧客視点のバリューは3つに分類されます。価格を大幅に引き下げる「コストバリュー」、新しい顧客体験をもたらす「エクスペリエンスバリュー」、ネットワークによってつながることでさまざまなプレーヤーを巻き込む「プラットフォームバリュー」です。

 既存企業は、こうしたデジタル化による価値提案の変化に対応した戦略を練る必要があります。

コネクテッドな世界で勝てない日本企業?

SAPジャパン 福田譲社長

福田 日本企業は、素晴らしい製品をつくり、ビジネスプロセスにも磨きを掛けるのですが、新しいビジネスモデルでゲームチェンジを仕掛けられると、苦戦を強いられてしまうといわれています。スマートフォンが良い例ですが、製品がインターネットに接続されることで生まれた新たなビジネスモデルの戦いでは、日本のメーカーはその強みを発揮できませんでした。しかし、わたしはあまり悲観していません。

 例えば、コマツは当初、建設機械が泥棒に盗まれないようにGPS機能を搭載したわけですが、オプションではなく思い切って標準搭載を進めたことで、顧客サービス強化やデータを活用した経営を実現し、さらに安全で生産性の高い未来の建設現場をつくる、という新たなビジネスモデルを産み出すことに成功しました。われわれSAPジャパンは、コマツが取り組んでいる建設生産プロセス向けのIoTプラットフォームを企画・運用する新会社、LANDLOGに参画しました。世界に通用する取り組みは、日本でも十分実現できると考えています。

 さまざまなものがネットワークでつながるコネクテッドな世界は、もはや近未来の話ではなく、「いま」の話です。日本のデジタル変革は、ちょうど夜が明けたところ、これからどれだけスピード感を持って進められるかが勝負でしょう。

既存事業との矛盾をどう解決すべきか

── 企業には、既存のビジネスがあります。多くの場合、デジタル化への対応戦略を練り、手を打つことは、矛盾を抱えることになるのではないでしょうか。

根来 デジタル化によって新たなバリューを提供していくと、多くの場合、既存の事業と矛盾する側面を生み出しますが、それは日本企業に限った話ではありません。この矛盾をどのように処理すべきか、万能な答えがあるわけでもなく、製品バリューの変革のスピードや範囲、そしてバリュー(価値提案)の変革のために、バリューチェーンの変革がどの程度必要かなどによって、企業ごとに異なる意思決定が求められます。それに対して、どの企業にも求められるのは、新たなバリューへのトライアルを支援・許容して素早く軌道修正する企業文化を醸成することだと思います。

福田 正直なところ、SAPもデジタル変革ではスロースターターでしたが、この10年でドラスチックに戦略転換し、今ではデジタルテクノロジー中心の全く違う企業に生まれ変わりました。9万人という巨大な組織ですから、内部では利害がぶつかり合いましたが、ドイツの本社から遠く離れたシリコンバレーに研究開発の拠点を開設し、デザインシンキングを大胆に取り入れたことで、企業文化から戦略まで大きく変わりつつあります。

 既存事業と新規事業は摩擦を生む宿命にありますが、どちらも企業にとっては生命線です。この2つをどう両立させるかが、経営者の腕の見せどころではないでしょうか。これは情報システムのモード1(守り)とモード2(攻め)を両立させる課題と似ています。

デジタル時代に必須のアジリティ

根来 デジタル変革において経営トップが果たすべき役割は大きいです。既存の企業は生き残るための「隙間」、すなわち変化の中から「バリューベイカンシー」(価値の空白地帯)を察知し、意思決定し、迅速に実行する能力が企業には求められるのだと思います。デジタル変革が進む中、バリューベイカンシーの窓が開く時間はわずかです。UberやAirbnbもテクノロジー的に卓越していたわけではありません。むしろ、ありもののテクノロジーやサービスを組み合わせ、タイミング良く決断し、迅速に実行に移したことで成功を収めることができました。

 既存事業とデジタル変革による新規事業の矛盾は企業ごとに異なる課題ですが、アジリティ(俊敏さ)はどの企業も備えるべき能力です。「察知力」「意思決定力」、そして「迅速な実行力」を備えたデジタル時代のアジリティ企業であれば、差し迫った脅威に対して迅速かつ効果的に対応、新たな市場機会を察知してつかみ、何が顧客のニーズを満たすのかを導き出し、迅速に行動して継続的に隙間を発見・創造していくことができるでしょう。

福田 わたしたちSAPでも、イノベーションはひと握りの天才のひらめきに依存するのではなく、意図的に、かつ組織的に起こすプロセスと考えています。そもそも、イノベーションは「発明」(Invention)ではありません。「新結合」と訳されるとおり、既知のものを新しい発想で組み合わせたり、他の業界では当たり前のことを異なる業界に持ち込むことでゲームチェンジを仕掛けられます。

根来 コマツのLANDLOGは、日本企業が取るべきデジタルボルテックスへの対応戦略としては、極めて秀逸です。プラットフォームをオープンにし、競合企業の建設機械からもデータを収集できるようにすることで、ハードウェアの製造だけでなく、ソフトウェアによるサービスプロバイダーへと生まれ変わろうとしています。おっしゃるとおり、すべてを自社で発明・開発する必要はありません。ドローンによる優れた測量技術が登場すれば、それを取り込み、ビジネスの幅を広げることができます。デジタルボルテックスでは、隣接する市場で起こっていることに俊敏に対応していくことこそ重要になってきます。

SAPはデジタル変革でもベストプラクティスを提供

福田 われわれSAPの最大の強みは、40年以上にわたって企業の業務システムを開発し、業種ごと、業務部門ごとのベストプラクティスとして提供してきたことです。これはわたしたちのDNAであり、何も変わっていません。デジタル変革においても、お客様とともに課題について考え、解決策を導き出し、普遍的でほかのお客様でも再現可能なものはどんどんアセット化し、広く提供していきます。

 先ごろ、スピーディーなデジタルイノベーションのためのシステムとして、IoT、AI、ブロックチェーンなどのテクノロジー、ベストプラクティス、アセット、そして方法論をまとめ上げた「SAP Leonardo」を発表しましたが、それは、ERPと同様、業界ごと、シナリオごとに再現可能なものをアセット化し、発射台をより高くし、イノベーションをより迅速かつ確実に進めることを支援するフレームワークです。

 特に方法論の中核となる「デザインシンキング」は迅速かつ新たな視点でお客様の課題を発見・定義・解決する手法であり、われわれSAP自身も取り入れ、企業文化として根付かせてきました。日本のお客様から期待されているのも、デジタル変革へのアプローチを一緒に歩んでほしいということです。ますます厳しさが増すグローバル競争の下、デジタル社会にどう適応していくのか、これはわたしたち日本人にとって大きなテーマです。お客様の視点に立った課題発見型のソリューション協創アプローチを、専門部署のみならず顧客対応する全社員が実践できるよう注力していきます。

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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エグゼクティブ編集部/掲載内容有効期限:2017年12月31日